勇者(候補)ユウの冒険章② 9 伝説の食獣植物ルナティック・プラント
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ルナリーフの花を咲かせ順調に事が進んでいた所に突如として謎の大樹が姿を現した。
大樹はルナリーフを呑み込んでしまった。
「何こいつ、生物なの!?」
テリアが驚き言う。
「······こいつ魔物図鑑で見たことある·············
ルナティック・プラント······満月の光が届く夜にだけ活動する伝説の食獣植物よ!」
「ひょっとしてさっきエレナの言ってたかつて勇者が封印したって言う強力な魔物?」
「そこまではわからないけど······でもまずいわよ! もし本当にルナティック・プラントならいくらユウ達でも勝てる相手じゃないわ!」
ユウ達には知る由もないが、この魔物は当時の魔王軍が勇者を倒すための切り札として用意していたものだ。
色々理由があって当時は不発に終わってしまったが満月の光、膨大な魔力を秘めたルナリーフ、そして勇者のスキルを持つユウに反応して目覚めてしまったのだ。
つまり勇者を倒せる力を秘めた魔物だ。
エレナの言う通り普通なら勝てる相手ではない。
「グガアアーーッ!!!」
大樹の魔物、食獣植物が上からは無数の枝を、地中からは根を伸ばしユウ達に襲いかかってきた。
「ソード・レイン!!」
ユウが迫ってくる枝や根に向けて無数の剣を放った。
ユウの作り出した剣の切れ味は鋭く、枝や根を斬り裂くがそれでも食獣植物の勢いは止まらない。
「サウザンドスピアー!!」
テリアも無数の矢を一気に放つが結果は同じだった。
「駄目よユウ、テリア! いくら枝を斬っても無駄だわ!」
エレナの言う通り傷付いた枝や根はすぐに再生していく。
――――――グググッ······グ······
再生するだけではない。
食獣植物はどんどん成長を続けていた。
「満月よ! こいつは満月の光を浴びてる限り無限に成長する化け物なのよ!」
エレナの情報は正しいようだ。
食獣植物は枝や根をどんどん伸ばし、さらに巨大になっていく。
「ミリィ、アンタあいつの血を吸って操れないの!?」
「あれ植物ですよっ!? 血なんてあるですかぁ!?」
樹液ならあるだろうがミリィの(吸血)スキルでは操れそうにない。
「ガアアアッ!!!」
食獣植物はユウを集中的に狙っていた。
勇者を倒すための魔物だった為、ユウの持つ勇者のスキルに反応しているのだろう。
「こいつ、ぼくを狙ってる?」
ユウが具現化した剣を持ち向かってくる枝を斬っていく。
しかしあまりに数が多すぎる。
「ユウ、足下危ない!」
エレナが叫ぶが遅かった。
――――――――――ドスッ!!!
「かはっっ」
地面から食獣植物の根が突き出てユウの胸を貫いた。
「ユウ!!」
「ユウ様ぁっ!!」
テリアとミリィが叫ぶ。
「ぼくは大丈夫······みんなは離れてて!」
突き刺さった根を斬りユウが言う。
大丈夫と言っているがどう見ても傷は深い。
エレナがユウの元に駆け寄る。
「エレナ、来ちゃダメだ······」
「ユ、ユウ······傷の手当てをしないと!」
「ガアアアッ!!!」
そんな二人に食獣植物は無数の枝や根を伸ばし追い撃ちをかけてくる。
「そんなの後だよ! テリア、ミリィ! 一旦退くよ!」
ユウは傷付いた身体でエレナを抱えて走り出した。
「アースウォール!!」
テリアが(物質具現化)で巨大な壁を作り出し食獣植物の攻撃を防いだ。
ユウ達四人は迫り来る枝や根から逃れるために再びレーデの森に入った。
食獣植物は巨大な大樹の魔物だから移動は簡単には出来ないようだ。
枝や根を振り切りユウ達は一息つく。
「ユウ、傷は大丈夫なの!?」
すぐにテリアがユウの傷を確認する。
「これくらいの傷、心配いらな············かはっ」
ユウが答える途中で血を吐いた。
心臓はうまく避けたようだが他の内臓をやられたのかもしれない。
「すぐに治療しますよぉ! ユウ様ぁ」
ミリィが持っていたポーションを取り出す。
下級と中級ばかりでユウの傷を治すには心許ない。
「待ってミリィ、私に任せて」
エレナがユウの傷口に手を置く。
「············ごめんユウ、私のためにルナリーフを咲かせに来なければこんなことには······」
「エレナが気にすることじゃないよ。ぼくがドジしただけだから」
傷ついたユウに対してエレナが気に病むが、ユウは笑って答えた。
「すぐに治すわ······ユウ」
エレナが両手に魔力を集中させる。
「聖なる気の流れで傷を浄化せよ···············
セイント・キュア!」
エレナの手から「聖」属性の光が放たれる。
ユウの傷は瞬く間に治っていった。
「これって······もしかして「聖」属性?」
テリアが驚きの声をあげる。
この世界では「聖」属性の使い手は極端に少ない。
聖女や一部の神官が使えるくらいである。
「すごいよエレナ! すっかり治ったよ」
ユウが自分の身体を確認して言う。
それに対して今度はエレナの様子がおかしい。
「············っ······はぁっ······」
エレナは胸をおさえて苦しそうに息をしている。
「また発作ですかぁ!? エレエレっ!」
「大······丈夫、久しぶりに力を使ったから······疲れただけ」
いつもの発作ではないようだ。
エレナはしばらくすると呼吸が落ち着いてきた。
「私の属性は普通の魔法と違って······魔力消耗が大きいの············でも、役に立ててよかった」
「聖」属性は強力な反面魔力消耗が激しい。
病気のエレナが使うには負担が大きいだろう。
「ありがとうエレナ、後はゆっくり休んでいてよ」
「······ちょっと待ってユウ、どこに行くの? まさかあの魔物を倒すつもり?」
「うん、だってあいつからルナリーフを取り戻さないといけないからね。ルナリーフはあれ一つしかないんだ」
ユウはまだルナリーフのことを諦めていなかったようだ。
「無茶よ! あの魔物は勇者でも倒せるかわからない伝説の魔物なのよ! 一晩で大陸一つを喰い尽くしたとも言われてるの、いくらユウが強くても勝てる相手じゃないわ!」
エレナがユウを止める。
だがユウは諦めようとはしない。
――――――ドドドッ!!!
地鳴りが響き、地中から無数の根が飛び出してきた。
ユウ達は素早く根を回避した。
「こんな所にまで根が届くなんて······」
テリアが弓矢を作り出し構える。
レーデの森の至る所に食獣植物の根が現れていた。
この様子ではもはや森全体が食獣植物に支配されているかもしれない。
「すごい早さで成長してますよぉ!? このままだと町まで届いちゃうんじゃないですかぁ!」
ミリィの言う通り食獣植物はこうしている今もどんどん成長していた。
ヴィーラルの町まで根が届くのも時間の問題だ。
大陸一つを喰い尽くしたというのも本当なのかもしれない。
「根を切っても駄目だわ、本体を倒さないと増える一方よ」
テリアが迫りくる根を撃退するが勢いは止まらない。
「早く逃げようユウ、テリア、ミリィ! ここももう安全じゃないわよ」
「いや、倒そう」
ユウが立ち上がり言う。
「ミリィの言う通りだよ。このままじゃ町がこいつの根に襲われちゃうよ、そうなる前に倒さないと」
「そうね······どの道逃げられそうもないしね」
「ミリィ達なら負けませんよぉ!」
ユウの言葉にテリアとミリィが頷く。
「後はぼく達に任せてエレナはここで待ってて。結界を張っておくからしばらくは持つはずだから」
「············ううん、嫌よ、ユウ」
エレナが首を横に振る。
「言ったでしょ? ユウ達だけに危険なことはさせたくないって············ユウ達が行くなら私も出来る限りサポートするわ!」
ユウ達を止められないと悟ったエレナは覚悟を決めたようだ。
四人は再び魔物の本体がいる丘まで向かった。