213 里への侵入者
温泉騒動の翌日。
長であるゲンライさんの屋敷で泊まったけど、まあゆっくり眠れたかな?
昨日は色々と大変だった。
幻獣人族の里の天然温泉はとてもよかったのだが、のんびりする暇もなくゲンライさんと手合わせすることになったからな。
防戦一方でオレはゲンライさんの攻撃を受けていただけだけど。
まあでも拳を交えたためかゲンライさんのオレに対する印象が大分良くなった気がする。
あの後(幻獣化)したフウゲツさんにボッコボコにされてたけど。
(幻獣化)したフウゲツさんはなんというかラスボス級の強さと姿だった。
あれなら冥王とも渡り合えるんじゃないかな?
朝、目覚めてからは日課のアイラ姉の訓練に付き合った。
別の土地、国に来ようがやることは変わらない。
もちろんシノブやスミレ、エイミとミールも一緒だ。
ゲンライさんや他の幻獣人族の人達も何人かオレ達の訓練に参加していた。
他種族の訓練方法に興味があったとか。
アイラ姉の訓練を人族の基準にするのはどうかと思ったが。
それにしてもゲンライさん、昨日あれだけボコボコにされていたのに元気なものだな。
朝の訓練を終えて、朝食を食べた後一息ついた所で何か魔力の波紋? みたいなものを感じた。
何だ、今の感覚は?
「結界を抜けて何かが侵入してきたみたいね」
オレだけでなく他のみんなも感じたようだ。
フウゲツさんが違和感の正体を教えてくれた。
「ふん、性懲りもなくまた来おったか」
ゲンライさんが立ち上がり言う。
他の幻獣人族の人達も戦闘準備をしている。
また? 一体何が来たんだ?
探知魔法で調べると複数の反応が結界を越えて入ってきていた。
魔物か? いや、魔物の反応もあるけどそれだけじゃないな。
「何が来たのでござるか?」
シノブが問う。
ゲンライさん達の様子を見る限りだと友好的な感じじゃなさそうだけど。
「魔人族の者共じゃ。結界が弱まっていることでこうして侵入してくることがたまにある」
魔人族、つまり魔王の手先か?
魔王が存在することは知っていたが本格的な侵攻の話は聞かなかったからな。
向こうではオークの軍勢が現れた時くらいかな。
魔王の存在がほのめかされたのは。
こっちでは魔王軍の侵攻が進んでいるのだろうか?
「············もしかしてボクのせい?」
スミレが言う。
結界が弱まっているのはスミレが強化の儀式に必要な神樹の実を食べてしまったためだからな。
無表情だが責任を感じているようだ。
「スミレの責任ではない。以前から奴等はこの里の存在に気付き攻めて来ていたからな」
どうやら今回だけでなく何度も来ているみたいだな。
魔人族か······どんな奴だろうか?
以前にバリュトアークという封印されていた魔人を見たことはあるが。
それに何が目的で幻獣人族の里を攻めているんだ?
「必要ならば私達も手を貸すが?」
「ふっ、心配いらんわい。儂らの問題に客人の手を煩わせるわけにはいかん」
アイラ姉がそう申し出たがゲンライさんは首を横に振った。
まあゲンライさんのレベルは300を超えているし他の人達も200近くある。
さらにそのゲンライさんを上回るフウゲツさんもいるしオレ達の助けは必要ないかもしれない。
ゲンライさんは護衛の人達を連れて出ていった。
フウゲツさんは屋敷に残るようだ。
「ゲンライに任せておけば心配いらないわよ。私達はのんびり待っていましょう」
フウゲツさんが言う。
魔人族に興味はあるが余計なことはしない方がいいか。
―――――――!!!
そう思っていたら屋敷の壁が崩れ魔物が入ってきた。
大型の二足歩行の巨人だ。
手には巨大な棍棒を持っている。
[ギガトロール] レベル92
〈体力〉7990/7990
〈力〉1500〈敏捷〉330〈魔力〉0
〈スキル〉
(雄叫び)(力増加〈中〉)(渾身の一撃)
トロール······ゲームとかでよく見かける魔物だな。
レベルもそこそこ高いが、ほとんどの人がレベル100を超えている幻獣人族の里では力不足に見えるな。
こいつが魔人というわけではなさそうだ。
外を見ると魔物が里のあちこちで暴れていた。
トロール系だけでなくサイクロプスなどの姿もある。
「わわっ······た、大変だよっ!?」
「さすがに黙って見てるわけにはいきませんね」
エイミとミールが収納魔法で仕舞っていた武器を取り出して構えた。
アイラ姉やシノブ、スミレも武器を構えていた。
「ここまで本格的な侵攻は初めてね。今までは様子見だったのかしら?」
どうやら今回は敵も本腰を入れての侵攻らしい。
フウゲツさんも戦闘準備をする。
「フウゲツ姐さん! 魔物が大群で侵入してきたぜ! さすがに数が多い」
ユヅキが報告のためにやってきた。
外では幻獣人族の人達と魔物の戦いが始まっていた。
「仕方無いわね。レイ君、アイラさん、皆も悪いけど力を貸してくれないかしら?」
フウゲツさんが申し訳なさそうな口調で言う。
「ああ、もちろんだ。レイ、シノブ、スミレ、エイミ、ミール! 遠慮はいらん。全力で敵を排除するぞ」
アイラ姉の言葉に全員が頷いた。
言われるまでもない。
魔人だか魔王だか知らないがスミレの故郷で好き勝手させるわけにはいかないからな。