130 ミールからの愛の告白
オレはミールに対して土下座の体勢を取っていた。ミールに事情をすべて話した。
正義の仮面の正体がオレだということを。
だが、正体はオレだがあれはオレとは違う別人格のようなものだということもはっきり言っておいた。
「つまりこの黒いマスクが元凶というわけですか」
ミールが例のマスクを手に取り言う。
〈謎のマスク〉鑑定不能
(神眼)の効果が打ち消されました。
············確かに(神眼)でも鑑定できない。
先に確認しておけばミールのカマかけにも引っ掛からなかったかもしれないが、今更遅いか。
「ちなみにワタシ以外に正体を知っている人はいるんですか?」
「······シノブとスミレは知っているよ」
「アイラさんは知らないんですか?」
アイラ姉に知られたらどうなるか······。
恐ろしくて想像もしたくない。
「ということはリンさんも············知らないんでしょうね、あの様子を見る限り」
ミールが何やら思案するように言う。
断じてオレの趣味ではないが、正体を知ってミールはオレに対して何か思うところはないのだろうか?
「ご心配なく、ワタシはレイさんに多少特殊な趣味があっても受け入れるつもりですよ」
「だからあれはオレの趣味じゃないって······」
「冗談です」
ミールの冗談は本当に冗談なのかわからない。
「············それに正体がレイさんでよかったです」
ミールが何かつぶやいたがよく聞き取れなかった。
「この場に姉さんがいないのは幸いでしたね。姉さんに知られたら学園中に広まることになるかもしれませんよ? 姉さん、口が軽いわけではないのですが嘘をつけない性格ですから」
学園中に広まるのは本気で困る。
「もちろんワタシも誰にも話すつもりはないのでご安心ください。姉さんにも内緒にしておきます」
とりあえずはミールの口から学園中に広まることはなさそうだ。
それだけはよかった。
「アイラさんもリンさんも知らないレイさんの秘密を知ることができました。ふふっ······これは大きなアドバンテージです」
よくわからないが知られてはいけない人に知られてしまったのかもしれない。
「しかし······このマスク、一体なんなのですか?」
「それはオレが聞きたい············」
(神眼)でも鑑定できないということは実はとんでもなく貴重なアイテムなのだろうか?
それとも(神眼)の効果が思ったよりも大したことないだけか?
「このマスク、ワタシが着けたらどうなるのでしょうか?」
「わからないけどやめた方がいい。呪われかねない」
オレは黒いマスクをさっさとアイテムボックスに仕舞った。本当なら燃やしたいところだが、燃やしてもいつの間にか手元に戻ってくるからな。
「まあそれはいいです。それよりもレイさん、ワタシの加護スキルが〈仮〉から〈小〉に上がりましたけどリンさんは〈中〉と一段階上でしたね」
······リンとは色々としたからな。
だがまだリンの身体には直接手を出していない。
「1回では足りないということでしょうか? ならばもう一度······いえ、それともやはり身体を捧げるべきでしょうか」
冗談なのか本気なのかミールは自分の服に手をかけた。
リンともそこまではしていない。
もし本格的にそういう行為をした場合、加護がどうなるのかはわからない。
「ワタシは本気ですよ? レイさんが望むならワタシの初めてを捧げます」
ミールが真っ直ぐの瞳でオレを見た。
······ミールの言葉にちょっと心惹かれた。
オレも男だしミールのような美少女にそう迫られたら抗うのは難しい。
さっきの興奮も残っていたしオレは無意識にミールに手を伸ばし············。
「何をしている、お前達」
静かな口調、それでいて心が底冷えしそうな声が響いた。
心臓を鷲掴みにされる感覚とはこういうことを言うのだと身を持って知った。
声の主はアイラ姉だった。
「ア、アイラ姉······なんでここに?」
「部屋の外でエイミが挙動不審でうろうろしていてな。理由を聞いても要領を得ず、部屋を確かめに来たのだ」
アイラ姉の後ろにはエイミの姿もあった。
どうやらアイラ姉もエイミも今来たばかりで正義の仮面うんぬんの話は聞いていないようだ。
「ミ、ミール······ほ、本当にレイ君の············しちゃったんだね······」
エイミがミールのステータスを見て加護が正式なものになっているのを確認したようだ。
そしてその事実はアイラ姉にも見えている。
「もう一度聞く、何をしていた?」
どう考えても誤魔化すのは無理っぽいな······。
なので洗いざらい今の状況を説明した。
もちろんオレが正義の仮面だということは話していないが。
「············まったく」
アイラ姉が呆れたように頭を抱えた。
「状況はわかった。だが学生の身でそれ以上の行為は断じて許さんぞ。その後責任は取れるのか?」
アイラ姉の言う通りだな。
さっきは勢いでミールに手を出そうとしてしまったがもしもの時責任を取れるかと言われると即答できない。
「ミール、加護が欲しいからと自らの身体を捧げる行為は不純すぎる。もっと自分を大切にするべきだ」
「いえ、アイラさん。確かに加護は欲しいですけどそれだけではありません。一人の女としてレイさんを受け入れたいと思っています」
ミールが正面からアイラ姉と向き合った。
その目に偽りの色は見えない。
ミール、本気············なのか?
「ワタシは心から、レイさんが好きです」
まさかのミールからの告白だった。
ここまでストレートに告白されたのは初めてだ。
オレはどう応えればいい?
「ウ······ム、しかしだな······」
ミールの本気度が伝わったらしくアイラ姉が口ごもる。
「もしかしてアイラさんもレイさんのことを好きなのでは?家族としてとかではなく一人の男性として」
「······っ!?」
ミールの言葉にアイラ姉が狼狽えたような表情になる。
いやいやミール、それはないと思うが。
アイラ姉にとってオレは手のかかる弟といった所だろうから。
「その反応、図星ですか?」
「い、いや······そういうわけではなくてだな······」
アイラ姉は意外なことを言われて慌てただけじゃないかな?
「ではワタシがレイさんと結ばれても問題ありませんね?」
「いや、ち、ちょっと待て············レイ! お前はどうなのだ!? ミールと結ばれるとして責任は取れるのか!?」
アイラ姉の言葉がこっちに向いた。
さっきも考えたがすぐには答えを出せない。
ミールのことを嫌いなわけではない。
だが今後の責任を考えると安易に答えは······。
「ワタシの一方的なものですから責任は取らなくてもいいのですよ?」
「それは駄目だ! 男と女の関係をそんな軽々しく見るのは私が許さん!」
アイラ姉もそこは譲れないようだ。
しばらくミールとアイラ姉の話し合い(?)が続く。
「ではレイさんに責任取ってもらえるように努力します。レイさん、すぐに答えを出さなくても構いませんけどワタシは本気です。そこは忘れないで下さい」
結局この場では答えを出せないと先延ばしになった。
だがミールは本気のようだ。
オレも真剣に考えないとな。
「············では私は自分の部屋に戻る。レイ、責任取れない内は早まった行動は取らないようにな」
「······はい」
アイラ姉が疲れた表情で出ていった。
部屋にはオレとミール、そしてエイミが残された。
······どうしよう。
あんな告白を受けてこれからもミールと同じ部屋で普通に過ごせるだろうか?




