勇者(候補)ユウの冒険章② 6 霊草ルナリーフ
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その後テリアとミリィもやってきた。
ユウはエレナの病気を治すための方法をみんなに説明する。
「······霊草ルナリーフ?」
エレナが言う。
聞いたことのない名前だったようだ。
「うん、満月の光を浴びて花を咲かせる希少な植物だよ。ルナリーフの花からはあらゆる病気や呪いを治せる薬を作れるんだ」
ユウが説明する。
「確かその薬でユウの両親が何年か前に
エイダスティアで流行った病気を治したのよね?」
「うん、ぼくの家、ロードテイン家だけに伝わる秘伝の薬だよ」
テリアの言葉にユウが頷く。
「すごいですユウ様ぁ! それがあればエレエレの病気も治せるですねぇ?」
ミリィが言う。
「でもその薬、もう使い切ってないんじゃなかった? 薬の作り方もユウの両親以外知らないはずだし」
「大丈夫だよテリア、薬の作り方はちゃんとぼくに伝わってるから」
そう言うとユウは(物質具現化)スキルで何かの書物を作り出した。
その書物には色々な薬の精製方法が載っていた。
(物質具現化)は一度読んだ書物であればまったく同じ物を作り出すことが可能なのだ。
「肝心の材料はどうするのよ? 薬の作り方はわかってもルナリーフが無ければどうしようもないわよ」
「それも大丈夫だよ」
ユウは今度は収納袋から手の平サイズのビンを取り出した。
中には色々な植物の種が入っている。
「わぁ~、色んな種がいっぱいですねぇ」
ミリィが目をキラキラさせて言う。
「薬草は種類がたくさんあるからね。あらゆる薬草の種が入ってるよ。ルナリーフの種はこれだよ」
ユウがビンから取り出した種は他のものと比べて明らかに違う雰囲気を感じる種だった。
「これがルナリーフの種············私の病気を治せるかもしれない······」
エレナからすれば諦めていた希望をもたらすかもしれないものだ。
声が少し震えていた。
「だとすれば後の問題は満月の日ね。先月が満月の日だったから次の満月までまだ2ヶ月近くあるわよ」
テリアが言う。
この世界には3つの月があり、それぞれがバラバラに満ち欠けをする。
3つの月すべてが満月で揃うのは3ヶ月に一度になる。
「2ヶ月ですかぁ、長いですねぇ?」
「そんなに待つつもりはないよ。9日後が3つの内2つの月が満月になる日だからね。その日に発芽させるよ」
ユウによるとルナリーフの花を咲かせるにはそれで充分だと言うことだ。
「でも······本当にいいのユウ? その種って貴重なんでしょ? それを私のために使うなんて······」
「構わないよ。エレナの命の方がずっと大事だからね」
ユウの素直な言葉にエレナが顔を赤くする。
「後は植える場所だね。満月の光をいっぱい浴びれる広い場所がいいんだけど」
「それなら町を出て東にある森を抜けた先に見晴らしのいい丘があったわ。そこならいいんじゃないかしら?」
テリアが提案する。
冒険者ギルドの依頼で薬草などを採取していた時に見つけた場所らしい。
「それってひょっとしてレーデの森のこと? あの森······特に夜は狂暴な魔物が出るって話よ。危険じゃないの?」
「大丈夫ですよぉ、エレエレ~、魔物なんてミリィ達の敵じゃありませんからぁ」
心配するエレナにミリィは自信満々に言った。
それから数日が過ぎた。
もうユウの病気は完全に治っていたがエレナのためにまだ病院に残っていた。
ユウはあれからルナリーフの花を咲かせるための準備をいそいでいた。
ルナリーフの種は満月の光だけでなく充分な魔力を溜め込ませないと発芽しない。
だからユウは毎日自分の魔力を限界近くまでルナリーフの種に送っていた。
余った時間はエレナと遊び楽しんでいる。
テリアとミリィもお金はある程度貯まったのでユウとエレナと共に遊んでいた。
エレナの父親もユウ達が残り、エレナの楽しそうな様子に喜んでいた。
ちなみにルナリーフのことは話していない。
まだ不確定要素があるので話すには早いと思ったためだ。
テリアが言っていたレーデの森を抜けた先にある丘もルナリーフを発芽させるのにうってつけの場所だと確認した。
後は満月の日を待つだけである。
「エレナの持ってる書物って結構面白いわね。わたしこういうのあんまり読んだことなかったから新鮮だわ」
「気に入ってくれてうれしいわ。まだ色んなストーリーがあるからどんどん読んでよテリア」
テリアとエレナもずいぶん仲良くなっていた。
いつの間にかエレナはユウ以外も呼び捨てで呼ぶ仲になっている。
「ミリィが買ってきたこの書物も面白いですよぉ?」
「······ミリィの持ってくるのって怖い話のばかりじゃない。私は苦手なのよ」
ミリィの薦める本はいわゆるホラー系のものだった。
エレナもテリアもそういうのは苦手のようだ。
「ぼくはそういう話も好きだけど」
ユウは苦手な話はあまりないようだ。
どんな物語も楽しく読んでいた。
四人は本を読み、その内容を語り合ったり、ゲームをしたりと楽しんでいた。
まだエレナは外に出れる程体調は良くなっていないが、室内の遊びでも充分楽しそうだった。
テリア、ミリィもエレナにプライベートな話をしたりもしていた。
ミリィが人族ではなく夢魔族だと聞いた時はさすがに驚いていたが、それでエレナが態度を変えることはなかった。
「じゃあエレナ、背中を流してあげるから準備して」
テリアが言う。
ユウ達は病院の一画に簡易シャワールームを作っていた。
アルネージュの町にあった施設を(物質具現化)スキルを駆使して再現したのだ。
もちろん一時的なもので汗を流せば元に戻すつもりだが。
アルネージュの町では毎日お風呂に入っていたのでユウ達は構造を把握していた。
この世界はお風呂はまだ一般的ではないため、こうでもしないと入る機会があまりない。
濡れタオルで身体を拭いたり、洗浄魔法でキレイにするだけでは満足できなくなっていた。
「はいは~い、ちょっと準備するから待っててくださ~い」
ミリィがバスタオルなど必要な物の用意を始める。
テリアは万が一エレナの発作が起きた時のための薬を受け取りに行った。
「物質具現化スキルってすごいのね······こんなものまで作れるなんて」
エレナが驚きのため息をつく。
その後テリア、ミリィ、エレナの三人は身体を清めながら騒がしく楽しんだ。
ちなみにユウは三人が上がった後、一人で入った。
さすがに男のユウが一緒に入るわけにはいかない。
またある日の夜、エレナが発作に襲われた。
医者がすぐに薬を飲ませたので症状は比較的軽く済んだが。
「······ごめんユウ、心配かけちゃって······」
普段は強気に振る舞うエレナもこの時は弱々しかった。
「謝ることないよエレナ、ぼくにできることがあれば何でも言ってよ」
ユウが笑顔で言う。
夜も遅く、テリアとミリィはすでに宿に戻っているため今、病室にはユウとエレナしかいない。
ユウも退院してからは宿に泊まっている。
そろそろ宿に戻ろうとした時に発作が起きたのだ。
「······じゃあお願いユウ、今だけでいいから······手を握って······そばにいて」
「お安い御用だよ」
ユウはやさしく頷きエレナの手を握った。
「ねえ、ユウはテリアとミリィのこと······好き?」
「うん、好きだよ。二人ともぼくの大事な人だよ」
「············じゃあ私のことは?」
「もちろん好きだよ。エレナだって大事な人だよ」
ユウが迷うことなく答えた。
「じゃあ一番好きなのは······?」
「一番?」
「············やっぱりいいわ。気にしないでユウ」
エレナが質問を取り消した。
「私もユウのこと好きよ。ユウと会わなかったら私はきっと孤独に死んでいってたわ。こんなに心から楽しい日々······初めてよ」
「エレナは死なないよ。エレナの病気は必ず治すよ、約束する」
「············ありがとう、ユウ」
二人はずっと手を握り合ったまま話し合った。
話し疲れるとエレナは安心したようにすやすやと寝息を立て始める。
ユウもその場で眠りについた。
次の日の朝、同じベッドで眠っているユウとエレナを見たテリアとミリィが大騒ぎしたのは言うまでもないだろう。
こうしてルナリーフを咲かせる日は近付いてきていた。