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突然異世界転移生活 ~たまに変態が出没する異世界冒険記~  作者: キューブック
第三章 王都レイルゼード 学園地下迷宮
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勇者(候補)ユウの冒険章④ 11 最愛の姉の生還

――――――――(side off)―――――――――


 リーナの身体から生命の鼓動が消えた。

 それはつまりリーナの············。


「お、お姉様っ!? お姉様······う、あ······」


 それを理解したリーアがひどく取り乱す。

 現実を受け止められないのだろう。


「お、落ち着きなさい、リーア!」

「い、いやです! 目を、目を開けてください! お姉様!」


 テリアが止めるがリーアが落ち着く様子はない。

 リーアはさらに取り乱しそうになったが······。



―――――――バチッ!!


 ユウがリーアの頬を叩き落ち着かせた。


「ユ、ユウさん······?」

「落ち着きなよリーア。お姉さんはまだ死んでいないよ」


 ユウが静かな口調で言う。

 よく見るとマティアがリーナの身体に触れて何かをしているようだ。


「マ、マティアさんは······お姉様に······何をしているのですか?」

「······かしじょうたいに······してる」

「······仮死?」


 マティアは自分の身体の形を細胞レベルで自由に変える能力がある。

 その力を利用して肉体の一部をリーナの身体の中に送り込み、生命活動を一時停止させているらしい。


 あくまでも仮死状態のため、本当に死んだわけではない。

 今のリーナの身体は時間が止まったような状態となっている。

 マティアがその状態を維持している間はリーナの命は保証される。


「······でも······ながくはもたない······」


 だがマティア自身にも相当な負担がかかるようだ。普段無表情のマティアが苦しそうにしている。


「マティアがお姉さんの命を維持している内に助ける方法を見つけよう!」


 ユウの言葉にリーアがハッとする。

 まだリーナは助かったわけではない。

 リーナの傷を治さなければ今度こそ本当に死んでしまう。



 通常の治療法では治す見込みはない。

 となると上級、特級ポーションを持ってくるか、聖女クラスの「聖」魔法で治癒するかである。



「つまり薬を持ってくるか、聖女様を連れて来ればいいんだな!?」

「俺は教会に頼みに行ってくる! お前らはギルドにポーションのストックがないか確認してくれ!」

「ああ、リーナちゃんを死なせるかよ!」


 ユウ達だけでなく、状況を理解した冒険者達が動いた。

 冒険者達もそれぞれ軽くはない傷を負っていたがそんなことはお構い無しだ。


「こんな時におれは何もできないのか······!」


 スウォンだけは自力で動くのも難しそうで、悔しそうな表情をしている。


「わたし達も手分けして探しましょう!」


 テリアの言葉にユウ達が頷く。

 上級、特級ポーションは希少でこの病院にはストックはない。

 店を巡っても期待はできないだろう。


「聖女といえばエレエレですかねぇ?」


 ミリィの言うエレエレとはエレナのことである。

 以前にユウが深手を負った時にエレナの「聖」魔法で癒してもらったことがある。


「ぼくが本殿に行って連れて来るよ!」


 ユウがそう言い、皆がそれぞれリーナを救うために動いた。

 話を聞きつけた近所の住人達もリーナを救うために協力してくれていた。

 リーナは、姉妹は王都の住人達に愛されているようである。


「······やはり······お姉様は死ぬべき人ではありませんわ······!」


 皆が姉を救うために協力してくれていることに感動を覚える一方でリーアは決意した。

 大急ぎで魔道具専門店である自宅に戻り、倉庫にあった()()()()()を手にしてきた。







(リーアside)


 お姉様を助けるために多くの人達が協力してくれています。

 しかしマティアさんの様子を見る限り長く持ちそうにありません。


 ここでお姉様を死なせるわけにはいきません。

 わたしが身代わりになればいいのです。



 店の倉庫に封印していた魔道具。

 使用者の生命力を他者に分け与える売買を禁止されている物です。

 わたしの生命力すべてをお姉様に送り込めば必ず助かります!


「リアっち? 何を持ってきたですかぁ?」


 病室に戻るとミリィさんがわたしの持ってきた魔道具を見て問いかけてきました。

 病室にはお姉様の他にマティアさんとミリィさん、そして冒険者のスウォンさんがいました。

 ミリィさんとスウォンさんはマティアさんに魔力を分け与えて現状維持に協力しているみたいです。


「これでお姉様を助けます······!」


 わたしはお姉様の眠るベッドの上に魔道具をセットしました。

 そしてナイフを取り出し、自分の腕を切りました。


「何をする気だ!? リーアちゃん!」

「何をしてるですかぁ!? リアっち!」


 スウォンさんとミリィさんが驚きの声をあげました。わたしは構わず流れた血で魔法陣を書き上げていきます。


「わたしの生命力をすべてお姉様に与えます!」


 わたしは魔道具を発動させました。

 生命力を吸われていき、力が抜けていきます。


「これ禁断の呪法じゃないですかぁ!? リアっち死ぬつもりですかぁ!?」


 ミリィさんは魔法陣を見ただけで、この魔道具の効果がわかったようです。

 それを聞いたスウォンさんが表情を変えました。


「リーナさんの身代わりになるつもりか!? そんなことをしたらリーナさんが悲しむぞっ!?」

「お姉様がこのまま死ぬよりはいいです! スウォンさんだってわたしよりもお姉様が生きてくれた方が良いでしょう!?」


 わたしなんかよりもお姉様が生きていた方がよほど世のためになります。

 それにお姉様ならたとえわたしが死んでも必ず立ち直ることができます。

 わたしと違ってお姉様は強い人ですから。


「リーナさんを助けたいけどだからってリーアちゃんが犠牲になることを見過ごせるかよ! だったらおれの生命を使え! それでリーナさんが助かるなら······」


 スウォンさんが魔法陣に手を伸ばしてきました。

 待ってください!

 貴方まで巻き込まれますよ!?


 急激に生命力を吸い込んだためか、魔道具が暴走しそうです!

 スウォンさんまで生命力を吸い尽くされてしまいますよ!?


「ちょっ······不味いんじゃないですかぁ!?」


 ミリィさんが慌てた声で言います。

 わたしは強引にスウォンさんの手を引き剥がそうとしたら············。



――――――――ドンッ!!


 魔道具に突然、小太刀が突き刺さり停止しました。一体誰が······?


「えーと······異様な雰囲気だったから咄嗟に壊してしまったでござるが······不味かったでござるか?」


 病室の入り口からそんな声が聞こえてきました。

 そこにいたのはわたしと同じか少し下くらいの年齢と思われる女の子でした。


「······シノブ、それよりもやることがある」


 さらに後ろから同じくらいの女の子がもう一人顔を出しました。


「そうでござった! 急患がいると聞いてとんできたでござる!」


 そう言って女の子二人はお姉様の寝ているベッドまで来ます。

 あの······どちら様でしょうか?


「······スミレ?」

「······マティア?」


 女の子の一人がマティアさんを見てお互いに名前を呼び合いました。

 顔見知りなのでしょうか?


「あーー!? あの時の常識外れの三人組の一人ですぅ!」


 ミリィさんが叫ぶように言います。

 知っている方なんですか?


「おお? 確かエイダスティアという町で会った······」

「シノブ、それよりも」

「わかってるでござるよ、スミレ殿」


 スミレさんと呼ばれた女の子が急かして言うと、シノブさんと呼ばれた女の子が薬を取り出しました。

 シノブさんはその薬をお姉様にふりかけました。


「!!?」


 薬の効果でお姉様の身体がみるみる回復していきました。

 身体中の深い傷も、喰い千切られた右腕も元に戻っていきます。


 ま、まさか今の薬は特級ポーション!?

 効果を見る限り間違いありませんが信じられません。何故小さな女の子がそのような希少な薬を持っていて、しかも見ず知らずのはずのお姉様に躊躇することなく使ったのですか!?


「これでもう大丈夫でござるな」


 お姉様の身体はすっかり治っていました。

 お礼を言うべきはずなのに混乱してうまく言葉が出ません。


「そちらの方も酷い怪我でござるな。これで治すといいでござる」

「あ、ああ······ありがとう······」


 シノブさんはスウォンさんにも薬を渡しました。

 スウォンさんは戸惑いながら受け取りました。



「じゃあシノブ、アンデッドの残党が出たという話があった。すぐに狩りにいく」

「わかってるでござるスミレ殿。それでは拙者達は失礼するでござる。壊してしまった道具の弁償は後日払うでござる」


 そう言って二人はあっという間に去っていってしまいました。

 一体どういう方達だったのでしょうか?


 いえ、それよりもお姉様は!?

 マティアさんはお姉様の仮死状態をとっくに解いていたようです。


「······ん······ん······?」

「お姉様っ!?」

「あれ······? あたし······生きてる······の?」


 お姉様が目を覚ましました!

 身体もすっかり治り、もう命の心配はなさそうです。大量の出血をしたため、まだ顔色が少し悪いですが······


「お姉様っ! よかった······お姉様ぁあっ!!」

「わわっ······リ、リーア······少し落ち着こうよ」

「もう離しませんわ! もうわたしの前からいなくならないでください! わたしは一生姉離れなんてしませんから!」

「い、一生は本当に困るんだけど······」


 わたしの言葉にお姉様は苦笑いして言いました。


「リーア、お姉さんは無事!? エレナを連れてきたよ!」


 ユウさんとテリアさんが戻ってきました。

 冒険者の方々も帰ってきましたわ。

 抱き合うわたしとお姉様を見て状況を把握したようです。


「もう大丈夫ですよぉ! 例の常識外れの人が来て薬をくれましたからぁ」


 ミリィさんが何が起きたのかを説明してくれました。

 ユウさん達の知っている方だったようなので今度お礼をしないといけませんわね。

 特級ポーションの対価を用意できるかわかりませんが······。





 皆さんもお姉様の回復を心から祝福してくれました。

 ······本当に一時はどうなるかと思いましたわ。

 お姉様の生命を維持してくれたマティアさんにも感謝しなければ······。


 そう思ってマティアさんの方を見ると、マティアさんはフラフラと倒れてしまいました。


「マティアさんっ!?」


 お姉様の生命を維持するのはかなり大変そうでした。まさか力を使い果たしてしまったのでしょうか?

 ユウさん達がすぐにマティアさんに駆け寄ります。



――――――――ぐぅ~~~


 マティアさんから低い唸り声のような音が聞こえてきました。今の音はもしや············。


「············おなかすいた······」


 マティアさんがそうつぶやきました。

 その言葉にユウさん達や冒険者の方々が顔を見合せて笑い出しました。

 緊張の糸が緩んだのでしょう。

 失礼でしたがわたしも噴き出してしまいましたわ。


「······みんなひどい······アタシがんばったのに······」


 マティアさんにとっては笑い事ではないようです。



 お姉様の回復祝いです。

 マティアさんにもたくさんのごちそうを用意致しましょう。






番外編はここで終わります。

次回から本編再開予定です。

投稿まで少しお待ちください。

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