18 リンの決意
(リンside)
今日はついにセーラ様の儀式を行う日です。
この儀式を成功させることで、セーラ様は正式な聖女に一歩近づく。
アルネージュの町に着いてから1ヶ月、色々なことがありました。
レイさんとシノブさんとの特訓によってわたしのレベルは65になりました。
1ヶ月、正確には二週間くらいですが信じられない早さでのレベルアップです。
セーラ様を守る護衛騎士隊長のレベルが55。
わたしはそれを上回っていた。
やはり彼らは普通ではない。
それは間違いないでしょう。
しかし、どういうことなのかわからない。
特別な特訓をしたわけではない。
単に魔物を狩っただけです。
素振りや走り込みなどの基礎体力作りでも続ければレベルは上がりますが実戦はより多くの経験値が入る。
それでもこのレベルアップは異常ですが······。
クイーンビーの上位種のように格上の魔物を倒しても普通はレベルが1~2上がるくらいのはずです。
どういうことでしょう?
レイさん達三人の異常な強さの秘密はそこにあるのでしょうが。
異常と言えば先日現れた正義の仮面と名乗る変態男、あれも色々と異常でした······。
わたしは戦いを挑んだあげく、あの男の············ってあれは夢です! あんな男は実在しません!
わたしは頭をブンブン振ってその記憶を振り払います。
「どうしたのですか、リン?」
横からセーラ様が心配そうに声をかけてきました。そうでした、今は大切な護衛をしているのです。
あんな悪夢は忘れましょう。
「いえ、大丈夫です、セーラ様」
そうして馬車が進んで行きます。
目指すは女神の泉と呼ばれているエルティオ湖。
儀式はそこで行われます。
―――――――オオオオオオーーッ!!!
しばらく進むと前方から凄まじい唸り声が聞こえてきました。
わたしは馬車から顔を出し確認します。
「っ!!?」
外にいたのはオークの大群です。
ざっと確認しても数百はいるでしょう。
そしてそのオーク達と戦っている冒険者らしき人も見えます。
全部で4人。······全員男性ですか。
しかし、そんなことを気にしている場合じゃありません。
そもそもなんなのですか、このオークの大群は!? こんな数異常過ぎます。
「すぐに彼らを助けるのですっ!!」
セーラ様が騎士達に指示します。
騎士のレベルは30~40です。
オークなど物の数ではありません。
―――――ズンッ、ズンッ、ズンッ
大きな地響きがしました。
オークの中から一際大きなオークが現れました。
[グレートオーク] レベル62
ステータスの鑑定に失敗しました。
[グレートオーク] レベル68
ステータスの鑑定に失敗しました。
[グレートオーク] レベル66
ステータスの鑑定に失敗しました。
[グレートオーク] レベル63
ステータスの鑑定に失敗しました。
グレートオーク!? しかも4体とも!?
ありえない!
ランクCの上位にあたる強力な魔物です。
1体だけでも脅威なのにそれが4体。
それ以外にもハイオークといった上位種が何体もいます。
まさかオークキングが生まれたのでは?
グレートオークが4体も現れたのなら可能性があります。そうだとしたら脅威度ランクA。
最悪な事態です。
「おらぁーーっ!!」
冒険者の一人がオーク達に斬りかかっていきます。どうやら負傷した仲間を庇ったようです。
「こっちに来いっ、豚どもが!」
冒険者が挑発してオーク達を惹き付けました。
グレートオーク1体と多数のオーク達がその冒険者を追いかけていきます。
大丈夫でしょうか?
しかし、心配している余裕はありません。
1体引き付けてくれたとはいえ、まだグレートオークは3体残っています。
「セーラ様っ!!」
グレートオークの一撃で馬車が破壊され、セーラ様とともに外に脱出します。
「悪しき邪を払え······セイクリッド·レイ!!」
セーラ様の「聖」魔法で周囲のオークを滅します。しかし、グレートオークは倒せませんでした。
それにオークの数が多すぎます。
騎士達が総掛かりでグレートオークを1体押さえていますが残りの2体がこちらに来ます。
「はああっ!!」
わたしは雄叫びのスキルを使い、自分自身の攻撃力を上げます。
(雄叫び)
叫び声を上げることで力が一時的に上昇する。
力を上げたわたしはそのままの勢いでグレートオークを斬ります。
「グモオオッ!!」
くっ、硬い。雄叫びを使ってもグレートオークに決定的なダメージを与えられない。
敵はグレートオークだけではありません。
オークやハイオーク達が周囲を囲み、逃げ道を塞いできました。
······せめてセーラ様だけでも逃がさなければ。
「地獄の業火よ敵を焼き払えっ、デスクリムゾンッ!!」
わたしは周囲のオーク達に向けて魔法を放ちました。つい先日覚えたばかりの「炎」属性の上級魔法です。
中級のヘルフレアとは比べ物にならない威力で、オーク達を焼き尽くします。
グレートオークはこの魔法にも耐えました。
しかし道は拓けました。
「セーラ様、お逃げ下さい! ここはわたしが引き受けます」
「しかしリン、それではあなたが······」
わたしが囮となり、オーク達の注意を惹き付けます。これならセーラ様は助かるはずです。
「わたしのことは気になさらず! ここで聖女であるセーラ様を死なせるわけにはいきません!」
「······ですが······」
優しいお方です。セーラ様······。
こんな状況でも御自身よりわたしの身を案じてくれている。
「······姉さま、今日まであなたの傍にいられてわたしは幸せでした」
最後くらい昔のように呼んでもいいですよね?
セーラ様を背に、わたしはオーク達に突進しました。