192 エンジェの転移魔法
「エ、エイミです。······よろしく」
「ワタシはミールと申します。よろしくお願いします、ユヅキさん」
そしてスミレの故郷である幻獣人族の里に向かうことになった翌日、エイミとミールがユヅキとお互いに自己紹介をした。
昨日、念話でミールに事情を説明してしばらくは寮には戻れないと言ったら、ミール達も幻獣人族の里について行きたいと言い出した。
スミレはあっさり了承し、ユヅキも「もう好きにしてくれ」と半ばヤケっぱちで了承してくれた。
今日のエイミとミールの服装は学生服ではなく、王都で買ったと思われる魔術師風のローブを着ている。
さすがに他の国に行くのに王都の学生服姿では目立つだろうからな。
二人の学生服以外の姿は珍しく新鮮だ。
「フム、それほど長旅にはならないだろうが、私もキリシェにはしばらく寮を留守にすると連絡しておいた」
アイラ姉も学生寮で同室のキリシェさんに連絡したらしい。
キリシェさんならミール達同様についてくると言い出しそうだけど都合が悪かったのかな?
「昨日は久方ぶりにぐっすり休めた。絶好の旅日和だな!」
言葉通りアイラ姉は絶好調のようだ。
学生寮では今はリイネさんは王城に戻っていて、アイラ姉とキリシェさんの二人だけだったはず。
暴走するキリシェさんのストッパーであるリイネさんがいなくて大丈夫だったのだろうか?
久方ぶりにぐっすり休めたとか言っているが。
まあ深く考えないでおこう。
「くかかっ、では出発するかの? 転移を使うから集まるがよい」
転移魔法を使うエンジェの周囲に全員が集まる。
幻獣人族の里に向かうのはオレとアイラ姉にシノブ、エイミにミール、そしてスミレとユヅキ、エンジェだ。
結構な大所帯になってしまったな。
「いってらっしゃいなノヨ。お土産期待してるノヨ」
エアリィは見送りに来たようだ。
別の国に行くわけだからな。
この国には無い物とかもあるかもしれない。
幻獣人族の里だけでなく色々な所を見て回るのもいいかもな。
「転移発動じゃ!」
エンジェが転移魔法を使う。
エンジェを中心に足下に魔法陣が拡がっていく。
そしてキラキラした光が放たれ、オレ達を包んだ。
なんだかオレの転移魔法と違ってエフェクトがずいぶんゴージャスだな。
光が完全にオレ達を包むと周囲の景色が変わっていた。
光が消えて周囲を確認した。
どうやらここは街道の外れのようだ。
MAPで確認すると表示されているエリアが新しく変わっていた。
転移魔法で一瞬で来たから実感が沸かないけど本当に別の国に来たようだ。
「転移した瞬間を見られても困るじゃろ? だから少し町から離れた場所に転移したぞ」
エンジェが言う。
まあ確かに町の中で大勢に見られてとかは困るな。
「フム、少し進むと町があるようだな」
アイラ姉もMAPで現在地を確認したようだ。
この先にアルネージュより少し小さい町がある。
小さいと言ってもアルネージュが大きな町なのでそこも充分大きいが。
「この先の町って······クラントールじゃねえか。本当に一瞬でここまで来たのかよ······」
どうやらユヅキの知っている町のようだ。
実際に転移魔法を体験して改めて驚いている。
「その町がスミレ殿の故郷でござるか?」
「違う、すぐ近くの森の中······」
確かにクラントールとかいう町の北の方に広めの森があるな。
幻獣人族の里は結界を張って存在を隠しているんだったな。
「じゃあ、まずはその町に向かおうか」
オレの言葉にみんな頷いて、クラントールの町に向かうことにした。
道中何度か魔物に襲われたがレベル5~15くらいのゴブリンやウルフだったので問題なく倒した。
ゲームと違って地域が変わると敵が強くなったりとかはないみたいだな。
まあその地域にしか出ない固有の魔物とかはいるかもしれないので油断は禁物だが。
特にイベントが起きることもなく、クラントールの町にたどり着いた。
まあ起きてほしいわけではないので順調なのは良いことだ。
このまま何事もなく旅を楽しみたいな。