138 試練達成
巨大なカエルの魔物と対峙する。
確かに強力な魔物と言えるレベルとステータスだがオレやミウの敵ではない。
だがこれはルナシェアの聖女になるための試練だ。
オレ達はサポートに専念することにした。
「シルフィードダンス!」
ミウが「風」属性のサポート魔法をルナシェアにかけた。
この魔法は一時的に身体能力を上げ、真空のバリアーで防御力アップの効果がある。
「ファイア!」
オレは「炎」の魔法を魔物に向けて放った。
弱めに調整して次々と放ち、魔物を沼から引きずり出した。
「ゲゴオーーッ!」
魔物が(激強酸)を撒き散らした。
周囲の地面や植物がジュワアアッと音をたてて溶けている。
ステータス的に当たっても大丈夫だとは思うが喰らいたくはないな。
ミウや特にルナシェアには危険なのは間違いないな。
とても服だけでは済みそうにない。
「月影刃っ!!」
ルナシェアが剣技を放った。
三日月のような形の斬撃が飛び魔物を切り裂く。
「まだまだいくでありますよっ!!」
さらにルナシェアが魔物を切り刻む。
ミウのサポート魔法の効果もあるがルナシェアは戦い慣れていてレベル以上の実力があるな。
「ゲゴォーーッ!!」
だがカエルの魔物もしぶとい。
鋼鉄のような装甲に加え、見た目通りタフな奴だ。
ルナシェアの剣技を何度くらっても倒れる気配がない。オレも致命傷を与えない程度に魔物に攻撃を加えた。
「ゲロロッ!! ゲコッ」
カエルの魔物がヌルヌルの粘液を撒き散らした。
(激強酸)とは違い触っても身体に害はないようだ。
「うわっぷ!?」
ルナシェアが粘液をまともに浴びてしまった。
ルナシェアの身体も足下も粘液でヌルヌルになっている。
手に持っていたオリハルコンの剣を落としてしまう。
「ああっ!? う、うまく立てないでありま······わぶっ!?」
ヌルヌルの粘液のせいで落とした剣を拾うことはおろか立つことすらままならなくなってしまっていた。
ルナシェアが足を滑らせ転んでしまった。
············こんなこと言ってる場合じゃないんだが粘液まみれのルナシェアは色々とアレな状態だ。
魔物の出した粘液は水で洗い流した程度では駄目みたいだ。
「ゲゴーーッ!!」
魔物がルナシェアに追い打ちをかけてきた。
あの巨体で高く跳び上がりルナシェアを押し潰すつもりだ。
さすがにまともに受ければヤバイ。
オレはルナシェアを抱えて回避した。
「も、申し訳ないであります······レイ殿」
洗浄魔法をかけてルナシェアに付いた粘液を除去する。完全には除去できていないが少しはマシになったはずだ。
ルナシェアが剣を構え直す。
「ゲゴゴゴッ」
魔物がまた何かを撒き散らそうと動く。
(粘液)か、(激強酸)か······どちらにしろ厄介だな。
「ルナシェア、オレも強化魔法をかけるから一気に決めよう」
「了解であります、レイ殿!」
強化魔法を使うのは初めてだが魔法欄にはそれらしきものが並んでいるし使えるはずだ。
「ブースト!」
初級の強化魔法をルナシェアにかけた。
これは身体能力を一時的に高める一般的な魔法だ。
「おおおっ!? す、すごいであります! 身体中に力がみなぎってくるであります!」
ルナシェアが興奮したように言う。
············少し効果がありすぎるような。まあいいか。
ミウとオレのサポート魔法でルナシェアのステータスが大幅に上がっている。
これなら魔物に遅れを取ることはないだろう。
「ゲコーーッ!」
カエルの魔物が長い舌をルナシェアに向けて伸ばしてきた。
ルナシェアは素早く回避する。
「さあ、いくでありますよ!」
ルナシェアが連続で魔物に斬りつけた。
魔物の鋼鉄のような身体がオリハルコンの剣によって軽々と斬り裂かれた。
おおっ、さっきまでとは動きが全然違う。
魔物は為す術もなくルナシェアの斬撃を浴び続けた。
「ゲロロッ!? ゴゲェッ!」
「これでトドメであります!」
ルナシェアが一度後ろに下がり構え直した。
「光破連鳴撃っ!!!」
ルナシェアの持つオリハルコンの剣から光が放たれ、目にも止まらぬ速さで魔物を斬り刻んだ。
「ゲゴッ············オオッ······」
カエルの魔物の巨体が倒れた。
どうやら倒せたようだ。
〈条件を満たしました。スキルレベルが上がります〉
ルナシェアの(聖女の資格)のスキルレベルが上がった。試練を達成したみたいだな。
レベルも45まで上がっている。
「······やったであります! 試練達成でありま······わぶっ!?」
ルナシェアが喜び剣を上に掲げるが足下の粘液に滑り転んでしまった。
······締まらない人だな。
失礼だったが思わず吹き出してしまった。
「ううっ······レイ殿、笑うのは酷いであります······」
「ごめんごめん、つい············それよりも試練達成おめでとう」
オレは手を差し伸べてルナシェアを祝福した。
さて、これで目的は果たしたし帰るとするかな。
おっと、その前にあのカエルの魔物を回収しておかないとな。
そう思って倒れた魔物の方に目を向けると、巨大ガエルは光に包まれながら消滅していた。
後には白い宝石のような物が残った。
何だこれ? 魔石じゃなさそうだが。
そもそもゴブリン以外の魔物は死体はそのまま残るはずなのにきれいさっぱり消えてしまった。
(ホワイトオーブ)鑑定不能
白い宝石を見たらそう表示された。
(神眼)の効果も弾かれたらしく鑑定できない。
何なんだこの宝石?
用途がわからず不気味だが見た感じ嫌な気配はない。
あのカエルの魔物を討伐することがルナシェアの試練だった。
ということはこれはルナシェアが持っていた方がいいのかな?
「見たことない宝石でありますね。女神様からの施しでありますか?」
ルナシェアにもわからないらしい。
「でもキレイな宝石ですねー、なんだか見てて癒されるみたいですー」
ミウも興味深そうに宝石を見ていた。
まあ危険はなさそうだしルナシェアに渡しておこう。