200 金髪令嬢の思惑
(マレットside)
わたくしはマレット=ライランクス。
貴族の中の貴族、ライランクス家の長女ですわ。
最近ここクラントールでは食物が手に入りにくくなっていますのよね。
なんでも作物の出来が悪く、外から来る商人も減ったからだとか。
庶民は貴族に尽くすものなのですからちゃんと働いてほしいものですわ。
そんなある日、食糧を無償で配っている人がいるという話が入ってきましたわ。
お金を取るわけでもなく、無料で配る食物なんて大丈夫なのかしら?
初めはそう思っていたのですけど、最近はあまり食物が手に入らなくお腹を空かせていたので誘惑に負けて食べて見ました。
その時の感動が忘れられませんわ!
あまりの美味しさに言葉が出ませんでしたわ。
今まで食べていた物はなんだったのか。
そう思わせられる程にレベルの違うものでしたわ。
見たことのないような色々な種類の果実。
これ程の物を無償で配っているなんて、これを作った方は何を考えているというの?
話によると他国の貴族が土地を買い、育てたとのことですわ。
いても立ってもいられなくなったわたくしはすぐに問題の土地に向かいましたわ。
自分の目で見てさらに驚きましたわ······。
そこには色とりどりの果樹園が出来ていました。
一体いつの間にこのような所が作られていたというの?
わたくしはすぐに土地の主人に交渉することにしましたわ。これ程の食物、我がライランクス家で管理するべきですもの。
土地の主人は意外にもわたくしと同じくらいの年の男性でした。
レイと名乗ったその男性は初めは使用人かと思ったけれど、よく見たら上等な素材の服装で顔立ちも整いハンサムな方でしたわ。
さっそく交渉をしたのですけど権利を渡す気はないと断られてしまいましたわ。
この方、おとなしそうな雰囲気ですけど全然折れてくれませんわね。
「つまり早い話がここの作物を気に入ったから寄越せということじゃろう?」
後ろで見ていた子供が口出ししてきましたわ。
この方の妹かしら?
あまり似ていないように見えますけど。
それにずいぶん年寄り臭い喋り方ですわね。
大人ぶるのはいいですが場をわきまえてほしいですわ。
「大人ならもう少し建設的な話をするべきでは? 貴女の要求は一方的に権利を渡せというだけでこちらに利がありませんよ」
別の女性もそんなことを言ってきましたわ。
こちらはもしやエルフ?
レイという方とどんな関係なのかしら?
そんなことはいいとして、それよりもわたくしの交渉を受け付けずに二人のメイドに命じて強引に追い出されてしまいましたわ。
なんという無礼な!
わたくしを誰だと思っていますの!?
ここは一つ思い知らせてやらなければなりませんわね!
(ミールside)
次期領主を名乗る貴族を追い払ったと思えば、今度は傲慢な女がやってきましたね。
この国の貴族は自分本意な方しかいないのでしょうか?
ミウネーレさんやリイネさん達を見習ってほしいものですね。
勝手なことばかり言って話にならないので当然追い払いましたが。
それからようやく食糧を貰いに来た方達に配り終えて、家の中で一息つきました。
「さっきの貴族達、あの様子だとまた来そうでしたね」
「ああ、面倒なことにならなきゃいいけど」
ワタシがそう言うと、レイさんもああいう方の相手は苦手のようで苦笑いしていました。
まああの手の輩のやりそうなことは予想できますけどね。
ネチネチと嫌がらせをしてくるか、力ずくで強引にくるか。
ここは試しにワタシと姉さんで囮になってあぶり出しますか。
ああいう方は一度痛い目を見ないとわからないものですから。
「レイさん、ワタシと姉さんは少し出掛けてきますね」
「え、わたしも? ミールどこに行くの?」
「いいからついてきて下さい姉さん」
戸惑う姉さんを強引に引っ張って外に出ました。
レイさんには念話であの貴族達の様子を見に行くと事情を説明しておきました。
とはいえまだこの町に来たばかりなのでどこが貴族の住む地区なのかもわかりませんね。
まあ冒険者ギルドあたりに行って聞けばいいでしょう。
「ねえ、ミール······本当にどこに行くの?」
「さっきの貴族達の様子を見に行くんですよ。放っておくと面倒なことになりそうですからね」
「ええっ!? で、でもどうするつもりなの!? 相手は貴族様だよっ」
姉さんはそんなことを言いますが貴族だろうと関係ありませんよ。
けど確かにどうしましょうか?
幻惑魔法でも使って恐ろしい幻でも見せて脅しましょうか?
「おーーっほっほっほっ!! こんな所にノコノコいるとは好都合ですわね」
そう考えていたら先ほどの金髪令嬢が現れました。
金髪令嬢の後ろには数人の男の姿があります。
好都合はこちらのセリフですよ。
そちらからノコノコやってくるとは。
「ワタシ達に何か用ですか?」
友好的な雰囲気ではありませんが一応は普通に問いかけてみます。
「あなた達は他国から来たのでこの町は初めてなのですわよね。クラントールには決して逆らってはいけない相手がいるということを教えてあげますわ!」
金髪令嬢が得意気な表情で言いました。
そして後ろの男達に指示を出してワタシ達を取り囲みます。
「へへっ、悪いな嬢ちゃん」
「貴族様の命令なんでな。悪く思うなよ」
男達が気持ち悪い笑みをうかべながら言います。
「ミ、ミール······」
「心配いりませんよ姉さん。むしろ好都合じゃないですか。これなら手荒な反撃をしても問題ないでしょうから」
男達のレベルは20前後です。
ステータス的に負けようがありません。
姉さん一人でも何とかなるでしょうに何故怯えるのですか?
まあいいです。
この金髪令嬢に決して逆らってはいけない相手は誰なのか教えてあげましょう。