190 幻獣人族の里へ
スミレを連れ戻そうと実力行使に出たユヅキだったが、スミレとのレベル差は大きく、一方的に叩きのめされてしまった。
「············ブイ」
スミレが無表情で右手でVサインを作る。
里にいた頃はユヅキに勝ったことはなかったようなので気分が良さそうだ。
「なん、なんでそんなに強くなってるんだよスミレ!? 里にいた頃とは比べ物にならねえじゃねえか!」
叩きのめされていたユヅキが立ち上がり叫ぶ。
あれだけボコボコにされたというのに回復力が高いな。(再生)スキルは持っていないはずだが。
「ご主人様とアイラ達に鍛えられたから。今のボクならお爺ちゃんにも負けない」
スミレが誇らしげに言う。
スミレの話によるとお爺ちゃんとは幻獣人族の長のことらしい。
ということはスミレは長の孫なのかな?
高い戦闘能力を持つ幻獣人族の長ということは、それなりに高レベルなのだろう。
しかし今のスミレよりも上だとは思えないな。
「というわけでユヅキ、お爺ちゃん達に伝言よろしく」
「いやいやいや、本当に待ってくれ! おれだって手ぶらで帰るわけにはいかないんだよ!」
「············まだ叩きのめされ足りない?」
さすがにユヅキが可哀想になってきた。
なんとなく状況は見えてきたから助け船を出すかな。
「まあ、スミレ······一度帰るくらいならいいんじゃないか?」
今までの話を聞く限りだと幻獣人族の長はスミレを連れ戻したいようだ。
ならなんで追放したんだということになるが、事情があるんだろう。
「フム、レイの言う通りだな。一度故郷に帰り長とやらときちんと話し合うべきだぞ」
アイラ姉もオレの言葉に乗る。
シノブとエアリィも同じ意見のようだ。
「············じゃあご主人様達も一緒に来て。一人は嫌」
悩みながらスミレは妥協案を出してきた。
幻獣人族の里か············。
行ってもいいのなら興味があるな。
「ま、待てよスミレ!? 他種族を里に招き入れられるわけないだろ!?」
ユヅキが慌てて言う。
まあ結界で里の存在を隠しているらしいしそうだろうな。
今まで知られていないから幻獣人族は絶滅したと言われてるんだし。
「じゃあボクも帰らない」
「うっ············」
スミレの言葉に何も言い返せないユヅキ。
力ずくは無理だからスミレを連れ戻すにはこの妥協案に乗るしかない。
ユヅキが必死に悩んでいる。
だが他に案が浮かばなかったようで渋々頷いた。
「わかったよ、長にはおれから話すからそれでいい。スミレがずいぶん懐いてるみたいだし悪い奴らじゃないんだろ?」
「······むしろユヅキが悪者。作物泥棒」
「うっ······そ、それは本当に悪かったよ······」
というわけでオレ達はスミレの故郷である幻獣人族の里に行くことになった。
オレは構わないしアイラ姉とシノブも異論はないようだ。
エアリィは留守番を申し出てきた。
「ところで幻獣人族の里とはどこにあるでござるか?」
シノブが問う。
本当は秘密らしいのだが観念して開き直ったユヅキが持っていた地図を拡げて教えてくれた。
「······かなり遠いな」
この国を出てさらにもう一つ国を跨いだ所にある。
普通に馬車で向かったら2ヶ月以上はかかりそうだ。ユヅキもスミレもそんな遠くから来てたのか。
ゆっくり旅を楽しむのもいいかも、と言いたい所だけど学園もそろそろ再開するだろうしそんなに留守にはできないな。
「ユヅキはどうやってここまで来たの?」
「どうって、幻獣化してだけど」
オレがそう聞くとユヅキが答えた。
(幻獣化)スキルか。
さっきは両腕だけの変化だったけど、全身を変化させると鳥型の幻獣の姿になれるらしい。
隼のように目にも止まらぬスピードで飛べるようだ。
格好良さそうだな。ちょっと見てみたい。
スミレは今は(幻獣化)を使えないけど、使えたらどんな姿になるんだろうか?
ちなみにリンが(獣化)スキルを使ったら可愛らしい子狐の姿だった。
おっと話が逸れたな。
それよりも幻獣人族の里についてだったな。
さすがに2ヶ月以上かけてはいられない。
転移魔法で行ければいいんだが、転移は一度行った場所にしか行けない。
スミレかユヅキが使えればいいんだが······。
ん? そういえばスミレの魔力は一万を超えてたな。もしかして使えるかな?
そう思いスミレに聞いてみた。
「············無理」
どうやらスミレは転移魔法を使えないようだ。
オレもアイラ姉もシノブも魔力が一万を超えたら使えるようになったからスミレも出来るかと思ったんだが。
何か使えるようになるための条件があるのだろうか?
ともかく転移魔法は駄目か······。
いや、諦めるのは早いか。
魔力が一万を超えたメンバーは他にもいる。
ルナシェア達なら魔法にも長けてるし使えるかもしれない。
聖女として色々な国を巡っていたらしいし聞くだけ聞いてみよう。