207 幻獣人族の長VSスミレ
幻獣人族の長にスミレを奴隷として扱っていると誤解されてしまった。
長はそのことに激昂し、周囲の護衛達にオレを捕らえるように指示した。
しかしスミレが護衛達を全員倒して長との一騎打ちになった。
「さあ来いスミレよ! お前の目を醒まさせてやろう!」
「ボクは負けない。目を醒ますのはお爺ちゃんの方」
長とスミレが激突する。
お互いに武器を持たずに素手での勝負だ。
長はかなり大柄な体格で、小柄なスミレとは一見勝負にならないように見える。
だがレベルはスミレの方が上だ。
「ぬぅおおーーっ!!」
「······っっっ!!」
長とスミレが組み合う。
やはりステータス的にはスミレの力が上回っているようだ。
長の方が力負けしている。
「ぬわはははっ!! ずいぶんと腕を上げたようだなスミレよ!」
「ボクの今の力はご主人様達のおかげ······」
長が楽しそうに笑い声をあげた。
スミレも珍しくわずかに口元が笑っている。
長とスミレが激しい攻防を繰り広げだした。
拳が、時には足技でお互いに攻撃を繰り返す。
レベルはスミレの方が高いが長の方が戦い馴れているな。
結構いい勝負をしている。
ここが屋敷の中だと忘れてるんじゃないか?
オレ達は倒れている護衛役の人達が巻き込まれないように安全な位置に運んでおいた。
長とスミレの闘いで部屋の中がえらい惨状になっていた。
「嬉しいぞスミレ! 儂を本気にさせるとは。ぬぅおおおーーっ!!!」
長が(真·覚醒)スキルを使ったようだ。
これはリンの持っていた(覚醒)スキルよりもさらに効果が高いようだ。
長の全ステータスが一気に跳ね上がった。
スミレのステータスを上回ったぞ。
「ボクも全力でいく」
スミレも対抗して構えた。
長の攻撃を正面から受ける気だ。
············これ結構まずくないか?
この二人が本気でぶつかり合ったらこの屋敷どころか周囲一帯が吹き飛びそうだ。
「レイ、シノブ、周りに結界を張れ。エイミとミールも私達の張る結界を強化してくれ」
アイラ姉もオレと同じことを思ったようだ。
オレ達は周囲に被害が出ないように結界魔法を使った。
「行くぞスミレ! 獅神剛爆掌!!!」
長が必殺技を放った。
長の両腕から魔力? なんか違うな······。
闘気と言うべきかな。凄まじい闘気が放たれた。
〈力〉と〈魔力〉を上乗せした攻撃みたいだな。
まともに受ければいくらスミレでもヤバいぞ。
素手で受けるのは無理だと判断したのか、スミレは武器を抜いた。
右手に奈落の剣、左手に大地の精霊剣の二刀流だ。
「······真空蓮無斬」
スミレが剣を交差させて長の放った闘気にぶつけた。
両方の剣に魔力を込めているようで、長の放った闘気と威力を相殺し合っている。
スミレは剣術を使えたのか?
最終的にはスミレの剣が長の闘気を完全に相殺した。
〈パーティーメンバー(スミレ)が新たなスキルを獲得しました〉
メニュー画面にそんな表示が出た。
スミレのスキル欄に(二刀流剣術〈レベル5〉)というのが加わっていた。
今スキルが加わったということはやはり初めて使ったのか。
「ふう······書物で覚えた剣技、ボクも使えた」
スミレがそんなことをつぶやいていた。
もしかして漫画で覚えた剣技を見よう見まねで使ったのかな?
「おお······儂の奥義を防ぐか。そこまで成長していたとは······」
なんか長が号泣しそうな勢いで感動している。
「ならば儂もすべての力を出し切り相手をしよう! ぬおおーーっ!!!」
長の身体が変化していく。
(幻獣化)スキルを使って全力で相手をするつもりのようだ。
(真·覚醒)と(幻獣化)のスキルが合わさり長のステータスがとんでもないことになっている。
これは本当に洒落にならないのでは?
「ぬぅおおおーーっ!!!!!」
「はい、そこまでですよ」
――――――――ガンッ!!!
鈍い音が響いて長が前のめりに倒れた。
長の変化が止まり、元の姿に戻った。
長の後ろには調理器具、フライパンを持った女性が立っていた。
もしかしなくてもフライパンで思い切り長の頭を叩いたようだ。
誰だろうかこの人?
幻獣人族の長の頭を躊躇なく叩くとは······。
「やりすぎですよゲンライ? スミレちゃんを殺すつもりですか?」
「フウゲツ、今良い所だったのだ! 邪魔をす······」
「なにか?」
女性が一睨みすると長が押し黙った。
一体何者だろうか?
見た所、黒髪美人のアイラ姉のような凛々しいタイプとおっとりタイプが合わさったような女性だ。
「······お婆ちゃん」
スミレがつぶやく。
え、もしかしてこの人スミレのお婆さん?
見た目はめちゃくちゃ若いんだけど。
「あらぁ? スミレちゃん、久しぶりで私の呼び方忘れちゃったのかな?」
女性が笑顔でスミレの両頬をグニ~ッと引っ張る。
スミレは無表情で抵抗することなくされるがままだ。
「············フウゲツお姉ちゃん」
「よくできました♡」
スミレの言葉に女性は満足そうにそう言った。