199 悪役令嬢現る?
「おーーっほっほっほっ!!」
ディリー達がこの町の次期領主を名乗った男を追い払ってすぐに、今度は別の貴族が現れた。
漫画なんかでよく見る悪役令嬢のような高笑いをしてやってきたのは、ドリルのような金髪ツインテールの絵に描いたような貴族の令嬢だった。
年は多分、オレかアイラ姉と同じくらいかな?
「レイ、相手は任せたぞ」
もう疲れたと言わんばかりにアイラ姉はそう言って家の中に戻っていった。
「この家の主人はいるかしら? わたくし自ら交渉しに来てあげましたわよ」
金髪令嬢が言う。
領主の関係者とはまた別口かな?
「えーと······どちら様かな?」
アイラ姉に任されたのでオレは金髪令嬢に問う。
「わたくしはマレット=ライランクス。誇り高きライランクス家の長女ですわよ」
金髪令嬢がそう名乗った。
ライランクス家と言われても当然ながらまったく知らないが。
「この町の領主に次ぐ大貴族だそうですよ、レイさん」
ミールが小声でそう教えてくれた。
周囲の人から聞いたらしい。
町の領主と同格の貴族か······。
「貴方は使用人? 主人を出してくれるかしら」
金髪令嬢がオレを見てそう言ってきた。
「オレはレイ。一応この家の主人になるかな」
アイラ姉に頼まれたし、そういうことにしておこう。
「貴方が主人ですの? ずいぶん若い方ですわね」
金髪令嬢がオレを見定めるようにしながら言う。
改めて近くで見ると、本当に美人さんだな。
漫画やアニメのキャラクターがそのまま出てきたみたいだ。
「まあいいですわ。率直に言いますわ、この土地に実る作物の権利をすべて渡しなさい。この土地はライランクス家が管理しますわ」
金髪令嬢がそんなことを言い出した。
さっきの次期領主を名乗った男と同レベルだな。
後ろでミール達も呆れたように見ていた。
「この土地の食物は素晴らしいですわ。まさに偉大なわたくしにふさわしい物ですわよ」
オレ達の作った作物を褒めてくれるのは嬉しいが当然そんな要求に乗る理由はない。
「残念だけどこの土地の作物の権利を誰かに渡すつもりはないよ。これはあくまで趣味で作ったものだからね」
「これを趣味でですって? 貴方この食物の素晴らしさを理解していますの?」
そりゃあ自分で作ったんだから理解はしているつもりだが。
「いいですこと? たとえばこの果実は······」
話が長いので割愛するが、どうやらこの金髪令嬢はオレ達の作った作物を相当に気に入ったようだ。
他の土地で手に入る食物と比べてどうだとか、かなりの熱を込めて話してくれた。
こうやって褒めてくれるだけなら素直に嬉しいんだがな。
「つまり早い話がここの作物を気に入ったから寄越せということじゃろう?」
長い話に飽きたようでエンジェが割って入ってきた。
「なんですのあなたは? 今は大人の話し中ですのよ」
得意気に話していたのを邪魔されたためか金髪令嬢が不機嫌そうに言う。
エンジェはここにいる誰よりも年上なんだが見た目はゴスロリ少女だから年下にしか見えないようだ。
「大人ならもう少し建設的な話をするべきでは? 貴女の要求は一方的に権利を渡せというだけでこちらに利がありませんよ」
ミールも金髪令嬢にそう言った。
周囲の一般人達もミールの言葉に同意するようにウンウン頷いている。
「わ、わたくしを誰だと思っていますの!? わたくしに逆らうなんて許されませんわよ!」
この町は貴族の言うことは絶対なのかな?
次期領主の男も似たようなセリフを言っていた気がする。
「残念じゃがここではそんな理屈は通用せん。
ディリー、アトリよ、其奴も追い払え」
「はいですです!」
「了解しました、エンジェ様」
エンジェが戻ってきた二人に指示を出す。
あの次期領主の男と衛兵達はどこに放り出したのかな?
「ちょっ······離しなさい!? わたくしは······」
「マスターは忙しいのですです。お帰り願うですです」
「さあ、お引き取りください」
金髪令嬢はディリーとアトリに左右から腕を引っ張られて強引にドナドナされていった。
少し強引過ぎるような············まあいいか。
「兄さん達スゲエんだな!」
「あのいつも偉そうな貴族が哀れに見えたぜ」
「ハハッ! ざまぁねえな!」
周囲の人達もよほど滑稽に映ったのか笑い声をあげていた。
「皆、不満が溜まっていたようでござるな」
シノブが苦笑いをうかべながら言う。
「自分勝手は駄目······でも、果実を褒めてたのは偉い······」
スミレは金髪令嬢に悪い感情はないみたいだ。
むしろ共感を覚えているようだ。
あんな強引なことを言わなければ仲良くやれるかもしれないな。