勇者(候補)ユウの冒険章③ 1 レーデの森の謎の結界
番外編です。
レイ達とは別視点のストーリーになります。
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ユウ達がヴィーラルの町に来てから一ヶ月が経とうとしていた。
ヴィーラルの町で出会った病気の少女エレナはユウが霊草ルナリーフから作り出した薬によって完治した。
病気が完治したといってもまだリハビリのために病院で生活していた。
「ユウ、テリア、ミリィ······本当にありがとう」
エレナが改めてユウ達にお礼を言った。
生まれた時から病魔に冒されていたエレナにとって健康な身体というのはそれだけで新鮮だった。
「お礼はいらないわよエレナ。わたしもエレナの病気が治ってうれしいわ」
「ミリィだってそうですよぉ」
テリアとミリィが笑顔で答えた。
「エレナはいつまで病院にいるの? 確かエレナの家は王都にあるんだよね?」
ユウがエレナに問う。
エレナは病気のため残された時間を静かな田舎町で暮らしたいということで、ここヴィーラルに来ていた。
病気が治りリハビリである程度身体が元気になれば王都に戻る予定だ。
「来週には王都に戻るつもりよ。その時はユウ達も一緒に来てね。ママを紹介したいから」
エレナの父親とはユウ達は何度も会っているが母親の方はまだお目にかかったことはない。
父親同様に優しい人物らしい。
「うん、エレナのお母さんならぼくも会ってみたいな。後、王都に行ったらリヴィア教の本殿にも顔を出すんだっけ?」
王都には女神リヴィアを崇める教会の本殿がある。
エレナは先日、魔物との戦いの中で
(聖女の資格)のスキルを授かっていた。
女神の洗礼を受けるために本殿に行く必要があった。
「聖女エレナかあ············うん、似合ってるね」
「やめてよユウ、つい最近まで病気だった私がいきなり聖女だなんて似合わないわよ············。それにそれを言うならユウだって勇者でしょ? ユウも女神様の洗礼を受けた方がいいわよ」
「ええー、ぼく勇者なんてやるつもりはないんだけど?」
「私だって聖女なんて器じゃないわよ!」
ユウとエレナがそれぞれ言う。
二人はまだ候補ではあるものの(勇者)と
(聖女)という大事な立場にいた。
エレナはリハビリを兼ねた診察のために治療室に入っていった。
楽しいお喋りを終えてユウ、テリア、ミリィの三人は病院の外に出た。
「この後どうしようかしら? 時間もあるし冒険者ギルドの依頼でも覗いてみる?」
「でも昨日もたいした依頼はありませんでしたよぉ?」
テリアの提案にミリィは乗り気ではなさそうだ。
ヴィーラルは小さな町のため、そうそう特別な依頼は来ない。
「ちょっと気になることがあるから、ぼくはレーデの森に行きたいな」
ユウが言う。
レーデの森とは町の東にある深い森のことだ。
ユウ達は以前に霊草ルナリーフを咲かせる場所を探すために何度か行ったことがある。
「気になること?」
「うん、ぼくの勇者のスキルが反応してるんだよ。あの森に何かあるって」
テリアの言葉にユウが答える。
「もしかしてあの植物が復活しそうとかですかぁ?」
ミリィの言う植物とは前回ユウ達全員の力を合わせて何とか倒した伝説の魔物のことだ。
凄まじい再生力を持っていたので確かに復活の可能性はあるかもしれない。
「いや、そういう感じじゃないかな。うまく説明できないけど何かに呼ばれてる気がするんだ」
ユウ自身にもはっきりはわからないらしい。
特に予定もなかったのでユウ達はレーデの森に向かうことにした。
レーデの森は魔物が出てくるがユウ達の敵ではない。ルナティック・プラントのような伝説の魔物もそうそう現れたりはしないだろう。
レーデの森に入り、ユウは勇者のスキルの反応に導かれるように進んでいく。
森の中はルナティック・プラントに荒らされた木々もほとんど元通りになっていた。
この森の木々は再生力が高いようだ。
「うーん············こっちの方かな?」
「ちょっとユウ、本当にこっちに何かあるの?」
ユウの後ろに付いて行きながらテリアが言う。
レーデの森はそれなりに広いため適当に進めば迷いそうである。
「魔物も出てきませんねぇ? 天気も良いですし散歩するなら気持ちいいんですけどねぇ」
ミリィは暢気にそんなことを言っていた。
魔物はユウ達を恐れているのかまったく現れない。
しばらく進むとユウが立ち止まった。
「どうやらこれに反応してたみたいだ」
ユウの前には一見何かあるようには見えない。
「結界? エイダスティアに張られていたのより規模は小さいみたいだけど」
テリアが言う。
そこには小規模だが結界が張られていた。
何かあるのは間違いなさそうだ。