勇者(候補)ユウの冒険章③ 2 異形の魔物
(テリアside)
ユウがレーデの森で小規模な結界を見つけた。
どうやらこの結界は消えかかっているみたいね。
「あの魔物の影響かしら? 消滅しかかっているわね」
わたしの言う魔物とはルナティック・プラントのことだ。
この周囲にも伝説の魔物の傷跡が生々しく残っている。
「中に入ってみようか」
ユウが手をかざすと結界は完全に消滅した。
············消して大丈夫なものだったのかしら?
結界が消えると大きな建物が姿を現した。
何かの研究施設?
小規模だけどそんな感じの建物だ。
「何の建物ですかねぇ? 鍵がかかって入れませんよぉ」
ミリィが建物の入口の扉に触れて言う。
扉はそれなりに頑丈そうね。
「どいてミリィ、わたしが開けるから」
放っておいたら扉を破壊しそうだったからわたしが前に出た。
鍵くらいなら(物質具現化)スキルで簡単に作れるわ。
鍵穴にピッタリの物を作り出し扉を開けた。
「さすがテリアだね」
「これくらい、ユウにも出来るでしょ?」
ユウもわたしと同じ(物質具現化)を使えるんだし出来るはずよ。
多少の制限はあるけど思い描いたものを作り出せるから便利なのよね。
建物の中は薄暗く不気味な感じだった。
人の気配はないわね。
「誰もいませんねぇ? ずーっと放置されてるって感じですよぉ」
ミリィの言う通り建物の中はある程度整えられてはいるけど生活感も何もなかった。
特に気になる物もないわね。
「スキルが反応してるのはこっちの方かな?」
ユウがスキルの反応(?)を頼りに進んでいく。
鍵のかかった扉がいくつかあったけど簡単に開けられた。
奥まで行くと液体の入った容器がたくさんある広い部屋に着いた。
容器は手の平サイズから人が入れそうなくらいのものまで様々だった。
何か作っていたみたいね。でも一体何を?
―――――――ガシャンッ!!
何かが割れた音が響いた。
中身の入った容器があったみたいで割れて飛び出してきた。
「ウウウッ············」
魔物!? 容器の中に入っていたのは生物だった。
ただ、形が歪で何の魔物かわからない。
「魔物みたいだね」
「気持ち悪い魔物ですねぇ?」
ユウとミリィが警戒して構える。
―――ガシャンッ! ガシャンッ! ガシャンッ!
中身の入った容器が次々と割れて魔物が出てくる。
ゴブリンみたいのだったりウルフみたいだったり種類は様々だけどどれも普通じゃない姿をしていた。
腕が三本あったり、目玉が飛び出していたり、翼のような物を生やしていたり············色々な魔物の特徴を混ぜ合わせたような感じね。
「「「ガアアアッ!!」」」
魔物はわたし達を見るなり襲いかかってきた。
わたしは素早く(物質具現化)で弓矢を作り出し放った。
「ソード・レイン!!」
ユウもスキルで無数の剣を作り出して放った。
雨のように剣が降りそそぎ魔物に突き刺さる。
「気持ち悪いからこっちに来ないでくださいぃ!!」
ミリィは魔力の塊を放って攻撃していた。
見た目は気持ち悪いけどたいした魔物じゃないみたいね。
すぐに魔物を全滅させた。
それにしてもこの魔物は何なのかしら?
部屋に日記のような書物があったから読んでみた。
「············ここはかつての魔王軍の拠点の一つだったみたいね」
魔王軍はここを拠点にして人族の領域を侵略していたみたい。
書物は研究資料だったみたいでここでは様々な実験が行われていたらしい。
魔物と魔物を組み合わせて新たな魔物を作り出したり、捕らえた人間の一部を使って············じっくり読みたくない内容だわ。
「もしかしてあの食獣植物もここで作られた魔物だったのかな?」
多分ユウの言った通りね。
人の領域でこんな拠点を作って好き放題やっていたようね。
「ねえユウ、勇者のスキルが教えてくれてたのってコイツらのことなの?」
確かにこんな奴らを放っておいたら、いつ近くの町を襲いに来るかわからないけど。
勇者のスキルがコイツらを退治しろと言ってるのかしら?
「う~ん············ちょっと待ってテリア。ぼくも詳しくはまだわからないから」
ユウが考え込むように言う。
――――――ガシャアアアンッ!!!
奥の方から容器の割れる音が響いた。
今までのより大きな音だわ。
「グウウウッ!!!」
他の容器よりも大きな物から魔物が飛び出してきた。
容器の大きさと同じく魔物も一回り大きいわ。
コイツが動くたびに地響きが起きる。
「他のよりもさらに気持ち悪い見た目ですねぇ」
ミリィがイヤそうな表情で言う。
巨大なウルフのような姿だけど足が六本あるし、尻尾は蛇のような見た目だわ。
飛べるとは思えないけど鳥のような翼と蝙蝠のような翼を片方ずつ生やしている。
身体の所々から触手のような物も伸びてるし············まともな生物じゃないわね。
コイツは雑魚じゃなさそうだわ。