196 食糧不足の解決に向けて
「この大量の食糧はどこから持ってきた!?」
町の衛兵だと思われる男が叫ぶように言う。
その高圧的な態度に周囲の大人や子供達は萎縮してしまっている。
「これは私達の持参品だ。商売をしているわけではないので問題ないと思ったが?」
アイラ姉が前に出て言う。
「冒険者か? これほどの量の食糧がただの持参品だと?」
男が訝しげに言う。
まあなんだかんだでかなりの人数が集まっていたからな。
出した料理も結構な量だ。
「まあ何でもいい。ならば持っている食糧をすべて渡せ。町の食糧はすべて我々が管理している」
ずいぶん勝手な言い草だな。
食糧不足でお偉いさんが管理しているのはわかるが問答無用ですべて渡せかよ。
当然アイラ姉がそんなことに応じるはずもない。
「残念ながら私達の持っていた食糧はこれですべてだ。もう渡す物はない」
しれっとそんなことを言うアイラ姉だった。
アイテムボックスにはまだ大量に食糧が入っているんだがな。
アイラ姉がこうやって流れるように嘘をつくのはまともに相手をする気がない時だ。
「嘘をつくな! なけなしの食糧をすべて配ったとでも言うのか!? まだどこかに隠しているのだろう、すべて出せ!」
男の指摘も的外れではないな。
だけど出してやる理由がないが。
「仮に私が隠し持っていたとして何故差し出さねばならない? そんな義務があるのか?」
「その通りだ。今この町では食糧が不足している。無駄に消耗しないためにも我々が管理しているのだ」
まあコイツの言う通り食糧不足というのは本当だろう。だが本当にそんな義務があるのかわからないな。
というかちゃんと管理する気があるなら町の入り口のチェックをしっかりやれよ。
「断る。先ほど言ったように食糧はこれですべてだ。もう出す物はない」
アイラ姉の言葉に男達が激昂した。
「貴様っ! 我々は領主様直属の正規の騎士だ! 我々に逆らうつもりか!?」
「正規の騎士様だったのか、これは失礼した。品のない振る舞いだったのでただのゴロツキだと思っていた」
アイラ姉がさらに挑発······いや、あれは本心を言ってるだけかな?
その言葉に我慢ならなくなった男達が剣を抜いてアイラ姉に斬りかかった。
周囲の人々が悲鳴のような声をあげる。
「そちらから剣を抜いたのだからこれは正当防衛だな? 武器を抜かない一般人にいきなり斬りかかるとはそれでも本当に正規の騎士なのか?」
アイラ姉は白刃取りで剣を受け止めていた。
男達のレベルは20~30くらいだ。
アイラ姉なら素手で余裕で勝てるだろう。
ま、だからってアイラ姉にすべてを任せるつもりはない。
オレはアイラ姉と男達の前に割って入った。
「なんだ、貴様も我々に逆らうのか!?」
問答する間もなく男が斬りかかってきた。
本当にコイツら正規の騎士か?
レベル30くらいの奴らなんてオレ一人で充分だ。
オレは素手で騎士達を叩きのめした。
「くっ······貴様ら、覚えていろよ!」
三下のような捨てゼリフを吐いて男達は逃げるように去っていった。
やれやれ、あの様子だとまた来そうだな。
「フム、騎士があれではこの町の領主の人柄もたいしたことなさそうだな」
アイラ姉の言葉にはオレも同感だ。
同じ騎士でもグレンダさん達とは大違いだな。
「あ、あんたら大丈夫なのか?」
「この町の騎士は横暴で乱暴だ······あんなことをしたら······」
周囲の人々が言う。
オレ達を非難しているのではなく心配してくれているようだ。
騎士は最低だが一般人は腐ってはいないようだ。
「私達の心配なら無用だ。それよりも奴らは普段からあんな感じなのか?」
「······ああ、奴らは食糧を管理するとか言っているが自分たちだけに回して俺達一般人にはパン一欠片も渡さねえ」
アイラ姉の問いに口々に言う。
まあそんな感じだろうな。
一般人は痩せこけているがアイツらはそうでもなかったし。
町の人々も相当に不満が溜まっているようだ。
「これ以上の騒動も面倒だ。私達はこの場を去ろう。皆ももう解散した方がいい」
アイラ姉は集まっていた人達に追加で食糧を渡した。これで当面の飢えは凌げるだろう。
オレ達はアイラ姉と共にこの場を後にした。
「思っていたよりもこの町は酷い有り様じゃのう」
エンジェが言う。
適当に町を歩きながら見て回ったがどの地区も似たような状況だった。
食糧は貴族など上流階級の者を優先して回しているらしく平民にはほとんど回らない。
でもこのままだと貴族にも食糧は回らなくなるんじゃないか?
「犯罪者に身を堕とした方も多いですね」
「う、うん······みんな殺気立ってたよ············」
ミールとエイミも町の現状に顔をしかめていた。
ここまでで何度かスリや強盗まがいの輩に絡まれたからな。
まあ適当に追い払ったけど。
「······みんなお腹を空かせてる。だから殺気立つ」
スミレの言う通りだろうな。
「アイラ殿、どうするでござるか?」
シノブがアイラ姉に問う。
「フム、税に関しては国のルールだからな。私達が口出しできることではない」
確かに高い税を取っているようだが国のルールを逸脱するほどじゃないらしい。ギリギリだが。
「だが現状を知ってしまった以上、放っておくことはできないな。食糧問題くらいなら解決しよう」
食糧不足の解決は今回が初めてじゃない。
アルネージュでやったことをもう一度するだけだ。
というわけでオレ達は適当な土地を手に入れるために商業ギルドに向かうことにした。