205 幻獣人族の長
ユヅキの案内でオレ達はスミレの故郷である幻獣人族の里までやってきた。
山奥の田舎村って感じだな。
人口はおよそ二千人くらいらしい。
見たところ、のどかな平和な感じで好感が持てるかな。
遠目からこちらを見ている村人の姿も見えた。
スミレやユヅキと同じで、見た目は普通の人族と何も変わらないな。
けど、レベルが高いな。
目に映った範囲の人だけでも全員100を超えている。さすがは高い戦闘能力を持つ種族だな。
「フム、なかなか良い雰囲気の里だな」
アイラ姉が言う。
静かで平和な感じが気に入ったようだ。
オレもこういう雰囲気は好きだ。
「まずは長に挨拶に行くぜ。スミレの帰還を待ちわびてるからな」
ユヅキの案内で長のいる屋敷に向かう。
しかし、スミレが里を追放されたという話はどうなったんだ?
まあ行けばわかるかな。
幻獣人族の里の建物は森に囲まれているためか、木造住宅が基本だった。
村の中心に一際立派な建物がある。
どうやらあれが長の屋敷のようだ。
「ユヅキだ。スミレと客人を連れてきた」
見張りの人が立っていたがユヅキがそう言うとすんなり通してくれた。
オレ達に視線を向けてきたが敵意は感じないな。
珍しいものを見ているような感じか。
屋敷の中も高級感溢れる立派な作りだな。
ユヅキの他にも案内役の幻獣人族が現れてオレ達はその後に続く。
そうして長の部屋だと思われる扉の前で止まった。
「長がお待ちだ。入室を許可する」
案内役の人がそう言って扉を開いた。
中は宴会場のような大広間だった。
護衛だと思われる幻獣人族が左右に数人ずつ立ち、奥にガタイのいい厳格な表情のお爺さんが座っていた。
この人が幻獣人族の長のスミレのお爺さんかな?
「我が里へようこそ、客人······そしてスミレよ。儂がこの里の長、ゲンライソウだ」
やはり長だったようだ。
威厳があり、若々しい筋肉を持つお爺さんだ。
[ゲンライソウ] レベル320
〈体力〉32600/32600
〈力〉14500〈敏捷〉12200〈魔力〉8500
〈スキル〉
(幻獣化)(威圧)(身体強化〈大〉)(心眼)
(状態異常耐性〈大〉)(真·覚醒)
さすがは高い戦闘能力を持つ種族の長だ。
レベル300を超えている。
護衛の人達はレベル200前後くらいだから頭一つ飛び抜けているな。
「私はアイラ。外では色々あってスミレと共に暮らしていた」
アイラ姉が名乗ったのでオレ達もそれぞれ自己紹介する。
長はオレ達一人一人を見定めるように確認した。
「スミレは何かと特殊だ。外の世界では迷惑をかけていたのではないか?」
「まあ、確かに掴み所のない部分もあったが特に不都合はなかったが」
長の言葉にアイラ姉が答える。
マイペースなスミレに何度か振り回されたことはあったけどな。
まあ言うほど迷惑なことではない。
「スミレ殿とは仲良く暮らしているでござるよ」
シノブが付け加える。
この中ではシノブが一番スミレと一緒にいる時間が長いだろうからな。
アイラ姉とシノブがスミレとの外の世界での暮らしぶりを簡単に話した。
オレとエイミとミールはその様子を黙って見ていた。
長は顎に手を当ててその話を聞いていた。
「しかしスミレは里を追放されたと聞いていたのだが、何故ユヅキを使って呼び戻しを?」
アイラ姉が一番疑問に思っていたことを聞いた。
ユヅキの話を聞く限りだと長はむしろスミレを連れ戻したいようだったが。
それなら何故追放した?
「スミレは大事な儀式に使う〝神樹の実〟を食べてしまったからな。儂としても追放までしたくはなかったが何の罰則も与えないわけにもいかぬのだ」
長の話だと本気で追放するつもりはなく、あくまでも一時的なものにするつもりだったようだ。
悪さをした子供に反省するまで家に帰ってくるな、といった感じに。
「そもそも正しい道順に進まなければ結界を抜けられないはずだったのだが」
幻獣人族の里を覆っている結界は外からの侵入者を拒むだけでなく、中から外に出るのも同じ手順を踏まないといけないらしい。
スミレは手順を知っていたのか?
「············適当に歩いてたら出られた」
どうやら偶然外に出られただけらしい。
そうして外に出たスミレは奴隷商人に騙されて捕まり、紆余曲折の末にここにいるわけか。
「さて、スミレよ。儂に言うべきことがあるのではないか? 一時的とはいえ追放した者を謝罪なく受け入れるわけにはいかぬ」
長がスミレに言う。
要は神樹の実とやらをつまみ食いしたことを謝罪すれば里に戻っていいということか。
感じた印象としては長はスミレを許したいようだ。
············問題なのはスミレ自身が帰りたいと思ってるかどうかなんだが。
「フム、スミレよ。長殿に言うことがあるのならはっきり言うべきだぞ」
「······ん、わかった」
アイラ姉が促し、スミレが長の前に出る。
長は厳格な表情でスミレの言葉を待つ。
「お爺ちゃん、今までお世話になりました。ボクは外の世界で生きていくからどうかお元気で」
スミレが敬語を使い頭を下げてそう言った。
ちゃんと挨拶が出来るようになっているな。
アイラ姉の教育の賜物だろう。
問題なのはそれが長の望んだ言葉だったかどうかだが。
スミレの言葉に長は厳格な表情が崩れ呆然としていた。一騒動ありそうな予感がしてきた。