閑話⑦ スミレとマティア
今回も単発です。
前話の裏話になります。
(スミレside)
今日ボクは一人で王都を回っている。
ご主人様とアイラは冥王のあとしまつが忙しいとかで一緒にいられないらしい。
シノブはユーリと何か約束があると言っていた。
学園はきゅうこうしてるから当分入れないらしい。
というわけでボク一人で色々なお店を回っている。
王都にはいっぱい食べ物屋がある。
アイラ達の作る食事よりは味は落ちるけど、それでも充分美味しい。
お金も冒険者ギルドで稼いでいるから余裕がある。今日は王都の食べ物を食べ尽くす。
「······その串焼き······ちょうだい」
「いらっしゃいお嬢ちゃん! いくつ欲しいんだい?」
「············全部」
「へ?」
焼いている串焼き全部欲しいと言ったら変な顔された。お金を出したら慌てて売ってくれたけど。
両手いっぱいに受け取った串焼きを持って食べる。
うん、美味しい。
脂がのっていい感じに焼けてる。
食べながら歩くのは行儀が悪いとアイラに言われているから座れる場所まで移動する。
「··················」
見られてる。ジッと見られてる。
ボクの前に知らない女の人が立っていた。
ボクを······じゃなくてボクの串焼きをジッと見ている。
「誰? これはボクの······」
そう言おうとしたら女の人のお腹からすごい音が聞こえた。
「············おなかすいた······」
お腹を空かせているみたい。
ヨダレを垂らしそうな顔······本当に垂らしてる。
「食べる······?」
「······いいの? アタシおかねもってない」
「たくさんあるからいい。無くなればまた買う······」
ボクの串焼きを半分渡すとすごい勢いで食べ出した。
なんだろうこの人?
人間じゃないような気配がする。
でもなんの種族だろう?
感じたことのない気配だ。
「······おいしかった······」
ボクの渡した串焼きをあっという間に食べ終えた。
表情は変わってないけどおいしかったみたい。
―――――――ぐう~~~っ
女の人のお腹から低い音が響いた。
あれだけじゃ足りなかったみたい。
―――――――ぐう~~~っ
ボクのお腹からも同じような音が鳴った。
あれだけじゃ全然足りない。
この人も同じみたい。なんだろう。
悪い人じゃなさそうだしお腹を空かせているのなら放っておけない。
「あっちに食べ物屋がいっぱいある。······一緒に食べる?」
「············いく」
ボクがそう言うと女の人はコクりと頷いた。
二人で色々な店を回っていく。
「ボクはスミレ······あなたは?」
「アタシはマティア······」
女の人、名前はマティアと言うらしい。
連れの仲間がいたけどはぐれて迷子になっていたらしい。
「······んぐんぐ······」
「······あむあむ······」
目に写った店の物を片っ端から買って二人で食べる。
うん、おいしい。
一人で食べるよりも誰かと一緒の方がさらにおいしい。
まだまだ食べ足りなかったから近くの定食屋に入って料理を注文した。
「······これ全部」
店のメニュー全部持ってきてと言ったら変な顔された。
お金を見せたら慌てて頭を下げてたけど。
マティアと一緒に運ばれてくる料理をどんどん食べる。
よっぽどお腹が空いていたみたい。
すごい勢いで食べてる。
ボクも負けずにどんどん食べる。
いつの間にか周りに人だかりができてる。
ボク達の食べ方がそんなにめずらしいのかな?
マティアは店の料理を一通り食べてようやく満足したみたい。
ボクも満足。
ボク達が食べ終わったところでマティアの仲間の人が迎えに来た。
女の人が二人。
一人は人族だけどもう一人は違うみたい。
確か······せいしんせかいの住人の夢魔族だ。
何で夢魔族が? ま、いいか。
「ええと、スミレちゃん······でいいのよね? マティアの食べた食事の支払いだけど······」
「気にしなくていい······ボクのおごり······」
人族の女の人がお金のことを心配してたけど問題ない。ボクも一緒に思う存分食べれて楽しかった。
また一緒に食べたい。
今度はご主人様やアイラの料理を食べさせてみたい。きっと気に入る。
「じゃ······さよならマティア」
「うん······きょうはありがとう······スミレ」
ボクは別れを告げてその場を去った。
久しぶりにお腹いっぱいになった。
この幸せな感じはとても心地良い。
············晩御飯は何を食べようかな。
そう考えたらまたお腹が空いてきた。