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突然異世界転移生活 ~たまに変態が出没する異世界冒険記~  作者: キューブック
第二章 始まりの町アルネージュでの出来事
19/735

19 正義の仮面再び(※)

(セーラside)


 アルネージュの町に来て1ヶ月。

 ようやく儀式の日が来ました。

 今日は夜空に浮かぶ()()の月がすべて満月になる日です。


 3つの月はそれぞれがバラバラに満ち欠けをしますが、およそ3ヶ月に一度、すべての月が丸く輝くのです。儀式の準備は万全です。

 今日失敗してしまったら次はまた3ヶ月後になってしまいますからね。



 予定通りエルティオ湖に向かいます。

 馬車に乗り、外には頼もしい騎士達が、横にはリンが護衛に付いています。


 そういえばこの1ヶ月、リンの成長ぶりが目まぐるしいです。

 なんとレベルが65にまで上がっていて、昨日一番強い騎士隊長との模擬戦に勝利していました。

 一体どんな特訓をしていたのでしょうか?



 そんなことを思ってリンを見たのですが何か様子がおかしいです。

 難しい表情をしていたかと思えば、いきなり顔を真っ赤にしてブンブンと頭を振っています。

 普段のリンの行動ではないです。


「どうしたのですか、リン?」


 心配になってリンに声をかけます。


「いえ、大丈夫です、セーラ様」


 リンはすぐに表情を引き締め、普段通りに戻ります。心配ではありますがここはそっとしておきましょう。



 このまま平和に進んでいくと思ったのですが事態が急転します。

 前方にオークの集団が現れたのです。

 しかも4人の男性、おそらく冒険者さんが襲われています。


「すぐに彼らを助けるのですっ!!」


 私は騎士達に指示しました。

 私を護衛してくれている騎士はとても優秀で、たった10人でもその10倍、20倍の数のオークなら倒せるはずです。

 しかし敵はオークだけではありませんでした。

 ハイオークが多数、そしてグレートオークが4体。絶望的な戦力です。

 冒険者の一人が囮になってグレートオーク1体とオークの一部を惹き付けてくれましたが、まだ敵の数が多い。


「セーラ様っ!!」


 リンが私を庇いながら馬車の外に脱出します。

 グレートオークの1体が馬車を破壊したのです。


「悪しき邪を払え、セイクリッド·レイ!!」


 私は「聖」属性の中級魔法を放ち、周囲のオークを滅します。

 まだ聖女候補でしかない私では中級までが限度です。10数体のオークは倒せましたがこれでは焼け石に水です。

 2体のグレートオークが私を睨みます。

 ······明らかに私を狙っているようですね。



 リンが私を守りながら戦います。

 ですが敵の数が多すぎます。

 いつの間にかオーク達に囲まれて逃げ場がありません。


「地獄の業火よ敵を焼き払えっ、デスクリムゾンッ!!」


 リンが「炎」魔法を撃ちました。

 凄い、これは「炎」の上級魔法。

 これ程の魔法を使えるようになっていたのですか。リンの魔法によって多数のオークを倒せました。

 しかしグレートオークはまだ生きています。

 むしろ今の攻撃で完全に怒らせてしまったようです。


「セーラ様、お逃げ下さい! ここはわたしが引き受けます」


 リンがそんなことを言い出しました。


「しかしリン、それではあなたが······」


 いくらレベルが高くてもグレートオークに多数のオークを相手に無事に済むはずありません。


「わたしのことは気になさらず、ここで聖女であるセーラ様を死なせるわけにはいきません!」

「······ですが······」


 確信しました。リンは死ぬ気です。

 命を捨ててでも私を守る気です。

 聖女になることでこういう事態も覚悟していた。

 していたつもりだった。

 リンが死ぬ······そんなの嫌です。



「······姉さま、今日まであなたの傍にいられてわたしは幸せでした」


 リンが笑顔で言います。

 こんな時に昔の呼び方をしないでください!

 まるでこれが最後みたいじゃないですか。



「ブモオーーッ!!」


 リンに向けてグレートオークの巨大な斧が振り下ろされます。

 私は恐怖のあまり目を閉じました。

 ああ、やはり私は聖女の器ではなかったようです。



 ······しばらく目を閉じていましたが、周囲が静かです。

 私はそっと目を開けます。


「大丈夫ですか? お嬢さん方」

「···っ!!!???」


 知らない男性がグレートオークの攻撃を受け止めていました。

 私は驚きのあまり声が出ません。

 だってその男性の格好がおかしいんです。

 黒いマスクで顔を隠し、体は······男性用の下着一枚の姿のほとんど裸のような姿です。


 ······はっきり言ってしまうと変態ですね。


「ひぃっ!!?」


 リンがその男性を見て悲鳴をあげます。

 さっきまでの覚悟の表情がウソのようです。


「ここは私がなんとかしましょう。ご安心ください」


 男性はそう言ってオーク達の方を向きます。

 後ろ姿はその、下着の布面積があまりに少ないせいでおしりが丸見えなんですが······。

 しかし、見た目はおかしいですけど言動はまともです。リンの怯え方が異常に見えますが。


「魔物は私が倒します。そんなに怯える必要はありませんよ」


 いえ、リンは貴方を見て怯えているように見えるのですが······?

 しかしおかしいですね。

 リンは男性が苦手ですが、いつも鋭い目で睨み付けることはあってもこんなに怯えるのを見るのは初めてです。


 リンは私の横で「ゆ、夢じゃなかった······」とつぶやいていますが何のことでしょうか?

 いえ、今はそんなことを考えている場合じゃありませんでした。


「「ブモオッ!!」」


 グレートオークが2体同時に襲ってきました。

 男性は裸同然で武器も何も持っていません。


「ふんっ!!」


 なんと男性はグレートオークの斧を素手で受け止めました。

 しかも二つ同時に、それぞれ片手で。


「とうっ!!」

「ブモオッ!?」「ブギィッ!?」


 男性は斧を無理やり奪い、逆にグレートオークに振り落としました。

 2体のグレートオークはそれぞれ真っ二つになりました。


「アイススコール!」


 続けて男性が魔法を放ちました。

 鋭い氷の刃が降りそそぎます。騎士や冒険者達には当たらず、残りのグレートオークとオーク達に向けて無数の氷が降ります。


「ブギィッ!?」「ブギャアッ」「ブビィ!?」


 わずか数秒でオークの群れが全滅しました。

 何者でしょうか、この男性は?

 とてつもない実力者です。


「もう安心です、この通り魔物は全滅しました」


 何事もなかったように男性がこちらに来ます。


「あの、貴方は一体······?」


 ようやく声が出せました。

 まずは男性の素性を問います。


「私の名は正義の仮面。偶然通りかかったのでお助けしたまでです」


 正義の仮面······。

 確かに格好さえ気にしなければ正義の味方と言えますね。



[正義の仮面] 鑑定不能



 鑑定は不可能ですか······。

 名前も正義の仮面と出ていますが、いくらなんでも本名じゃないでしょう。

 しかし悪い人ではなさそうです。

 ······おかしな格好ですが。


 それよりも危機は去りましたが騎士や冒険者さん達は無事でしょうか?



 皆生きています。

 しかし大きな怪我をされた方が何人かいます。

 私の「聖」魔法でも癒せるかわからない程ひどい傷の方も······。


「怪我人にはこれをお使いください」


 男性が薬を差し出してきました。

 ······今、どこから出しましたか?

 男性の下着の中から出てきたような······いえ、きっと収納魔法でしょう。

 とてもあそこから出せる量ではありませんから。



〈上級ポーション〉

あらゆる傷を治す特級を除けば最高級の薬。



 ってこれは上級ポーション!?

 こんな貴重な薬を人数分用意したのですか!?


「あ、ありがとうございます。しかし、今は手持ちがなく対価を支払えません。後日、相応の支払いを······」

「対価は必要ありません。気になさらずにお使いください」


 本気ですか、この方!?

 上級ポーション1本で金貨数十枚の価値があるのですよ!?


「しかし、これ程の物を受け取って何も報いないわけには······」

「私が求めるのは平和な世界です。報いたいと言うならば聖女となり世界を平和に導いてください」


 真っ直ぐに偽りを感じない言葉です。

 この方は私を聖女にふさわしいと思ってくれているのでしょうか?


「しかし、残念ですが聖女の儀式とやらは日を改めた方がいいかと。まだ不穏な予感がします」

「······!!」


 そうです、この方の言う通り。

 グレートオークが複数現れたということはオークキングが生まれた可能性が高い。

 オークキングの強さは単体でもランクBに相当します。その上、数多くのオーク達を率いていれば脅威度はA以上です。

 アルネージュの町だけでなく国全体の危機です。

 すぐに大司教様、そして領主様に知らせ対策を練らなければ。


「ありがとうございます正義の仮面さん。後日、必ずお礼をいたします」

「では私はこれで······さらば!」


 そう言って正義の仮面さんは走り去っていきました。一体何者だったのでしょうか。

 何故あのような格好を······?

 気になることはありますが、今は皆の手当て、そしてオークキングへの対策を考えるのが先です。


「リン、この薬で皆の手当てを」

「は、はは······はいっ!?」


 リンの口がうまく回っていません。

 まだ怯えていたようです。

 確かに目のやり場に困る格好でしたが、そこまで怯えることもないと思うのですが。

 意外と紳士的な方でしたし。



「不浄なる傷を癒せ、エリアヒール!!」


 私の「聖」魔法と、あの方がくれた上級ポーションのおかげで一人の死者も出すことなくすみました。

 今回の儀式は諦めなければなりませんが、次の満月の日まで待てばいいだけです。



 それよりもオークキング。

 まだ生まれたとは限りませんが、もし生まれていたのなら国の危機です。

 なんとかこの事態を乗りきらなければ······。






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