17 オークの軍勢
異世界に来て1ヶ月が過ぎた。
まだ元の世界に帰る方法は見つかっていない。
そもそも色々やることがあったため、ろくに帰る方法を探せてなかったというのが現状だ。
アルネージュの町の孤児達を救い、第三地区の住人を救い、町全体の食料問題も解決した。
まあ解決したというより気が付いたらそういうことになってただけなんだけど。
アイラ姉曰く、助けるならば最後まで徹底的に、だそうだ。中途半端に放り出すとかえって状況を悪化させることにもなりかねないからだとか。
今日もアイラ姉は子供達を鍛えている。
もう子供達のレベルは30を超えていて、かなりの強さになっていた。
子供達全員を一気に鍛えているわけではないので残った子達はオレの作った果樹園や畑の管理をしている。
アイラ姉が商業ギルドマスターと交渉して、ここの作物を他の地区に回しているのだ。
アルネージュの町は食糧難で食材が少なかったことと、ここの果物や野菜は通常の物より味がいいため、毎日大量に売れている。
もうオレ達がいなくなっても問題なさそうなくらいだ。
「師匠、魔物でござる」
シノブの指差した方にゴブリン数体とウルフが何匹か見えた。
オレとシノブの二人で冒険者ギルドの依頼を適当にこなしていた。
昨日まではリンのレベル上げを手伝っていたのだが、今日はリンはいない。
聖女候補のセーラの儀式の準備が整ったということでリンは本来の仕事であるセーラの護衛に出ていた。
昨日の時点でのリンのレベルは65。
多少強力な魔物が出ても今のリンなら倒せるだろう。
「しかし、倒しても倒しても魔物は減らないな」
「本当でござるな」
現れた魔物を軽く倒し、シノブとそんな言葉を交わす。リンのレベル上げでも相当狩ったはずだが魔物がいなくなる様子はない。
魔物ってどういうふうに生まれるんだろうか。
考えてもわからないし、まあいいか。
その後も現れる魔物を倒し周囲の薬草などを回収する。
「さて、一旦町まで戻······」
といいかけた所でメニュー画面のMAPに異常を見つけた。少し離れた場所に多数の魔物の反応。
そして1つの人の反応。
どうやら人が魔物の群れに襲われているらしい。
「師匠っ」
「ああ、すぐに行こう」
シノブも気付いたようだ。
すぐにその場所に駆けつける。
魔物に襲われているのは冒険者のようだ。
二十代くらいの男性でレベルは23。
魔物の方はオークが20体くらいに、ハイオークが5体。
そして初めてみるタイプのオークが1体。
[グレートオーク] レベル62
〈体力〉2200/2200
〈力〉720〈敏捷〉350〈魔力〉0
〈スキル〉
(統率)(力強化)
強い。他のオークとは文字通りレベルが違う。
普通のオークのレベルが平均10前後だ。
ハイオークで20~30くらい。
名前からしてハイオークの更に上位種だろうか。
オークやハイオークはボロボロの皮鎧なのにコイツだけは騎士が着ているような立派なものだ。
武器は巨大な斧。
コイツ自体が並みのオークの倍以上のサイズなので普通サイズの斧に見えてしまう。
「助太刀するでござるよっ」
シノブが周囲のオークをオリハルコンの小太刀で斬り倒していく。
オレもオークを倒しながら冒険者の下に駆け寄った。
「助けか······? だ、だが逃げろっ、そのオークはとても敵う相手じゃない!」
ボロボロで血まみれだが冒険者はまだ生きている。
しかもこっちの身を案じてくれている。
なかなかいい人みたいだ。死なせたくはないな。
「シノブ、魔法を撃つからこっちに来い!」
「了解でござる!」
オレとシノブ、冒険者の周囲をオーク達が取り囲むように立つ。
いい感じの配置だな。
「エアスラッシュ!!」
「風」属性の下級魔法だ。
真空の刃となった風で敵を切り刻む。
本来は敵一体に攻撃するものだが、オレが魔力を少し込めるだけで周囲に暴風が巻き起こる。
「ブギィッ」「ブモオッ」「ブギャアッ」
オーク、ハイオーク関係無く切り刻まれていく。
すべてのオークを倒したと思ったが問題の一番強い奴だけが残った。
「グオオーーッ!!」
グレートオークがスキルの(力強化)を使ったようだ。力が約30%アップして1000近くになっている。
攻撃力だけならサイクロプスを上回ったな。
オレは剣を取り出し構える。
オリハルコンの剣だ。
「ブモオオオッ!!?」
グレートオークの斧も鎧も関係無しに斬り裂いた。さすがはオリハルコンの剣、スパスパ斬れる。
「トドメでござるっ!」
シノブが追い打ちをかけてトドメを刺した。
これでオークの群れは全滅だな。
倒したオークはアイテムボックスに収納する。
後日、冒険者ギルドに持っていくとしよう。
それよりも今は傷ついた冒険者だ。
「あ、あの数のオークを······グレートオークまで倒したのか······信じられない······」
冒険者はオレ達の戦いぶりに驚いていた。
「これで傷を治すでござるよ」
シノブが冒険者に薬を与える。
上級ポーションだ。
これくらいの傷なら特級は必要ないだろう。
ポーションはゲームでもお馴染みの回復薬だがこの世界にはランク分けがあった。
〈下級〉
小さな傷を治す。深い傷には血止めになる。
〈中級〉
下級では治せない深い傷を治す。より深い傷には効果は薄い。
〈上級〉
死んでいない限り大抵の傷を治せる。
〈特級〉
失われた手足など、部位欠損した身体も再生できる。
大体こんな感じかな。
前に特級のポーションや万能薬を使った時はすごく驚かれた。
特級クラスになるとほとんど世に出回らないらしい。店で買えるのは精々中級までだった。
彼の傷は中級では治せるか怪しかったので上級を使った。
「じ、上級ポーション······か? こんな高価な物を······」
「しゃべると身体に毒でござるよ」
冒険者の身体はみるみる回復していく。
すごい効果だな。
しかし血を流しすぎていたようだ。
まだ顔色が悪い。
命の危険はもうなさそうだが休んだ方がいいだろう。上級ポーションでも失った血までは戻らない。
「そ、そうだっ······まだ聖女様が······仲間も······」
冒険者が懸命に訴える。
どうやらこのオーク達はほんの一部でまだまだいるらしい。聖女様というとセーラのことかな?
ならリンも一緒にいるはず。
この冒険者は囮になってオークの一部隊を引き付けたらしい。
それだけ言うと冒険者は気を失ってしまった。
これだけ血を流してかなり無茶をしてたんだな。
「シノブ、悪いけどこの人を町まで運んであげて」
「師匠は······助けに行くでござるな?」
「ああ」
この冒険者をこんな所に置いていくわけにはいかない。だがオークの群れに襲われているであろうセーラ達を早く助けに行かなければ。
探知魔法で調べると少し離れた場所に多数の反応があった。グレートオークが3体。
そしてオークとハイオークが数えるのが面倒なくらいいる。
人の反応はやはりセーラとリンだ。
それと騎士と思われるのが10人。
冒険者が3人。
リンのレベルは65。
さっきのグレートオークは62だった。
リンの方が上回っているが、同レベルの相手を3体は厳しいだろう。
他の騎士や冒険者のレベルはここからじゃわからないがかなり厳しい戦いになってそうだ。
「拙者もアイラ殿に知らせてすぐに駆けつけるでござるっ」
シノブが気絶した冒険者を抱えて町へと向かった。オレも急いだ方がよさそうだ。
この時オレは無意識にポケットの中の例のものを掴んでいることに気付いていなかった。