208 改めて話し合い
長とスミレの対決は突如現れた女性が中断させた。
というかこの人、長よりもレベルが高いんだが。
二人の対決によって酷い惨状になっていた部屋は女性が他の幻獣人族の人達に指示してあっという間に片付いた。
「私はフウゲツ。スミレちゃんのお姉ちゃんよ」
女性、フウゲツさんが自己紹介をする。
横でスミレが「······お婆ちゃん」と小声でつぶやいている。
オレ達もそれぞれ自己紹介をした。
フウゲツさんに促されオレ達はそれぞれ席に着いた。
ユヅキは席に着かずに後ろで黙って立っている。
「ふふっ、主人が失礼したわね。スミレちゃんがここまで気を許してるんですもの。あなた達がスミレちゃんを奴隷のように扱ってないくらいわかるわよ」
長と違い冷静な判断ができる人みたいだ。
それにしても長に対して主人か······。
話を聞くとフウゲツさんは長の奥さんらしい。
ということはスミレのお婆さんで間違っていないようだ。
見た目はお姉さんの方がしっくりくるが。
年の差夫婦かな?
それとも見た目は若いけど長くらいの年齢なのだろうか?
怖くてそんなこと聞けないが。
長はフウゲツさんの隣で最初のような厳格な表情で座っている。
(真·覚醒)の効果が切れてまともに動くことも厳しいはずだがそんな様子を見せないな。
「······レイとやら、スミレを奴隷として扱ってはいないのだな?」
「あ、ああ······じゃなくて、はい。あれは誤解です」
どうやら冷静になってくれたようだ。
長は鋭い目付きでオレを見定めるように睨んでくる。
オレはスミレを奴隷から解放した経緯を説明した。
奴隷商人に騙され捕まっていた所を助け出し、首輪を外して自由にした······ということにした。
正確には少し違うが嘘をついているわけではない。
そしてその後はオレ達の育てた作物を気に入ってウチに居候することになったと。
「······というわけでボクはこれからは外の世界で生きていく。今日は別れの挨拶に来た」
スミレがそう締めくくった。
「あらぁ、スミレちゃん外の世界が相当に気に入ったのね。私も行ってみようかしら?」
「おい、フウゲツ······」
「冗談よ。少なくとも今は里を離れるわけにはいかないですものね」
本気なのか冗談かはわからない口調でフウゲツさんが言う。今は······?
ちょっと気になったが深く突っ込まないでおくか。
「スミレよ、考え直せ。外は魅力的かもしれぬが危険も多い。楽しいだけの世界ではないのだ」
「······知ってる。ボクだって色々な経験をしてきた」
確かにスミレはオレ達と会う前は奴隷として過酷な生活をしていたはずだし、オレ達と会ってからもアルネージュでの日々や王都での学園生活など色々と経験している。
外の世界が楽しいだけの場所ではないことくらい理解しているはずだ。
「それにボクは神樹の実を食べたことを謝ってない。さっきお爺ちゃんは言っていた。ボクはまだここに帰る資格はないはず······」
「な、ならば長の権限で特別に許そう!」
おいおい、そんなことでいいのか?
この人、融通の聞かない頑固爺さんかと思ってたが孫に激甘のタイプだったのか?
「······アイラから教えてもらった。そういうのは職権乱用······ダメなことだと」
「うおおーっ!! スミレェーーッ!!!」
「············暑苦しい······」
スミレに拒絶されて号泣する長。
なんか最初の厳格なイメージが崩れていくな。
スミレはそんな長を鬱陶しそうに見ている。
スミレは里にあまり帰りたがらなかったけど、ひょっとして長の暑苦しいスキンシップが嫌だったのかな?
「ふふっ、主人のことは気にしなくていいわよ。いつものことですもの。それよりもあなた達の話を聞きたいわね」
長とスミレを放っておいてフウゲツさんがオレ達に言う。
いつものことか·········まあ長の相手はしばらくスミレに任せよう。
「レイ君、アイラさん、シノブちゃんね。あなた達とスミレちゃんの関係はわかったわ。じゃあそちらのエルフのお嬢さん達とはどういう関係なの?」
フウゲツさんがエイミとミールを見て言う。
「ワタシと姉さんは純血ではなくハーフです。スミレさんとの関係は······」
ミールが学園での出来事を簡単に話した。
ミール達がハーフエルフだと聞いてもフウゲツさんは特に気にした様子は見せない。
「う、うん。ミールの言う通り······レイ君達を通じてスミレちゃんとは仲良くなりました······」
エイミがミールの話しに付け足した。
「あらぁ、スミレちゃん外では色んな人と仲良くなって本当に楽しそうにしてるのね」
ある程度雑談を交わしてスミレの生活ぶりを話した。フウゲツさんはスミレの現状を聞いて嬉しそうだ。
「後、聞きたいのはスミレちゃんの成長ぶりのことね。ゲンライ······主人と互角以上に渡り合うなんて正直私も驚いたわよ」
やっぱりそこが気になるか。
どう説明するべきだろうか?
だが、そう悩む前にフウゲツさんが核心的な言葉を口にした。
「レイ君、アイラさん、シノブちゃん······あなた達はズバリ異世界人ね?」