209 幻獣人族と先代勇者
「レイ君、アイラさん、シノブちゃん······あなた達はズバリ異世界人ね?」
フウゲツさんが確信を持った口調でそう言った。
何故わかったんだ?
鑑定魔法でオレ達を見たのか?
だがそんな雰囲気はなかったし、オレ達のレベルなら鑑定は難しいはずだ。
「何故私達が異世界人だと?」
アイラ姉が問う。
「かつての勇者と同じ特徴だからよ。黒い瞳なんて他に見たことないわよ?」
確かにこっちの世界でオレ達以外に黒い瞳の人は見たことないな。
というかかつての勇者ってエンジェと面識のある先代勇者のことか?
フウゲツさんは先代勇者と会ったことあるのか?
「ええ、会ったことあるわよ。過去に魔王軍がこの里に攻めて来た時に助けられたのよ。まあその頃の私はまだ幼かったけどね」
過去に魔王軍が攻めて来たことがあるのか。
というか先代勇者と魔王軍の戦いって何百年も前の話だよな。
もしかしてフウゲツさんって本当にお婆ちゃん?
「何か失礼なこと考えてないかしら? レイ君」
「いえ、何も······」
オレの考えを見透かされたように言われたので、咄嗟に視線を逸らした。
「勇者の加護を受けた人は驚くくらいのレベルアップをしていたわね。スミレちゃんもそうだと思ったのよ。そちらのエイミちゃんとミールちゃんもそうなんじゃないかしら?」
加護のことも知っているのか。
まあでも異世界人のことを知っているのなら都合がいいかも。
オレ達からも聞きたいことがあるし。
「そうですね。ワタシ達はレイさんから加護を受けています」
「ちなみにオレは勇者じゃないけどね」
ミールの言葉にオレはそう付け足した。
「あらぁ、レイ君は勇者じゃないの? じゃあアイラさん、シノブちゃんが勇者なのかしら」
「いや、私も違うぞ」
「拙者も勇者ではないでござる」
フウゲツさんの言葉にアイラ姉とシノブも首を横に振った。
「オレ達は異世界から訳もわからずに迷い込んで来たんですよ」
フウゲツさんにオレ達がこっちの世界に来た経緯を簡単に説明した。
「あらぁ、そうだったの。過去の勇者はどこかの国が異世界から喚び出したと聞いていたのだけどあなた達は違ったのね」
先代勇者はオレ達のように迷い込んだのではなく喚び出されてきたのか。
エンジェが異世界からの召喚術と送還術という技術があると言っていたからな。
勇者召喚というやつだろうか?
どこの国が先代勇者を喚び出したのかはフウゲツさんも知らないらしい。
「私達は元の世界に帰る方法を探しているのだが何か知らないだろうか? 過去の勇者が魔王を倒した後どうしたのかなど」
「ごめんなさいね、私も詳しいことはわからないわ。過去の勇者ともそこまで深い付き合いはなかったから」
フウゲツさんもそこまでは知らないか。
けどどこかの国が先代勇者を喚び出したのは確かか。それなら今まで通り探していればいずれ情報が手に入るかもな。
「······挨拶は済んだ。アイラ、ご主人様······早く帰ろう」
長の相手にうんざりしたのかスミレが疲れた様子でそう言った。
いつの間にか長だけでなく、何人もの幻獣人族の人達に囲まれていた。
「ま、待つのだスミレ! お前達も引き止めるのじゃ!」
「「「スミレ様、考えを改めてください」」」
もしかしてスミレって長だけでなく他の人達からも溺愛されてる?
スミレが里を追放されたと聞いた時は幻獣人族は閉鎖的な冷たい印象だと思ってたんだけど完全にイメージが崩れたな。
「ユヅキ! スミレがこんな考えを持ったのはお主の教育のせいじゃろう!? 責任を取らぬか!」
「······勘弁してくれよ長。スミレが素直におれの言う事聞くかよ」
ユヅキがため息つきそうな表情で言う。
スミレは早く帰りたそうだけど、このまま帰ったら問題ありそうなんだが。
「まあまあスミレちゃん、もう少しゆっくりしていきなさい。私もレイ君やアイラさん達の話をまだまだ聞きたいし。シノブちゃんからもスミレちゃんとの生活ぶりを聞きたいわ」
フウゲツさんがそう提案してきた。
まあオレも来てすぐに帰るのはどうかと思うし観光気分で幻獣人族の里を回りたいな。
けど幻獣人族の里は結界によって他種族の侵入を防いでいたよな。
余所者のオレ達が里に滞在しても大丈夫なのだろうか?
「うむ、そうじゃな! スミレが世話になったようだし歓迎しよう。我が里へようこそ、客人達よ!」
そう思ったのだが長があっさりそう言った。
この人が長で本当に大丈夫なのだろうか?
スミレのことになるとなりふり構ってられなくなるようだ。
というわけで、オレ達はしばらく幻獣人族の里に滞在することにした。
スミレはものすごく嫌そうな様子だったが。