204 スミレとユヅキの故郷
そして次の日。
オレ達はクラントールの町を出て、幻獣人族の里があるという森に向かった。
アルガスの森という名前らしい。
クラントールでは奥に行き過ぎると二度と出て来れなくなる迷いの森と言われていた。
出てくる魔物もレベル20~30と割と高めだ。
まあ、オレ達には問題ない程度の強さだけど。
今いるメンバーはオレにアイラ姉、シノブ、スミレ、エイミ、ミール、そしてユヅキだ。
エンジェはディリーとアトリ、そして他のメイドさんと一緒にクラントールの家で留守番をしている。
オレ達が里に行ってる間の食糧配給、その他トラブルの対処を任せている。
エンジェ達なら貴族などがちょっかい出して来ても大丈夫だろう。
むしろやり過ぎないか心配だが。
何度か魔物に襲われたが、特に問題なく森の奥に進んでいく。
しばらくすると巨大な魔力の膜のようなものが見えた。
以前に見た結界に覆われていた町、エイダスティアに張られていたものと似た感じだ。
「これが結界でござるか。以前見たエイダスティアのものと同じ感じでござるな」
シノブもオレと同じことを思ったようだ。
「え、お前ら結界が見えるのか?」
ユヅキが驚いたように言う。
ユヅキの話によると結界は普通認識できないものらしい。
結界に近付くと無意識に方向転換して触れることも普通はできないようだ。
「ワタシにも見えますよ」
「わ、わたしも······」
ミールとエイミにも結界は見えているようだ。
ある程度レベルが高いと見えるのかな?
まあ、確かによく考えたら結界が普通に見えてたら、そこに何かあるのがバレバレだものな。
「······ボクが出た頃より結界が弱くなってる?」
スミレが結界に手をあてながら言う。
「ああ、まだ結界強化の儀式が行われてないからな。強化されていればお前らにも認識できなかったんじゃないか?」
結界強化の儀式?
もしかして結界にも経年劣化とかあるのかな?
「まだ儀式やってなかったの? ボクが出てからずいぶん経ってるのに」
「お前が儀式に使う〝神樹の実〟を全部喰ったからだろうが! 籠三つ分も喰いやがって、よく一人で全部喰えたよな!」
スミレの疑問にユヅキが叫ぶように言った。
そういえばスミレが里を追放された理由がそんなのだったと聞いた覚えがあるな。
10年に一度の大切な儀式とか言ってたけど結界を強化するためのだったのか。
「あれくらい余裕。ボクのお腹を満たすには籠十個は必要······」
「胸張って言ってるんじゃねえ! 誉めてねえからな!」
どうやらスミレの大食いは同じ種族のユヅキから見ても異常なようだ。
前から思ってたがユヅキは里ではスミレの教育係をしていたと言っていたが、かなり苦労してたんじゃないだろうか?
スミレを捜すために外の世界を何ヵ月も動き回っていたし。苦労体質なのかもな。
「ここからはおれの後にしっかりついてきてくれ。正しい道順に進まないと結界を抜けられずに森をさ迷うことになるからな」
そういうことでユヅキを先頭に進んでいく。
結界は侵入者を弾くわけではなく、知らず知らずの内に惑わすタイプのようだ。
結界の中に入ると急に霧がかかったように視界が悪くなった。
けど探知とMAPで確認すれば現在地がしっかり把握できるな。
ユヅキについて行かなくても自力でたどり着けそうな気がする。
まあそんな野暮なことはしないでユヅキの後についていくけど。
さすがに結界の中は魔物は現れないようでただひたすらに道を進んでいった。
視界が悪い上に同じような景色なので普通なら間違いなく迷うだろうな。
「ユヅキ達の種族って外の世界と交流はしないの?」
歩きながらユヅキに雑談混じりに聞いてみた。
正しい道順さえ知っていれば出入りは自由だからクラントールなどの近くの町に繰り出すことも可能だろう。
「長に許可をもらった何人かは外に出てるぜ。里では手に入らないような物を調達する時とかな。ただ大抵はわざわざ外に出ようって奴はいないな」
どうやら完全に引きこもっているわけじゃないみたいだな。
ただ、当然ながら幻獣人族という身分は隠しているらしい。
スキルを隠蔽するアイテムがあるのだとか。
「エルフも昔はそんな感じだったみたいですよ。今は普通に外との交流をしていますけど」
ミールが言う。
確かにゲームとかのイメージだとエルフは他種族の交流を嫌う閉鎖的な感じかな。
王都では学園長や生徒としてなどで普通に人と交流してたが。
まあここはゲームじゃない現実だしな。
イメージ通りじゃなくてもおかしくはないか。
そんな感じに雑談しながら進んでいくとだんだん霧が晴れて視界が開けてきた。
森を抜けた所に町、というか小さな村が見えた。
小川が流れ、素朴な建物が並ぶ田舎村って感じだな。
「えーと、とりあえずようこそ、かな? ここがおれ達の住む里だ」
スミレの故郷、幻獣人族の里に着いたようだ。