勇者(候補)ユウの冒険章② 10 決戦
―――――――――(side off)―――――――――
ユウ達は食獣植物を倒すためにルナリーフを咲かせた丘を目指していた。
「グアアーッ!!」「ギィアッ!!」
丘へ向かう途中の森の中は凄惨な光景だった。
夜は特に狂暴になるというレーデの森の魔物達が次々と食獣植物の根にからみ取られて吸収されていた。
森の木々も丘に近付くにつれて枯れ果てていた。
魔物も木々も食獣植物の養分にされていた。
食獣植物の活動時間は短い。
満月の光が届く夜だけだ。
だがこの様子ではその一晩の内にどれだけの被害が出るかわからない。
ユウ達は丘まで急いだ。
「問題はあの魔物、どうやって倒す? 並の攻撃じゃ効果なさそうよ」
テリアが言う。
「伝説の魔物って言っても植物ですからねぇ、火に弱いんじゃないですかぁ?」
ミリィの言うことにも一理ある。
しかしユウはあまり賛成している様子ではない。
「でもあいつを燃やしたら体内のルナリーフまで燃えちゃうかもしれない······その方法は使いたくないかな」
ユウはルナリーフを取り戻すことを諦めていない。
だが他に有効な方法が思い付かない。
「私のことはいいわよユウ、こうしている今もあの魔物は成長してるんだから倒せる内に倒さないと」
エレナ自身は魔物を倒すことを優先したいと思っていた。
このままでは自分達だけでなく町の人達にまで被害が出かねない。
「わかったよエレナ、でもぼくはまだ諦めていないからね」
ユウが力強く言った。
森を抜けて丘へ戻ったユウ達が見たのは異常な光景だった。
丘全体が食獣植物の根に埋め尽くされていた。
ついさっきまで静かに星空を見上げていた場所とは思えない程だ。
食獣植物自体もさらに巨大になっていた。
わずかな時間でとんでもなく成長している。
「ガアアアーーッ!!!」
ユウ達の存在を認識したようで食獣植物が枝や根を伸ばして襲いかかってきた。
「邪悪な気を鎮めよ······ホーリーフィールド!」
エレナが「聖」属性魔法を周囲に解き放つ。
枝や根の動きがわずかに鈍ったようだ。
「エレエレ~、無理しないでくださいねぇ」
ミリィがエレナを守りながら周囲の枝を撃退する。
テリアも同様に弓矢で迎え撃つ。
「ガアアアッ!!!!!」
食獣植物はいくつもの枝を組み合わせ極太の枝を作り出しユウ達に襲いかかる。
今までの枝と違い簡単には斬れそうにない。
「テリア、ミリィ! ぼくに魔力をちょうだい!」
「わかったわユウ!」
「ミリィの力を使ってくださいユウ様ぁ!」
テリアとミリィがユウに自分の魔力を分け与えた。
ユウが二人の魔力に自らの魔力も上乗せする。
「みんなの力をくらえっ!
ファイナルソード!!!」
三人の力を合わせた魔力でユウは超巨大な剣を作り出し放った。
―――――――ガガガッ!!!!!
三人の協力魔法が炸裂する。
極太の枝は粉々に吹き飛び、さらに食獣植物本体に直撃した。
「グアアーッ!!!」
食獣植物が叫び声をあげた。
効いているようだ。
「今だよ! テリア、ミリィ!」
ユウは収納袋から食事用の油など燃えやすいものを取り出し投げつけた。
「バーニング・スコール!!」
「フレアサークルですぅ!!」
テリアが「炎」を纏わせた無数の弓矢を、ミリィが「炎」の範囲魔法を放った。
―――――――ゴォオオオーーーッ!!!!!
火は一瞬で燃え広がり、食獣植物を焼き尽くしていく。
「やったあっ!」
エレナが声をあげる。
「待って、まだよ!」
しかしテリアはまだ警戒していた。
燃えさかる炎によって焼き尽くされていくと思われた。だがまだ終わっていなかった。
「グガアアーーッ!!!」
ユウ達の協力魔法に炎の攻撃。
さすがの伝説の魔物もダメージを受けている。
しかし············。
―――――――グググッ······ググ······
「まだ大きくなっていきますよぉ!?」
ミリィが叫ぶ。
炎が食獣植物を焼き尽くしていくかと思われたが、炎の勢いよりも再生と成長のスピードの方が早い。
―――――――シュルルッ
「きゃっ!?」
「な、なにするですかぁ!?」
食獣植物の触手のような枝にテリアとミリィが捕まった。
「テリア! ミリィ!」
ユウが二人を助けようと手にした剣で枝に斬りかかる。
だがユウの方にも無数の枝や根が襲いかかり二人を助けにいけない。
―――――――グググッ······
「う、うく······」
「あっ············あぁ」
巻き付いた枝が二人を締め付け、さらに養分を吸い取っていく。
「ユウを······テリアを······ミリィを······みんなを傷つけないでぇーーっ!!!」
エレナが両手を前に出して「聖」なる光を放った。
光を浴びた枝や根が消滅していく。
それによってテリアとミリィが拘束から解放された。
「うっ······く······」
今度はエレナが苦し気な声を出す。
急激に魔力を消費したためだ。
今放った光は「聖」属性の上級魔法だった。
レベルの低いエレナが本来使えるものではなかったはずである。
「エレナ! ······テリア、ミリィ! エレナを連れてここから離れて!」
「ユウ様はどうするですかぁ!?」
「ぼくもすぐにいくよ!」
ユウがありったけの魔力を込めて食獣植物に向けて放った。
それによってスキが出来てユウ達はその場を離れた。
「エレナ、大丈夫?」
食獣植物の本体から離れた場所でエレナを休ませる。
ユウ達はいつ枝や根が襲ってきても対応できるように周囲を警戒している。
「······うん、大······丈夫。ごめん、私が足を引っ張っちゃって······」
「そんなことないわよ。わたし達エレナのおかげで助かったんだから」
「そーですよぉ、エレエレ足手纏いなんかじゃないですよぉ」
まだ息は荒いがエレナの容態は落ち着いてきた。
「あの魔物、あそこまで強いとは思わなかったよ。炎でも焼き尽くせないなんて。······どうやって倒そうか」
「さすがは伝説の魔物って言われるだけあるわね。······わたしも甘く見てたわ」
ユウとテリアが言う。
ユウ達の想像以上に魔物は手強すぎた。
「······私の「聖」属性魔法なら······倒せるかも」
エレナがつぶやくように言う。
「あの魔物······ユウ達の魔法や炎に焼かれたくらいじゃすぐに再生してたけど······「聖」属性の魔法を受けた所は再生も成長もしてなかった。だから
最上級クラスの「聖」魔法なら············倒せるかも」
「そんなことしたら······エレナの身体が持たないわよ」
エレナの言葉にテリアが言う。
威力の小さい魔法ですら今のエレナには負担が大きいのだ。最上級クラスの魔法を放てば無事には済まないだろう。
そもそもエレナのレベルではそんな高度な魔法はまだ使えないはずである。
「私のことは心配しなくていいわよ。······私の命はどのみち長くないんだから······ユウ達の助けになるなら············本望よ」
「そんなの駄目だよエレナ············たとえルナリーフがなくてもエレナの病気を治す方法は必ず見つける。エレナが死んだら······ぼく達のしてきた意味がなくなっちゃうよ」
「意味ならあるわよ。私はユウ達に出会ったおかげで最後に色んな体験が出来たんだもの。ユウ············テリアもミリィにも············本当に感謝しているわ」
エレナの言葉はまるで最後の別れのような言い方だった。
――――――――ドドドッ!!!!!
そんなユウ達に食獣植物の根が襲いかかってきた。
警戒していたユウ達はなんとか応戦する。
「ユウ達は逃げて······後は私がなんとかするから!」
エレナは根の間を抜けて再び本体のもとに向かおうとする。
「待ちなさいエレナ!」
「駄目ですよぉ! エレエレっ」
迫りくる根と応戦しているためテリアとミリィはエレナを止められない。
「短い間だったけど楽しかったわ············私のこと
忘れないでね、テリア、ミリィ············ユウ」
そう言ってエレナは振り返ることなく走り出した。
「エレナっっ!!!」
ユウが力の限り叫んだ。