141 お風呂場でのハプニング
リンに念話でルナシェアの所在を伝え終え、のんびり湯船に浸かった。
今ここにはオレとロディンしかいないため静かなものだ。
そう思っていたら······。
―――――――バシャアアーンッ!!!
いきなり頭上から何かが降ってきて湯船の中に落ちた。
なんだ? 何が落ちてきたんだ?
「クウウッ······」
落ちてきたのは子犬のような生き物だった。
なんでここに子犬が?
魔物、じゃないよな?
「ウルフの子供······ではなさそうだな。魔物とは違うようだが、どこから迷い込んできたんだろうな?」
ロディンが一瞬警戒したが子犬のような生き物だとわかるとすぐに警戒を解いた。
上から落ちてきたということは女湯の方から来たんだよな?
「クウーン、クウーン······」
子犬がオレを見るなり擦り寄ってきた。
ずいぶん人懐っこいやつだな。
誰かの飼い犬なのか?
―――――――――バッシャアーーンッ!!!!!
また何か落ちてきた。
子犬よりもさらに大きなものだ。
今度はなんだ一体?
「······イタタ、受け身をしくじったであります······」
湯気に隠れてシルエットが動く。
この声は············もしかして······。
「それよりも霊獣の子供はどこ············え?」
湯気が少し晴れて落ちてきた人物と目が合う。
やっぱりルナシェアだった。
なんでルナシェアが男湯にいるんだ。
「ひゃあああっ!!? な、何故にレイ殿がいるでありますか!?」
それはこちらのセリフなんだが。
ルナシェアはバスタオルも何も身に付けていない生まれたままの姿だ。
············鎧を着ている時はわからなかったけどリンと違ってルナシェアは胸が結構大き············。
「み、見ないでほしいであります!」
オレの視線に気付いてルナシェアが慌てて湯船に潜る。
とりあえずオレはアイテムボックスからバスタオルを取り出してルナシェアに渡した。
オレとロディンもルナシェアに見られないようにタオルを腰に巻いた。
「何故、聖女ルナシェア殿が男湯に?」
ロディンがなるべくルナシェアの身体を見ないように気を遣いながら問う。
「ロ、ロディン様もいたでありますか!? もしやこちらは男性用の······」
わかってなかったのか。
男湯と女湯は仕切りで区切っているが上の方にはわずかに隙間がある。
そこから入り込んできたようだ。
「クウウッ······」
子犬がルナシェアを警戒するように唸っている。
おそらくだがルナシェアはこの子犬を追ってきたんだろう。
この子犬は一体何なんだ?
「その子は霊獣フェンリルの子供であります!」
聞くとあのホワイトオーブというアイテムは霊獣の卵だったようで、この子犬はその卵から生まれたらしい。
なんでカエルの魔物から霊獣の卵が出てきたんだ?
まあそんなことはいいか。
状況は何となくわかった。
「クウーン、クウーン」
子犬がオレに助けを求めるように擦り寄ってきた。
とても霊獣フェンリルとかいう凄そうな生物には見えないな。
「な、何故レイ殿にはそんなに懐いているでありますか?」
オレに言われてもそんなことはわからない。
軽く抱き上げると顔を舐めてきた。
結構かわいい奴だな。
「くかかっ、さすがは我がマスターじゃのう。あっさりと霊獣フェンリルを手懐けおったとは」
突然エンジェが湯船から姿を現した。
コイツも上の隙間から入ってきたようだ。
スライムの姿ではなく全裸の少女の姿だ。
少しくらい身体を隠せ。
「レ、レイ殿······小生にも触らせてほしいであります」
ルナシェアがおそるおそる子犬に手を伸ばす。
子犬は怯えるように身体を震わせた。
「怖くないでありますよ、ほら······」
「クオーーンッ!!」
子犬が吠えて魔力を解き放った。
霊獣フェンリルの子供というだけあってすごい魔力を秘めているようだ。
「氷」属性の魔力だったようでお風呂場全体が凍りついていく。
湯船のお湯まで凍ってしまった。
「さ、寒いでありますっ!!」
「さ······さすがは霊獣フェンリルの子供だな······」
オレは平気だがルナシェアとロディンはかなり寒そうだ。エンジェも平気そうだな。
「クウウッ······」
「よしよし、少し落ち着きな」
「クウーン······」
オレが優しく撫でると子犬は安心したようにおとなしくなった。
「くかかっ、生まれたてじゃし教育が必要じゃの。しばらくはワシが面倒を見てやるとするかの」
エンジェがオレから子犬を受け取り言う。
子犬はエンジェに抱かれてもおとなしくしていた。
「うううっ、小生では霊獣を使役できないでありますか······」
「そんなことはなかろう。こやつはお主の魔力から生まれたのだからのう。あんな与え方をしたから興奮しておるだけじゃよ」
ガックリ項垂れるルナシェアをエンジェがフォローする。
まあ霊獣を使役するとか、そういう話は後でしてくれ。それよりも············。
「ルナシェア、風邪を引くから早く出ていった方がいいぞ」
ここは男湯だしルナシェアはバスタオルを巻いただけの姿だ。
目のやり場に困る。
「そ、そうだったであります! すぐに出てい············わぶっ!?」
「ルナシェア殿、あぶなっ······」
慌てたルナシェアが足を滑らしてしまう。
ロディンが咄嗟にルナシェアを掴むが一緒にバランスを崩してしまった。
······ってこっちに向かってきた!?
――――――――バタンッ!!!
さすがに二人を支えきれずオレ達は揃って転んでしまった。
オレとルナシェアとロディンが裸で抱き合う形で倒れた。
〈解放条件を満たしました。パーティーメンバー(ルナシェア)が新たなスキルを獲得しました〉
〈解放条件を満たしました。パーティーメンバー(ロディン)が新たなスキルを獲得しました〉
メニュー画面にそんな表示が出てた。
ステータス画面を見るとルナシェアとロディンのスキルに(異世界人の加護〈仮〉)が加わっていた。
キスはしていない············。
不可抗力とはいえ裸で抱き合ってしまったからか?