閑話④ レイ専属のメイド隊結成?
今回の閑話は単発です。
「······スター············てください······」
ある朝そんな声に起こされた。
······誰だろうか?
エイミやミールとは違う声だ。
オレは重い瞼を開けて声の主を確認する。
「おはようございますマスター、お目覚めですか?」
オレにそう声をかけたのはメイド服に身を包んだ長い黒髪の美人さんだった。
············え、誰この人?
初めて見る人だけど何でこの部屋に?
もしかしてオレはまだ眠っていて夢を見ているのだろうか。
「着替えをお手伝いしましょう。朝食のご用意は出来ております」
「い、いや······自分で着替えるから少し部屋から出ててくれないかな?」
「······そうですか、了解しました」
メイドさんは少し残念そうにしながら部屋から出ていった。
えっと······マジで誰?
何度考えても初対面のはずだけど············。
とりあえずオレは寝間着から着替えた。
部屋から出て寮の食堂にいくとエイミとミールが食事をしていた。
寮の食堂は学園にあるのとは違い日替わりメニューなどはなく基本は自炊するための場所だ。
まだ朝の早い時間帯のためか他の生徒の姿はない。
「お待ちしておりました。マスターの分も用意してあります」
どうやらこの美人メイドさんが食事を用意してくれたらしい。
朝から食欲をそそる匂いがする。
せっかくだし頂くことにした。
············うっま!?
味加減もオレ好みで絶妙だ。朝から食べても気にならないボリュームだし最高だった。
「ねえレイ君、あの人知り合い?」
「······見たことない方なのですが」
あれ? エイミ達の知り合いでもないのか?
だとすると一体············。
[グラム] レベル177
〈体力〉26400/26400
〈力〉3220〈敏捷〉2450〈魔力〉2100
〈スキル〉
(暴食)(強化再生)(限界突破)
(各種言語習得)(形状変化)(身体強化〈大〉)
鑑定してみたらそう表示された。
グラム············グラム!?
グラムって元迷宮の守護者グラトニーゴーレムのグラム!?
「もしかして······グラム、なのか? その姿はどうしたんだ?」
確かにオレをマスターと呼ぶのはグラムとエンジェくらいだが。
「はいマスター、エンジェ様より指導を受けました。マスターに誠心誠意を込めてご奉仕するためにメイドとしての心得を一通り学びました。姿を変えるのに必要なスキルはシノブ様よりいただきました」
エンジェの入れ知恵か······。
そういえば先日、別の迷宮の守護者と話がしたいと言ってダンジョンコアを貸していたっけ。
姿を変えたのは(形状変化)のスキルの力か。
スライム特有かと思ってたがゴーレムも得ることができるのかよ。
声もゴーレムの姿の時は機械的なものだったが今は普通に女性声だ。
しかし············。
「············なんでメイド?」
「この姿ならマスターが喜ぶとエンジェ様がおっしゃっていましたが······お気に召しませんでしたか?」
············コメントに困る。
スライム同様にゴーレムにも性別はないだろうし············変ではないのかな?
そんな時に元凶であるエンジェが姿を現した。
「くかかっ、さっそく実践しておるようじゃのう」
金髪ゴスロリ少女の姿のエンジェが言う。
「エンジェ······これはどういうことだ?」
「そやつにメイドの心得を教えただけじゃぞ? 先代勇者の受け売りじゃが気に入らんかったかの?」
また先代勇者か。
エンジェのゴスロリファッションといい、グラムのメイド姿といい一体どんな人物だったんだ。
「マスター······私ではマスターを満足させられないのでしょうか······?」
少し悲しそうな表情でグラムがそう言ってくる。
はっきり言ってミールやスミレよりも感情表現が豊かだ。
とてもゴーレムとは思えない。
本当に何てコメントすればいいんだ?
否定するのもアレだし、だからと言って貴族でもないオレに専属メイドが付くというのもな············。
「驚くのはまだ早いぞ我がマスターよ。外を見てみるが良い」
エンジェが言う。
外? これ以上何があるっていうんだ。
言われるがままに寮の外に行くとたくさんのメイドさんが整列していた。
············これはまさか······。
「どうじゃ? 我がマスターよ。こやつらはお主専属のメイド隊じゃ。全員にメイドの心得を説いておる」
得意気に言うエンジェ。
どうやらこのメイドさん達はエンジェの眷属のスライムとグラムの眷属のゴーレム達らしい。
全員が(形状変化)のスキルを持っていた。
(発声)や(各種言語習得)スキルは一部のメイドさんしか持っていないので全員がグラムのように流暢に喋れるわけではないようだが。
「······エンジェ、なんでこんなことを?」
「メイド隊は男のロマンとか先代勇者は言っておったぞ? 先代勇者はこれを見れば狂喜乱舞しただろうが······なにか間違っておったか?」
なんだろう。先代勇者を殴りたくなってきた。
何百年も前の人だし、もう故人だろうけど。
男のロマン············言いたいことはわからなくもない。
わからなくはないが············本当にコメントに困る。
「······この人数分のメイド服はどこから調達したんだ?」
一人一人が上等な素材のメイド服を着ている。
これ一着、金貨が必要なくらいの価値があるんじゃないか?
「国王に頼んだら快く用意してくれたぞ」
おい。国王相手に何を頼んでるんだよ。
そして国王も聞き入れたのかよ。
どうやら王城にもお手伝いさんとして何人か派遣しているらしい。
「············せっかくで悪いんだがオレにメイド隊は······」
いらないと言おうとしたら整列しているメイドさん達が悲しそうな表情をうかべた。
この人達本当にスライムとゴーレム?
「マスター······私達はマスターにとって不要な存在でしょうか······?」
代表してグラムがそう言ってきた。
······マジでどうしよう。
妥協案としてオレ専属ではなく学園で働くメイドさんとして採用した。
学園の清掃など雑用が主な仕事だ。
そういった人員は不足していたようで学園長も了承してくれた。
ちなみにグラムがメイド長という立ち位置だ。
それでもさすがに人数が多いので余った人員は王都の教会やアルネージュの孤児院にお手伝いさんとして派遣した。
おかげで何故かオレが色んな人に感謝されるはめになった。
「······レイ、少しは自重しろ」
メイド隊のことを知ったアイラ姉に呆れたように言われた。
············オレは何もしていないんだが。