勇者(候補)ユウの冒険章④ 5 新たな聖女
(エレナside)
王都に来てからしばらく経ち、教会内部が落ち着いてきたようなので私とユウは女神様の洗礼を受けるために本殿までやってきた。
本殿内は関係者以外は立ち入り禁止になっているので中へ入るのはユウと私だけ。
途中まで付き添ってくれていたパパ、ママ、そしてテリア達は外で待っている。
新たな聖女と勇者の候補の誕生ということで思っていた以上の歓迎を受けた。
一通りの儀式を済ませ、洗礼は完了となった。
女神様の洗礼を受けたことで私のスキルに
(浄化の息吹)と(聖なる守り)が追加されていた。
ユウもいくつかスキルが増えたみたい。
「ふふっ、歓迎しますわ。新たな聖女候補さん、
そして可愛らしい勇者様」
三人の聖女様の一人、アルケミア様がそう言って私達を迎え入れてくれた。
優しい笑顔。私達が子供だからと侮っている感じはしない。
「わからないことがあれば何でも聞いてくださいね。エレナさん、ユウさん」
もう一人の聖女様のセーラ様も同じように声をかけてくれた。
今はたまたま三人の聖女様が王都に集まっていたので顔合わせをしている。
「聖女候補の最年少を塗り替えられてしまったでありますな。これからよろしくであります!」
聖女ルナシェア様が手を差し出してきたので私とユウはそれに応え握手した。
ルナシェア様は最初聖女様ではなく護衛騎士の人かと思ってた。
失礼かもしれないけど聖女様っぽくなかったから。
こうして私は四人目の聖女候補となった。
「············こんなすごい人達と肩を並べることができるかな?」
「大丈夫だよ。美人だしすごい力を感じるけどエレナだって負けてないよ」
ユウが笑顔でそう言ってくれた。
まだ自信を持つことはできないけどユウと一緒ならやっていけそうだわ。
洗礼を受けて基本的なことは終わったみたい。
次は今後の聖女としての活動についてなどを決めることになった。
(テリアside)
ユウとエレナが女神様の洗礼を受けるためにリヴィア教の本殿に入っていった。
関係者以外は入れないとのことだったのでわたし達は外で待っている。
「待ってるだけだと退屈ですねぇ」
ミリィがそんなことをぼやいていた。
確かにいつ終わるかわからないしこのまま待ってるのもアレよね。
「だったら商店通りでも見てきたらどうだい? ここは私達が待っているから」
「いいんですか?」
「うふふ、私達のことなら気にしなくていいわよ」
エレナの両親がそう言ってきたのでその言葉に甘えさせてもらおうかしら。
「じゃあ少しだけ回って来ましょう。ミリィ、
マティア行く············あれ、マティアは?」
よく見たらマティアの姿がどこにもないわ。
「さっきそっちの方にフラフラ~と行っちゃいましたよぉ?」
ミリィが言う。気付いてたんなら止めなさいよ!
わたしはミリィを引っ張ってマティアが向かったという方に行く。
しばらく進むと食べ物屋が並ぶ商店通りに着いた。
······またお腹を空かせてるのかしら?
―――――――ザワザワッ
向こうの方で人だかりが出来てるわ。
普通の定食屋みたいだけど。
何の騒ぎかと覗き込んだらその中心にマティアがいたわ。
もう一人見たことない子供と大食い勝負をしているみたい。
「二人ともすげえ食うなあ」
「あの小さい身体のどこに入るんだ?」
周囲の人達が二人の様子を見て口々に言っている。
マティアはともかく一緒にいる子は誰かしら?
小柄な体型でわたしよりも幼い顔立ち······12~13才くらいかしら。
二人の横には空の皿が大量に積まれていた。
二人であんなに食べたの?
どう見ても二人の身体よりも積まれた皿の方が高くなってるんだけど。
追加でさらに5~6人前くらい食べてようやく満足したみたい。
大食い勝負してたわけじゃなく二人で店の料理を片っ端から食べてただけみたいね。
わたしは騒ぎの中心の二人の元に行く。
「何してるのよマティア?」
何してたかなんて見ればわかるけど。
「············まんぞく」
表情こそ変わってないけどマティアは本当に満足そうな雰囲気を出しながらお腹をさすっている。
······ところでこの料理の支払いはどうするの?
「この子はマーティの知り合いですかぁ?」
ミリィがマティアと一緒に食べていた子を見て言う。
初めて王都に来たのに知り合いなんているわけないと思うけど。
「さっき······であったばかり······」
でしょうね。
一緒に食べてた子は店員に料理の代金を支払っていた。一度の食事で払う金額じゃないわね。
そんな金額をポンッと出せるなんて貴族の子かしら?
「マティア······今日は楽しかった······また一緒に食べる」
「うん······アタシもたのしかった······スミレ」
この子の名前はスミレって言うみたいね。
初めて会った子とずいぶん仲良くなったのね。
悪い子じゃなさそうだしそれはいいんだけど······。
「えーと、スミレちゃん······でいいのよね? マティアが食べた食事の支払いだけど······」
「気にしなくていい······ボクのおごり······」
い、いいのかしら?
マティアのように表情があまり変わらない子だけど満足そうな雰囲気を感じる。
似た者同士で意気投合したのかしら。
スミレちゃんはそう言って去っていった。
今度会ったらちゃんとお礼をしないといけないわね。