162 アイラと仮面の男の決闘(※)
※(注)変態男が現れます。
(アイラside)
今日は学園は休日であり、普段なら人も少ないはずだが、学園のグラウンドには多くの生徒が集まっていた。
昨日、例の仮面の男と決闘の取り決めをして学園長にも許可を頂いた。
その話はすぐに広まり、こうして多くの見学者が集まったわけだ。
もう間も無く正午になる。
私は決闘の準備のため少し身体を動かす。
以前フェルケンとミールの決闘の時のように今回の審判も学園長リプシース殿が行うことになった。
あの謎の仮面男には学園長も頭を悩ませていたらしい。
「犯罪者じゃないとはいえ警備の厳重なはずの学園内にこうも簡単に入られるのは問題だったのよね。アイラさんが勝って正体を明かしてくれると助かるわ」
学園長の言うことはもっともだな。
私としてもどんな素顔なのか興味はある。
格好はともかく活躍だけを聞けば素晴らしい人物だからな。
聖女のルナシェア殿、リン殿、エイミ、ミール、ミウネーレの五人がかりでも敵わない程の実力者だ。
私も油断しないように気をつけなければな。
「アイラなら勝てると思うが油断しないようにな」
「私も応援してるわよ~、アイラ~」
リイネとキリシェも見学に来たようだ。
ロディン殿やルナシェア殿達の姿も見えた。
シノブ達も見学に来たか。
·········レイの姿がまだ見えないな。
「レイは来ていないのか?」
「さっき声をかけたのでそろそろ起きた頃だと思いますよ」
私がそう聞くとミールが答えてくれた。
ああ、まだ寝ていたのか。
レイは休日は起こさなければ昼過ぎまで寝ていることも珍しくないからな。
まったく············今度渇を入れてやらなければな。
――――――――ザワザワッ
生徒達の騒ぎが大きくなった。
例の仮面男が姿を現したようだ。
「お待たせしました。準備は万端のようですな」
昨日と同じ黒いマスクに下着一枚の姿だ。
服を着ることは出来ないのか?
「······お前のその格好は何とかならんのか?」
見ているだけで頭が痛くなりそうなので一応聞いてみた。
「大丈夫です、寒くはありませんから。それよりも準備が出来ているのなら始めましょう」
そういうことではない!
まあ言っても無駄そうだな············。
「············わかった、もういい。望み通り始めるとしようか」
私と仮面男がグラウンドの中央に立つ。
その周囲を見学者達が囲む。
私はあらかじめ用意していた模擬剣を構える。
決闘でオリハルコンの武器を使うわけにはいかないからな。
仮面男は武器も何も持たず無手だ。
「お前は武器を持たぬのか?」
「私はこの身そのものが武器ですから気遣いは無用です」
「フム······無手だからと私は手加減するつもりはないからな」
私を甘く見ているという雰囲気ではないな。
この男は武器を持たぬ格闘を得意としているのか?
まあ闘ってみればわかることか。
今回の決闘は武器も魔法も許可された真剣勝負だ。純粋に強い方が勝つ。
周囲に被害が出ぬように学園長やリイネ達が全力で結界を張っていた。
これで遠慮なく本気を出せるな。
「ではアイラ、正義の仮面······でいいのよね? お互い満足するまで闘りなさい!」
学園長の合図で決闘が始まった。
私は男がどう動こうと対処できるように集中する。
仮面男は仁王立ちの態勢から動かない。
「さあ遠慮はいりません。そちらからかかって来るといいでしょう」
隙がまるでないな············
だがそれなら望み通りこちらから仕掛けて様子を見るとしようか。
「余裕だな。ならばこの一撃、受けてみよ!」
私は一瞬で男の間合いに入り高速の突きを放った。
この一撃で決めるつもりで放ったのだが仮面男は私の突きを紙一重でかわした。
私は連続で男に斬りかかる。
「この程度の速さでは私には当たりませんよ」
「······そのようだな。ならばこれならどうだ!」
仮面男は私の動きを見切っているように紙一重でかわしていく。
なかなかに素早い。
「閃空追真斬っ!!」
私は剣を下から上へと振り上げ剣技を放った。
斬撃が目にも止まらぬ速さで男に向かっていく。
「はあっ!」
仮面男は素手で斬撃を弾いた。
今のはそれなりの威力があったはずだが······。
「今度はこちらがいかせてもらいます」
仮面男が間合いを詰めて足技で攻撃を仕掛けてきた。私は剣で男の攻撃を受ける。
······なんという重さ。
連続で受けると力負けしそうだ。
「クラッシュボム」
仮面男が魔法を放ってきた。
空気の塊のような物が私の目の前で破裂した。
たいした威力ではなかったが一瞬怯んでしまった。
その隙を突かれ男の蹴りをまともに受けた。
「くっ······」
私は仮面男から距離をとる。
これほどまでに強いとはな。
体術だけでなく魔法の扱いにも長けているようだ。
だが魔法なら私も使えるのだぞ。
レイほど自由自在には扱えんがそれなりの威力も出せる。
「ブースト」
私は強化魔法を自身にかけた。
これにより〈力〉と〈敏捷〉が大きく上昇した。
この男には遠慮も手加減も無用のようだ。
私の力のすべてを出し尽くしてかかるとしよう。