勇者(候補)ユウの冒険章④ 4 御披露目会
(テリアside)
リーナさんの案内でわたし達は魔道具専門店にやってきた。
あまり大きい店じゃないけど色々な魔道具があり、種類も豊富だった。
妹さんのリーアと二人だけで経営してるなんて純粋にすごいと思った。
ユウが興味津々に魔道具を見ていて、リーアが魔道具の効果をいくつか見せてくれることになった。
まあ実際に使って見せてくれるのはリーナさんだけど。
リーアは魔道具作りは得意だけど使用は苦手とか言っていた。
逆にリーナさんは作るのは苦手だけど実際使用するのは得意分野だとか。
リーアは魔道具の用意のためカウンターの奥に入っていった。
少し時間がかかるようでその間はリーナさんが店番を代わっていた。
「結構忙しそうね」
「ぼくにも良い魔道具ばかりだとわかるからね。売れるのは当然だと思うよ」
わたしのつぶやきにユウが答えた。
しかし売れているのはリーア特製の良品ばかりみたい。
リーナさん特製の粗悪品············効果が特殊な魔道具はまったく売れていないようだった。
「リーナさん、これ下さい」
「はいはーい! いつもありがとね、スウォン!」
そう思っていたらリーナさん特製の魔道具を買っている冒険者がいた。
リーナさんと同じくらいの年齢の優しそうな顔立ちの男性だった。
「あの冒険者の人、✕印の魔道具ばかり買ってますねぇ? お金がないんですかねぇ」
「ミリィ、あれはどう見ても違うわよ」
あの人、リーナさんの笑顔の対応に分かりやすいくらいに赤くなっているわ。
「はい、あの方はお姉様に好意を持っておられますわね。お姉様は鈍感ですからまったく気付いていませんが」
奥から戻ってきたリーアが言う。
やっぱりそうだったのね。
「ねえねえスウォン、自分で言うのもなんだけど、あたしの作った魔道具使いづらくない?」
「そ、そんなことないよリーナさん! ちゃんと役に立っているよ」
リーナさんの問いに慌てて答える冒険者。
スウォンさんって言うみたいね。
「ははっ、確かにこの前は助かったよな」
「ああ、魔物の群れに囲まれてヤバかった時にリーナの〝爆裂符〟を使ったら一気に全滅できたしな」
「あの威力はさすがにビビったぜ」
スウォンさんの仲間だと思われる人達が口々に言う。
「あ······はは、魔力を込める量を間違えたかなー············」
それを聞いてリーナさんが冷や汗をかいていた。
リーアが戻ってきてさっそく魔道具の御披露目となった。
店の外には実験用の広いスペースがあり、そこで見せてくれるみたい。
ユウは興味津々でミリィは一緒に楽しそうにしている。マティアは興味ないようで眠そうにしているわ。
わたし達だけでなくさっきのスウォンさん達冒険者も見学するつもりみたいね。
「まず最初にこれは〝ジェットブーツ〟だよー! 靴の底から魔力を放出してすごいスピードを出せるんだよ!」
リーナさんが今説明した魔道具を使いぐるりとその場を一周する。
やっぱりただの靴じゃなかったのね。
魔物から逃げていた時、足が速いどころじゃないとは思ったのよね。
「止まる時は右足に力を入れて············あれ? 出力が下がらな············きゃあああっ!?」
止まろうとしたリーナさんだけどスピードが落ちずにそのまま壁に激突した。
だ、大丈夫かしら?
かなり派手にぶつかったけど。
スウォンさんがかなり心配そうにしているわ。
他の冒険者は苦笑いをしているけど。
「い······痛た······また失敗しちゃったよー······」
痛そうにしてるけどたいした怪我はないみたい。
「このように扱いが少し難しいのでお姉様のようにセットで〝衝撃緩和〟の魔道具もお使いください」
リーアが付け足して言った。
いつものことなのか姉を心配している様子がないわね。
他にも色々と見せてもらった。
実用的な物から扱いが難しそうなのまで様々だわ。
「最後はこちらになりますわ。これはまだ売り出していない実験的な物になりますが」
リーアがそう言って出したのは綺麗な宝石がいくつも付いた腕輪だった。
なんの魔道具かしら?
「ねえリーア、これどうやって使うの?」
リーナさんも初めてのようで使い方を知らないらしい。リーアが色々と説明している。
なんでもあの魔道具は〝服装取替〟といって宝石に収納効果が付与されていて、触れることで一瞬で収納されている装備に着替えることができるらしい。
「ではお姉様、まずは青い宝石に触れてみてください」
「これだね? えいっ」
触る時にかけ声はいらないんじゃないかしら?
リーナさんが青い宝石に触れると身体全体を光が包み込んでいった。
すぐに光は消えてリーナさんの服装が変わっていた。
魔導師が纏うようなローブ姿の格好だわ。
本当に一瞬で服が変わっちゃったわね。
リーナさん自身も驚いているわ。
「おおーっ!? すごいよリーア! いつの間にこんなの作ったの?」
「ではお姉様、次は赤い宝石に触れてみてください」
リーアに言われるままにリーナさんが赤い宝石に触れる。
再びリーナさんを光が包み、今度は鋼鉄の鎧を着た全身鎧姿になった。
「お······重いー············っ」
「このように状況に応じて服装を変化させられます」
潰れそうな声を出すリーナさんに構うことなくリーアが解説を続ける。
けどこの魔道具、結構使えるかもしれないわね。
状況に応じて装備を一瞬で変えられるってのはいいかも。
他にもパーティー用のドレスとか色々あった。
「これいいねリーア、じゃあこっちの白いのは······」
「あ、お姉様それは······」
リーアが何か言おうとしたけどその前にリーナさんが白い宝石に触れた。
今度はどんな衣装かしら?
光が収まりリーナさんの衣装が変化を終える。
············え?
「······え?」
リーナさんも自分の姿を見下ろし、わたしと同じ反応をする。
リーナさんの今の姿は下着姿············下着と呼んでいいのかしら?
細い紐のような物でギリギリ胸と下を隠しているだけの格好だった。
裸とたいして変わらないわ············。
むしろ裸よりも色々と······。
わたしは慌ててユウの両目を隠した。
「きゃああっ!? な、何これ、リーア!?」
すぐに自分の身体を隠そうとしたけど、隠せる物がない。
「男性の目を釘付けにするお色気用ですけど······少々過激過ぎましたわね。大丈夫ですわお姉様! 良い宣伝になっていますわ」
「なんの宣伝!!?」
誤魔化すようにいい笑顔でリーアが親指をグッとあげた。
見ていた冒険者達は反応に困っているわ。
スウォンさんって人はリーナさんを見ないように顔を隠しているけど············ここからでもわかるくらい真っ赤になっているわ。
「い······いやああーーっ!!」
恥ずかしさに耐えきれずにリーナさんが逃げるように店の中まで走っていった。
他の宝石に触れれば服装を変えられるのにそこまで頭が回らなかったみたい。
「お姉様が行ってしまったため、魔道具の御披露目はここまでになりますわ。これからも当店をよろしくお願い致します」
リーアが無理矢理締めくくって終わりとなった。