勇者(候補)ユウの冒険章② 7 エレナ視点
(エレナside)
私は死ぬ。そう遠くないうちに。
ずっとそう思っていた。
生まれた時から死の病に冒されていた私は普通の生活というものも満足にできなかった。
息をするのもツラい。食事もまともにできない。
上級万能薬と臓器を補佐する魔道具がなければとっくに死んでいたはず。
私のパパとママは上級貴族と呼ばれる地位を持っている。
だから高価な薬や魔道具を用意できた。
パパもママもやさしく、こんな役に立たない私でも可愛がってくれて私の病気を治すために色々と手段を尽くしてくれた。
世界中の医者に依頼した。
あらゆる薬、あらゆる治療法を試した。
でも私の病気を治すことはできなかった。
そしてついに最後通告がきた。
私の命はあと一年、長くても二年が限界だという。
自分の身体のことだもの。そんなのわかってる。
とても二年は持たないと思う。
一年だって怪しい。
だから私はパパ達にお願いして生まれ故郷であるヴィーラルの小さな病院にきた。
残りの命はここで静かに終えたい。
病院の先生も町の人達もやさしい人はかりだ。
でも私は素っ気ない態度をとった。
誰とも深く関わりたくない。
生きる希望を持ちたくない。そう思っていた。
そんなある日、この病室に新しい病人が運ばれてきた。運ばれてきた病人は私と同じくらいの年の男の子だった。
「ユウ、しっかりしてっ」
「目を覚ましてくださいっ、ユウ様ぁ!」
付き添いに二人の女性がいる。
この二人も私と同じくらいの年だと思う。
大人の姿はない。
町の人間ではないようだから旅の途中で男の子が倒れたのかな?
大人を連れないで旅をしてるのだろうか。
しばらくしたら男の子が目を覚ました。
本人は大丈夫だと言ってるけどまだ足元がおぼつかない。
お医者さんの話だと10日くらいは安静にしておく必要があるみたい。
命に別条はないということだったので付き添いの二人はホッとしていた。
······ということはこの男の子は10日間はこの病室にいることになる。
まあ私には関係のないこと。
あまり関わらずに過ごそう。
と思っていると何やら付き添いの二人が言い合いを始めた。
ここが病室だとわかっているのかと言いたくなるくらい騒がしい。
あまりに我慢できなくなり私は―――――
「うるさぁーーーーーいっっっ!!!!!」
と大声をあげてしまった。
言い合いはピタリと止んで視線がこちらに来る。
「ご、ごめんなさい······」
片方の女性は素直に謝った。
「もう~、テリっちのせいですよぉ」
もう片方の女性はまったく反省の色がない。
放っておけばまた言い合いを始めそうな勢いだった。
まったく······とんでもない人達が来たものね。
男の子はユウ。
女性の二人はテリアとミリィと言うらしい。
関わらないようにするつもりだったんだけど、男の子ユウはやたらと私に話しかけてくる。
私は素っ気ない態度で避けようとしたけどユウはそんなことまったく気にしなかった。
ついには私の方が折れてユウとの遊びに付き合うことになっていた。
最初は仕方無く付き合っていたけどその内ユウと遊ぶのが本当に楽しくなってしまっていた。
そんな感じで五日が過ぎた。
その日、私は身体の調子が良かったからユウ達を誘って外に買い物に出た。
欲しかった書物も買えたしユウ達と色々なお店を回って楽しんだ。
こんなに楽しいのは初めてかもしれない。
しかし良いことは長くは続かなかった。
買い物を楽しんだ後、ユウ達と定食屋に入った。
そこで私は病気の発作に襲われた。
胸が苦しく、息ができなくなり私は意識を失った。
ユウ達には病気のことを隠していたのに······さすがにバレてしまっただろう。
私が目を覚ましたのは次の日の夜だった。
起きた私は深い絶望に襲われた。
ユウ達と遊ぶのが楽しくて忘れていた。
私は長くは生きられない。
わかっていたことなのに。
受け入れていたはずだったのに。私は死ぬ。
嫌だ······嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ!
死にたくない!
もっとユウ達と一緒にいたい。
でも······その願いは叶わない。
ユウ達に会いたい······でも会いたくない。
会えば希望と同時に絶望に襲われる。
そんな矛盾した気持ちになり、その日一日はベッドから一歩も動かなかった。
次の日になっても気分は晴れなかった。
······そういえば身体が汗でベタベタで気持ち悪い。
気分を紛らわすために私は上半身裸になり、濡れタオルで身体を拭いた。
そんな時、タイミング悪くユウが病室に入ってきた。
ノックはしてたけど私の返事を待たずに入ってきたから身体を見られた。
「よかったエレナ、思ったより元気そうだね?」
「い、いいから出てってよ!! バカァーーッ!!」
ユウに会えたのは嬉しかったけどそんなこと考える余裕もなく私は力の限り叫んだ。
その後落ち着いた私はユウと話をした。
やっぱりユウはすでに私の病気のことを知っていた。
半分ヤケになった私はユウにすべて話した。
その時ひどいことも言ってしまった。
それでもユウは私に対する態度を変えない。
私の話を聞いたユウは今度は自分の過去を話してくれた。
ユウは故郷エイダスティアでひどいイジメを受けていたことなど。
自殺を考えたことまであると。
あんな楽しそうに笑うユウにそんな過去があったなんて信じられなかった。
ツラい思いをしているのは私だけじゃない。
ユウの話で私はそれを知った。
私に残された時間は少ないけど············せめて生きていられる間は楽しんだ方がいい。
私は今までの考えを改めた。
そんな私にユウはさらに言った。
私の病気を治す手段がある。
普通なら信じられない。
でもユウの言うことなら······!
―――――――――(side off)―――――――――
こうして9日はあっという間に過ぎた。
ついにルナリーフを発芽させる日がきた。
昨日は大雨が降っていて実行できるか心配だったが、今日はうってかわった晴天だった。
「昨日のおまじないが効いたみたいだね」
ユウがうれしそうに言う。
ユウ達は昨日、明日の晴天を願うためにてるてる坊主を作っていた。
「肝心のルナリーフの種の方は大丈夫なのユウ?」
テリアが問う。
「バッチリだよ。後は夜を待つだけだね」
「あの森を抜けた先の丘で種を植えるんですねぇ」
ミリィもノリノリだ。
「ユウ、私も連れてって」
エレナが言う。
ルナリーフの花はレーデの森を抜けた先にある丘で咲かせるつもりだ。
ユウ、テリア、ミリィの三人で行くつもりでエレナを連れていく気はなかったのだが。
「身体は大丈夫なのエレナ? それにレーデの森は夜は危険な魔物が現れるんでしょ? あぶないよ」
「だからよ······ユウ達だけに危険なことをさせたくない。これは私の問題なんだから」
ユウが心配するがエレナは引く気はないようだ。
「心配ないですよぉ、エレエレ~、ミリィ達結構強いんですよぉ」
ミリィが自信満々に言う。
確かにユウのレベルは231。
テリアは185。ミリィは144もある。
昼間のレーデの森の魔物はレベル20前後だったので夜に多少狂暴化していても問題ないだろう。
「それでも心配なの······それにもしもの時は私の魔法はきっと役に立つわ。だからお願い」
「エレナも魔法が使えるの?」
「そうよユウ、私の魔法はユウ達の物質具現化スキル並にレアなんだから絶対に役に立つわよ」
エレナも何やらレアな魔法が使えるらしい。
嘘を言っている感じではない。
「でも夜よ? 外出の許可が出るかしら」
テリアが常識的な指摘をする。
「出るわけないわよ。だからこっそり抜け出して行くの。今日は身体の調子もいいから足手まといにはならないから」
かなり無茶なことを言い出すエレナ。
それぞれが意見を言って妥協案を出したが結局ユウ達が折れた。
「そこまで言うならわかったよエレナ、一緒に行こう」
「······仕方無いわね」
「ミリィ達が守ってあげますよぉ、エレエレ~」
エレナも付いてくることが決まりユウ達は夜に備えて休むことにした。