13 リンとレベル上げ訓練
オレ達の住む場所、そして食事事情の改善から始まった行動が何故かこの第三地区、そして町全体を救う結果となったらしい。
孤児院の子供達に土地の管理を任せることにした。子供達は真面目に働き、収穫や運搬などを院長の指示のもとテキパキとこなした。
噂を聞いた周囲の住人も来て、自分達にも仕事を与えてほしいと言うので畑や果樹園の規模を広げ仕事を与えた。
最初は力ずくで食料を奪おうとする者もいたが、今は皆真面目に与えられた仕事をこなしている。
(ちなみに力ずくで来た者はアイラ姉の教育を受け改心した)
土地の浄化はオレ達の魔法で簡単に出来た。
病気の人達にはシノブの作った万能薬を与えて完治させた。
リンがその万能薬を見て驚いていたけど、やっぱりすごい物なのかな?
オレ達は回復魔法も使えるから本当は薬は必要ないんだけど目立たないためにあえて薬を渡したんだがな······
「聖」魔法というのは使い手が少なく希少らしい。もうかなり目立っている気はするけど、やはり力はなるべく隠した方がいいだろう。
薬ならば運良く手に入れたと言えば誤魔化せるはず。あの特級万能薬、作るのに色々な素材が必要だったがオレとシノブのスキルでいくらでも作れる。
最終的には商業ギルドのギルドマスターまで来て食料を売ってくれと言ってきた。
この町の食べ物の質が低かったのは食糧難だったからかな?
アイラ姉と今後のことを色々話している。
その手のことはアイラ姉に任せよう。
オレとシノブは今別のことをしていた。
何をしているのかというと······
「まったく、何でこの男と一緒に······」
リンと町の外まで出ていた。目的はリンのレベル上げである。
実は第三地区が豊かになったことでその土地を狙う者がちらほら出てきた。
今まで奪う側だった第三地区が、豊かになったことで奪われる側になってしまった。
まあ奪う側だったと言っても生きるために仕方無くだったらしいのでオレはそんなに悪い感情は持っていない。
殺しなどはしていなかったそうだし、あくまで食料などの強奪だそうだ。
まあ、それはともかくアイラ姉は自衛する力が必要だと言って子供達年長組を何人か鍛えていた。
リュウとリエッタもその中にいる。
特訓内容は基礎的な体力作りと魔物相手の実戦訓練だ。それで数日間鍛えた結果、全員のレベルが30を超えた。
オレとシノブは付いていかなかったのでスキルの効果はアイラ姉の獲得経験値20倍だけだが充分すぎたようだ。
リンのレベルは35。
子供達がどんどん強くなっていくのを見て、自分も鍛えてほしいと申し出てきたのだ。
しかしアイラ姉は今は商業ギルドに話し合いに行っていて忙しくオレとシノブで鍛えることになったのだ。
アイラ姉がいないのでスキルの効果はオレとシノブの10×10=100倍だけだがそれで充分だろう。
オレ達が仲間だと認識すればリンにも効果が出る。それはもう子供達で実証済みだ。
「リン殿、シャキッとするでござる。修行は始まっているでござるよ」
シノブの言葉にリンも表情を引き締めた。
「わかりました。お願いしますシノブさん、レイ······さん」
シノブの名前はしっかりと、オレの名前は渋々といった感じに呼ぶ。
まあいいけど。
ちなみにリンの武器は意外にもかなり大きい両手剣だった。リンの身長を上回る大剣。
普段は懐の収納袋というアイテムの中にしまっていたらしい。
小さな袋から大剣が出てきた時は手品のようで驚いた。
さっそくゴブリンが5体現れた。
「ゴブリンくらいわたし一人で充分です!」
リンがそう言って前に立つ。ここはリンの実力を見せてもらおう。
リンは自分の身長より大きい大剣を軽々と振り、ゴブリン達を倒していく。
〈パーティーメンバー(リン)がレベルアップしました〉
メニュー画面に表示が出た。
リンのレベルが36になっている。
今までの魔物との戦いでわかったことだが、経験値はパーティーで戦った場合、トドメを刺した者が一番多く入るようだ。
何もしていなくても何故か経験値は入るが、トドメを刺した者の何分の一しか入らない。
「え、も······もうレベルアップ······ですか?」
リンが驚きの声をあげる。
リンも自分のステータス画面が見えるのかな?
今獲得経験値は100倍になってるはずなので、ゴブリン5体でも500体分倒したことになる。
レベルアップしても不思議ではない。
しかしリンは獲得経験値100倍のことは知らない。さすがに話していない。そりゃ驚くかな。
「さあ、この調子で行くでござるよ」
シノブの先導で進んでいく。
以前にも来た森に入る。魔物が次々に現れる。
はっきり言って雑魚ばかりなので問題無く倒していく。
〈パーティーメンバー(リン)がレベルアップしました〉
もうリンのレベルは8も上がっていた。
さすが100倍。すごいペースだ。
アイラ姉もいたらもっと凄かっただろうな。
ちなみにオレとシノブは1つも上がってないが。
「······どうなってるんです、おかしい······絶対におかしい」
リンは自分のレベルアップの早さに疑問を持っている。まあ強くなってるんだし気にしないでほしい。
「シノブ、リン、また魔物だ! しかも囲まれてるぞ」
いつの間にか魔物に囲まれていた。
[キラービー]
人間サイズの巨大な蜂だ。それが20体くらいかな。
リンに任せっきりだったし、そろそろオレ達も戦おう。せっかくアイラ姉に作ってもらった武器だ。
使わせてもらおう。
オレはアイテムボックスから武器を取り出した。
(オリハルコンの剣)攻撃力+1300
まさにゲームに出てくるような伝説の剣だ。
刀身が鏡のようで美しい剣だ。
(オリハルコンの小太刀)攻撃力+1150
シノブの武器はオリハルコンの小太刀だ。
「オリハルコンの武器!? 何故そんな伝説の武器を······」
リンがオレ達の武器を見て驚いている。
やはりオリハルコンの武器は珍しいのか。
人前で出す時はミスリルくらいの武器の方がいいかもしれないな。
「リン殿、今は目の前の敵に集中するでござるよ!」
「······っ、すみません、そうでしたね!」
シノブの言葉でリンも魔物に集中する。
キラービーの針には毒があり、まともに受ければ危険だ。······リンが。
オレ達には全状態異常無効スキルがあるから多分平気だろう。
まあ試してみないとわからないが、すき好んでくらいたくはない。
ささっと倒してしまおう。
本物の剣を使うのは初めてだが剣道の心得はある。
(アイラ姉に付き合わされた)
シノブもアイラ姉の特訓に付き合っていたし大丈夫だろう。
「はあっ!」
「とうっ! でござる」
キラービーの動きが止まって見える。
一分もかからずにキラービーの群れは全滅した。
〈レベルが上がりました。各種ステータスが上がります〉
お、ようやくレベルアップだ。
リンとシノブも上がっている。
「強い······シノブさんはともかくこの男まで······」
リンがつぶやく。
「リンは怪我はないか?」
「へ、平気です! 気安く呼ばないでくださいっ」
う~ん、まだ嫌われているか。
最初よりはマシになったと思ったんだがな。
「······その武器、どこで手に入れたんですか······?」
「悪いけど秘密で」
まだスキルなど詳しく話す気はない。
まあ悪い人ではないし話してもいい気はするけどせめて敵意を向けずに接してほしい。
「師匠、どうやらこの先に先程の蜂の巣があるようでござるよ」
シノブに言われてオレも探知魔法で確認する。
うわっ、本当だ。
300匹くらいの反応、そして中心に一匹だけでかい反応がある。
多分女王蜂だな。
そのままにしておくのもまずそうだけどリンもいるし、どうしようかな。