閑話⑤ 2 立て続けの騒動
(セーラside)
「結構買い込んでしまいましたね、セーラ様」
「ふふっ······そうですね、リン」
久しぶりのリンとのショッピングが楽しくてついつい色々買ってしまいました。
普段行動する時は騎士が常に護衛につくのであまり自由に動けないので、こういう時間は新鮮です。
今日の護衛役はリン一人でいいと納得してもらいました。
ちなみに今の私とリンの格好は下町の平民のような服装です。
聖女の姿と護衛騎士の鎧では目立ちますからね。
この格好なら聖女と護衛騎士ではなく普通に姉妹に見えるでしょう。
そうして楽しみながら歩いていると何やら大通りの方で騒ぎが起きています。
「そ、そっちへ行ったぞーっ!!」
「ア、アンタら逃げてくれーっ!!」
何人かの人が口々に叫んでいます。
私達の方に興奮した大型の馬が狂ったように向かってきました。
どうやら馬車用の馬が制御できなくなり暴れているようです。
「リン!」
「おまかせ下さいっ、セーラ様!」
私の前にリンが立ちます。
暴れ馬の進路上に立ち、待ち受ける体勢です。
小柄なリンの無謀とも言える行動に周囲の人々が悲鳴をあげます。
「はあっ!!」
リンが両手で暴れ馬を押さえつけました。
馬は鼻息を荒くして暴れようとしますが、リンに押さえつけられてまったく動けません。
しばらく押さえていると馬はだんだんとおとなしくなっていきました。
「ほら、もう暴れてはダメですよ」
「ブルルルッ······」
すっかりおとなしくなったことでリンが手を離します。
「あ、ありがとうございます! た······助かりました」
馬の飼い主の方が慌てて頭を下げました。
大事にならなくてよかったです。
ですが何人か怪我をされている方がいますね。
「不浄なる傷を癒せ······エリアヒール!」
私は「聖」属性の回復魔法を使いました。
私を中心に目に見える範囲の人達の傷が癒えていきます。
「おおっ、傷が······」「なんて温かい光······」
「もしや聖女様······?」
······少しやりすぎましたか?
私が聖女だと気付かれそうです。
「セーラ様、早くここから離れましょう!」
リンに手を引っ張られて私達はその場を離れます。人の目を引かないように裏通りの方に入りました。
「セーラ様、無闇に力を使わない方がいいですよ」
リンにそう注意されましたが、聖女として目の前で怪我をしている人を無視することは出来ませんよ。
さて、この後はどうしましょうか?
さすがに大通りの方に戻るのはまずいでしょうし············。
――――――――――!!!!!
そう考えていた時、裏通りにある建物の一つが大きな音を立てて吹き飛びました。
爆発? 何事ですか!?
「ひぃぃっ!!」「た、助けてくれーっ!」
吹き飛んだ建物から数人ほど人が出てきました。
何かに怯えている感じですね。
一体何が············。
「ゴアアーーッ!!!」
瓦礫の中から巨大な影が姿を現しました。
あれは············竜!?
全身が黄金に輝く巨大な竜が現れました。
何故、王都の裏通りに竜がいるのですか!?
「ひぃぃっ!」
竜は明らかに今出てきた人達を狙っていますね。
見殺しにするわけにはいきません。
私は竜と怯えている人達の間に立ちます。
「セーラ様、危険です!」
リンが私を守る位置に立ちます。
手には武器の大剣を構えています。
「くかかっ、誰かと思えば今代の聖女候補の護衛騎士か。だが護衛している聖女がいつもと違うのう」
竜が言葉を発しました。
人語を話せるとは············。
しかもリンのことを知っている感じですけど············どういうことでしょうか?
「え、もしかしてエンジェさん······ですか?」
リンがおそるおそる竜に問いかけます。
一体どういうことでしょうか?
「エンジェ殿、こちらの曲者は全員捕らえたでござるよ」
「············こいつらも縛っておく······」
困惑していたところにシノブさんとスミレさんが現れました。
私の後ろにいた人達も二人がいつの間にか拘束しています。
「くかかっ、これでここいらの犯罪者どもはすべて捕らえたのう」
竜が黒いヒラヒラした衣装を纏った少女の姿に変化しました。
リンの話によるとこの方はエンジェさんといって元迷宮の守護者だそうです。
この少女の姿で学園に通っているのだとか。
「エンジェさん、これはどういうことですか?」
リンがエンジェさんに問います。
「こやつらは犯罪組織の構成員じゃ」
エンジェさんの話によると冒険者ギルドと王国騎士団が協力して王都の犯罪組織を一斉摘発しているそうです。
エンジェさんはその内の一つを制圧していたとか。
「くかかっ、なかなか往生際悪く抵抗するものでの。少し灸を添えてやったわけじゃ」
犯罪組織と交戦していて竜に変身したと······。
犯罪者達はすっかり怯えきっていて、見ていて憐れです。
「······手応えがなかった······」
「スミレ殿、無事に全員捕らえたでござるから満足するでござるよ」
「くかかっ、お主らも相当の実力よの。さすがは我がマスターの仲間だけある」
三人とも見た目は子供············エンジェさんはともかくシノブさんとスミレさんは本当に子供でしたね。
そんな三人によって犯罪組織の一つが潰されたようです。
閑話はあと一話続きます。