194 クラントールの冒険者ギルドマスター
クラントールの町の冒険者ギルドで絡んできた冒険者をみんなで叩きのめした。
別の国に来ていきなり騒動を起こしてしまったけど大丈夫かな?
受付のギルド職員は困惑顔でオレ達を見ている。
「一体何の騒ぎだ!」
奥の方から50代くらいだと思われる厳ついオッサンが出てきた。
このパターンはギルドのお偉いさんかな?
叩きのめされた冒険者とオレ達を見て驚きの表情をうかべている。
当たり前だが誰も殺していないぞ?
「これはお前達の仕業か?」
「いきなり掴みかかって来たのでな。返り討ちにしたまでだ」
アイラ姉が答える。
一応手を出してきたのは向こうからだったし、正当防衛のはずだ。
お偉いさんと思われるオッサンは他のギルド職員に事情を確認してアイラ姉の言葉が事実だと理解したようだ。
「私達のような若造に簡単に返り討ちに合うのは少々情けないのではないか?」
アイラ姉が言う。
冒険者達は死んでいないが全員しばらくは立てそうにもない。
「お前達は何者だ?」
「ランクBの冒険者だ」
アイラ姉がギルドカードを見せた。
お偉いさんはアイラ姉の見せたギルドカードのデータを見て驚愕の表情をうかべた。
「······依頼達成率100%、それになんだこの魔物の討伐数は······」
ギルドカードには今までの依頼を受けた状況や、魔物の討伐数がカウントされている。
魔物の討伐数なんてもはや信じられないくらいの数になっているからな。
「失礼だが貴方は? まだ名前を伺っていないが」
「あ、ああ······そうだったな。俺はゴウエン。クラントールの冒険者ギルドのマスターだ」
アイラ姉の問いにお偉いさんが答えた。
お偉いさんだとは思っていたがギルドマスターだったのか。
レベルは62とそこそこ強いって感じかな。
アルネージュの冒険者ギルドマスターのアブザークさんは初めて会った時はレベル79だったけど。
「ギルドマスター殿でしたか。これは失礼した。私はアイラ、一応このパーティーのリーダーをやっている」
改めてアイラ姉が自己紹介した。
オレ達もそれぞれ名乗る。
「そうか、お前達が噂の英雄パーティーだったのか」
どうやらギルドマスター、ゴウエンさんは別の国の活躍のはずだけどオレ達のことを知っていたようだ。
「活動拠点をこの国に移したのか?」
「いや、ここには私用で立ち寄っただけだ。用が済めばすぐに戻るつもりだ」
「そうか······残念だ。腕の立つ冒険者が欲しかったのだがな」
ゴウエンさんが本当に残念そうに言う。
人手不足なのかな?
「俺からも謝罪する、コイツらのことを許してやってくれ。皆、割りに合わない依頼ばかりで気が立っているんだ」
割りに合わない?
さっき確認したが討伐依頼が多かったようだが特に問題はないように見えたが。
「確かに討伐対象に比べて報酬がやや低めですね。ですが割りに合わないほどじゃないと思いますけど?」
ミールが言う。
あんまり報酬額を気にしたことなかったけどこれは低い方なのか。
「この町の領主が依頼報酬にまで税をかけてきてな。そこからさらに三割引かれるんだよ」
それは確かに割りに合わないな。
命懸けで討伐した報酬の一部を何もしていない国に取られるというのは。
アルネージュや王都では冒険者ギルドの依頼報酬に税はかけられていなかったと思ったが。
まあ国が違うしルールも違うのかな?
と思ったが税をかけられているのはこの町だけらしい。だから高レベルの冒険者は他の町に行ってしまうと。
話を聞く限りだとかなりガメツイ領主のようだ。
「せめて珍しい素材があれば分けてくれないか? もちろんちゃんと報酬は払うぞ」
その報酬にも税がかけられているようだが。
まあ素材はいくらでもあるしそれくらいならいいかな。
オレの(素材召喚)で色々と出せるが、ここはアイテムボックスに死蔵している魔物でも出しておこう。
レベル50~60くらいの魔物を数体取り出した。
「こんな大物を······噂通りの実力みたいだな」
ゴウエンさんがそれを見て驚いていた。
もっと強力な魔物もあるんだがな。
どんな噂なのか気になるが深く聞かないようにしておくか。
税を引いた分の報酬を受け取り、オレ達は冒険者ギルドを後にした。
もうここではたいした情報は手に入りそうにない。
一般冒険者はアレだったけどギルドマスターはまともだったな。
それにしてもこの町の領主はあまり誉められた人物じゃないみたいだな。
それとも何か理由があってそんな税をかけているのだろうか?
まあ、なんにしてもあまり近付きたい人物じゃなさそうだ。
初めて関わった貴族がミウ達のようなまともな人達で本当によかった。