203 ユヅキの報告
少し気を抜いてしまったためにあの姿に変身してしまったオレは、後始末を二人に任せて元の姿に戻り家まで帰っていた。
あの貴族の令嬢が何か仕掛けてくるかもとは思っていたけど、まさかあんなことになるとは······。
しばらくするとエイミとミールが気を失っている貴族の令嬢を連れて帰ってきた。
貴族の令嬢はとりあえずリビングのソファに寝かせておいた。
「レイさん、なんであの姿になってたんですか?」
ミールが小声で問いかけてきた。
いや、オレもなりたくてなってたわけじゃ······。
「姉さんもこの国にあの仮面の男が何故いるのか疑問に思っていましたよ。レイさんと結びつけてもおかしくありませんよ?」
確かにそうだよな······。
前にルナシェアにも正体を疑われていたし、今回はエイミにも疑われても不思議じゃない状況だ。
「いっそ姉さんにも正体をバラしてしまいますか? 今の姉さんは以前よりも人とコミュニケーションを取れるようになっていますし、うっかり口を滑らす可能性も低そうですよ」
確かに初めて会った頃のエイミはビクビクした印象だったけど、今は色々な人と打ち解けられるようになっている。
でも、だからと言って正体を明かすのは別問題だが。
「何があったのだ、これは?」
自室から出てきたアイラ姉がソファで寝ている令嬢を見て言う。
「少しばかりトラブルがあったんです」
ミールが簡単に説明してくれた。
追い払ったことに逆恨みしてきたこと、そしてそれを返り討ちにしたことを。
正義の仮面が現れたことはうまくボカしてくれた。
エイミもミールの説明に特に口を挟まなかった。
「う、んん······?」
気を失っていた令嬢が目を覚ました。
状況がわかっていないようでキョロキョロと周囲を見回している。
「ええと、マレットさんだったよね? 体調は大丈夫かな?」
とりあえず声をかけてみた。
貴族の令嬢、マレットはオレの声にビクッとしながら顔をこちらに向けた。
「あ、貴方はレイさん······でしたわね。わ、わたくしは一体······?」
もしかして先程の出来事を覚えていないのかな?
「気を失っていたマレットさんを二人がここまで運んで来たんだよ」
オレはエイミとミールの方に視線を向けた。
マレットはすぐにハッとした表情になる。
何かを思い出したのか顔が真っ赤になっている。
「あの、わたくしは······」
「あなたが男達をワタシ達に差し向けてきたので反撃させてもらいましたよ。ワタシの魔法を受けて頭でも打ちましたか?」
どうやらミールは自分の魔法を浴びたためにマレットは気絶してしまった、ということにしたようだ。
「え、ではあの男は······ゆ、夢? そ、そうですわよね······あれは夢だったのですわ······!」
謎の仮面の男のことは夢だったということで無理矢理納得したようだ。
ぶつぶつと「······あれは夢、夢ですわ」と繰り返している。
······まあオレは深く突っ込まないでおこう。
「それで何か我々に言う事はないのか? 貴女は逆恨みをした挙げ句にこうして介抱もされているのだぞ」
アイラ姉が言う。
その言葉にマレットは我に返ったようにハッとした。
「そ、そうでしたわ······申し訳ありません! わたくしったらあんなことをしてしまって、心から謝罪致しますわ!」
マレットが開口一番に謝罪した。
これにはエイミとミールだけでなくアイラ姉も驚いているようだ。
オレもまさか素直に謝るとは思わなかった。
「後日謝罪の品をお持ちしますわ、それでお許し下さい······!」
「いや、心からの謝罪ならそれだけでいい······」
どうやら口だけの謝罪ではなさそうだ。
本当に申し訳なさそうにしている。
アイラ姉もそれ以上の謝罪はいいと言った。
―――――レイさん、フェニアさんの時にも思いましたけどあの格好の時は魅了の魔法でも使っているのですか?
ミールが他の人には聞こえないように念話でそう問いかけてきた。
そんな魔法を使った覚えはないが······。
体調が回復したマレットは終始頭を下げて帰っていった。
あの様子なら逆恨みしての報復の心配はなさそうだ。結果的にはこれでよかったのかな?
その後は特にトラブルもなく平穏に時間が過ぎていった。
そして夜になる頃にようやくユヅキが戻ってきた。
「長の説得もなんとかできたぜ。とりあえずはみんなの里に入る許可も出た。············一応だけどな」
遅かったと思ったが幻獣人族の長の説得に手間取っていたらしい。
スミレ以外のメンバーの同行が許されたようだ。
最後の一言が少し気になるが。
「フム、ならば出発は明日にしようか」
アイラ姉の言葉に全員が頷く。
もう夜になってるし異論はない。
出発は明日でいいだろう。
スミレの故郷、幻獣人族の里か。
楽しみだが不安でもあるな。
余計なトラブルが起きないといいが。