20 聖女セーラからの依頼
······なんで正義の仮面に変身したんだオレは。
セーラ達を助け、その場から離れたオレはちゃんと服を着て元の姿に戻った。
リンは正義の仮面を見て相当怯えていたけど大丈夫だろうか。
その後セーラ達は町へ戻り、この事態を報告していた。それから町中が大騒ぎだった。
なんでもオークキングの出現の可能性が出てきたとかでセーラ達も聖女の儀式どころじゃなくなったらしい。
オークキングはランクB相当の魔物で、単体でもサイクロプスを上回る強敵らしい。
何百年か前に別の大陸で現れたことがあるらしく、その時はいくつもの町が滅ぼされ、国そのものが危うかったそうだ。
そんなことが今この国で起ころうとしている。
そりゃ騒ぎにもなるよな。
領主直属の騎士、リヴィア教会の神殿騎士、そして冒険者。戦える者が集められる。
「オークキングの反応を確認! 他にグレートオークの反応が13!」
探知魔法を使える魔術師が報告する。
オークキングの出現は確定したらしい。
オークキング率いるオークの数は数万にものぼるようだ。
アルネージュの町の戦力は騎士と冒険者を合わせても数千くらいだった。
およそ10倍の差がある。
「オレ達はどうしようか?」
オレとシノブとアイラ姉は今は家にいる。
オレ達の冒険者ランクはE(一つランクアップした)なのでそれほど戦力としては重要な位置ではない。
ランクD以上の者がグレートオークなどを相手にするという話だ。
ランクの低い者が相手をすれば余計な犠牲が出るだけだからだとか。
「フム······そうだな······」
アイラ姉も判断しかねるようだ。
オレ達のレベルならオークキングも倒せるかもしれない。
しかし、あくまでもかもしれないだ。
オークキングのレベルはオレ達を遥かに上回る可能性もある。
楽観的な考えは危険だろう。
「アイラ殿、師匠、誰か来たでござるよ」
シノブが言う。来客のようだ。
こんな時に誰だ?
そう思って玄関を開けると、そこにいたのは聖女セーラとリンだった。
数人の護衛騎士の姿もある。
「突然失礼いたします。実はあなた方にお願いがあります」
セーラが頭を下げて言う。
聖女自らがオレ達にお願い?
······なんだろうか。
「私をオークキングのもとまで連れて行ってほしいのです」
セーラの用件は簡単に言えば護衛だった。
セーラ自らがオークキングの所に行くための。
「何故聖女であるセーラ殿がそんな危険なことを? オークキング討伐は騎士や冒険者に任せるべきでは?」
アイラ姉が問う。
「いえ、聖女だからこそ行くべきなのです」
セーラの話によると強い力を持つ魔物は倒せたとしても邪気を吐き出し、土地を蝕んでしまうという。
ああ、この町の土地を冒していたあの毒のことか。
オークキング程の魔物となるとどれ程の邪気を出すかわからない。
だから倒した直後に聖女の力で邪気を封じる必要があるらしい。
「なるほど、しかし何故それを私達に頼む? 騎士かランクの高い冒険者に依頼すべきだと思いますが」
「あなた方はサイクロプスを打ち倒しました。それ程の強さを持つ者はこの町にはいません。ですからあなた方がもっとも適任なのです」
確かにセーラの言うこともわかる。
この町の冒険者のレベルは10~30くらいだった。
騎士も大体30~50くらいである。
これはこの町の人間が弱いのではなくレベル30を超えればベテランと言えるレベルなのだ。
「冒険者ギルドのマスターにはすでに話はつけています。後はあなた方の返事次第です」
話が早いな。
そういえば冒険者ギルドのマスターにはまだ会ったことがないけど、そんなにオレ達って信頼されてるのか?
「フム······」
アイラ姉が考える。少ししてから口を開いた。
「レイ、シノブ、お前達はどうしたい?」
おっと、質問がこっちにきたか。
「オレは出来ればセーラ達の力になりたいと思ってるよ」
「拙者もセーラ殿のお願いを聞くべきだと思うでござる」
セーラとリンはもう知らない仲じゃない。
特にリンとは結構一緒にいたからな。
力になってあげたい。
「そうか······」
アイラ姉が笑みをうかべる。
「セーラ殿、貴女の願い、聞き入れましょう。ただし、こちらからも頼みたいことがある」
「はい、可能な限り聞き入れます」
アイラ姉の言葉にセーラが息を呑む。
「これを騎士や冒険者達に配ってほしい。聖女であるセーラ殿の名で」
そう言ってアイラ姉がアイテムボックスからある物を取り出す。
出したのは数多くの石だ。
何の変哲もないただの石だ。
その辺に落ちてるような。
「······これは!?」
セーラは石の一つを手にとって驚きの声をあげる。
どうやら鑑定魔法を使ったみたいだな。
それはただの石だがシノブが魔法を付与している。
効果は防御力アップの魔法だ。
その石を持っている者のパーティーは防御力が大きく上がる。
出来れば死人を出したくないというオレ達の配慮だ。まあ、お守り代わりだな。
ちなみにこの石、約10日くらいで効果は消える。今回だけ使える特別アイテムといった感じだ。
あまり無遠慮に強力なアイテムを渡すのもマズイだろうしね。
「何故私の名で? これはあなた方の物ですからあなた方の名で配るべきでは」
「聖女の力を秘めた守りの石とでも言えば皆快く受け取るだろう。それに私達はあまり目立ちたくないのです。だから私達の名は出さないでほしい」
正直今でも目立ってしまっている気はするが自重は必要だろう。
石の入手法なども聞かないでほしいと付け加えた。
「わかりました。何から何までありがとうございます。これに見合う報酬は後日必ずお支払いします」
セーラもオレ達が詳しい事情を喋りたくないということを察してくれたようだ。
これで話はまとまった。
オレ達はリンと共にセーラの護衛として戦場に立つ。
問題はオークキングの強さだな。
部下のグレートオークが平均65くらいのレベルだからオークキングはそれよりも少し高いくらいだろうか?
それとも圧倒的に高く、オレ達のレベルすら上回っているだろうか?
オークキングを見てみないことにはわからないな。
「それと皆さんに聞きたいのですが······正義の仮面という方をご存知ですか?」
セーラがそんなことを聞いてきた。
確かに素性がわからないのはオレ達も同じ。
関係があると考えられるかもしれない。
「正義の仮面? いや、初めて聞く名だ。どういう人物なのだ?」
アイラ姉が答える。
アイラ姉は本当に正義の仮面のことは知らないからな。
オレとシノブは後ろで冷や汗をかいていた。
「そうですね······顔は黒いマスクで隠し、少し特殊な格好をしている方です。先日オークの群れから私達を救ってくれたのです」
「ほう、そんな人物がいるのか。まさに正義の味方だな」
セーラの言葉にアイラ姉は感心したように言う。
おそらくアイラ姉は今の説明で特撮ヒーローのようなものを想像している。
······自分で言いたくはないが、見た目はただの変態なんだが。
「セーラ様、そんなことよりも今はオークキングのことに集中するべきですっ」
リンが横から強引に話を切った。
正義の仮面の話が出て、リンは複雑な表情をしてたからな。あまり思い出したくないのだろう。
オレもこれ以上話題にしてほしくない。
こうしてオレ達は聖女セーラの依頼を受けることになった。