勇者(候補)ユウの冒険章② 2 少女エレナ
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「············で、何してるわけ? あなた」
ベッドで寝ながら少女エレナが言う。
ベッドの横にはユウが座っていた。
しばらく眠っていたら体調が少し良くなり退屈していたようだ。
「同じ病室なんだから仲良くなりたいと思ったんだよ。ぼくはユウ。キミはエレナだったよね?」
ユウが満面の笑顔で言う。
「そう、よろしく。私はまだ寝るからおやすみ」
素っ気なくエレナが応える。
「えー、寝るにはまだ早いんじゃない? 少しくらい何かして遊ぼうよ」
「······私もあなたも病人でしょ? 少し元気になったからって無理しない方がいいわよ。連れの二人だっておとなしくしててって言ってたじゃない?」
エレナの言うことは正論だった。
確かに少し元気になったと言ってもさっきと比べたらの話だ。
本調子には程遠い。
仕方無くユウもベッドで横になることにした。
エレナと仲良くなりたいがまずは自分の身体を治さなくては。
その日一日はゆっくり寝ることにした。
テリアとミリィは近くの宿屋に泊まることにしたらしい。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
次の日、まだ熱はあるが昨日よりは身体が動く。
「おはようエレナ、今日もいい天気だよ」
昨日と同じようにエレナのベッドの横に座り、ユウが挨拶する。
「············おはよう」
相変わらず素っ気ない態度のエレナ。
「今日こそ一緒に遊ぼうよ! 昨日と違って体調はいいよ」
ユウが笑顔で言う。
確かにユウは昨日に比べれば熱は下がっていた。
まだまだ平熱とは言えないくらいだがユウの表情を見る限り元気そうではあった。
「私に構わないでよ。私は一人でいる方が好きなの」
無表情でエレナが言う。
「一人でいたってつまんないよ。ぼくはエレナと遊びたい! 外に出なくても部屋で遊べる物なら色々出せるよ。なにで遊ぼうか?」
素っ気ないエレナに構わずユウが話を進める。
そして(物質具現化)スキルで色々な物を作り出した。コマやビー玉のような簡単な物からパズルやボードゲームのような部屋で遊ぶための物を片っ端から出していた。
「············え?」
何もない空間から色々な物を作り出すユウを見てエレナの表情が変わった。
「あなたその大量のオモチャ······どこから出したの? 収納魔法とは違う気がしたわよ······」
「今作ったんだよ。ぼくの(物質具現化)のスキルで! 結構便利なスキルなんだよ」
「物質具現化スキルって············ずいぶん昔に使い手がいなくなった失われたスキルじゃない············なんであなた使えるのよ?」
「ぼく達のスキルってやっぱり外の世界じゃ珍しいんだ? 他に使ってる人見たことなかったからね」
ユウが笑いながら言う。
「外の世界? 一体何のこと言っているのよ?」
エレナからすれば意味がわからないようだ。
「うん。じゃあぼく達が住んでいた町のことを教えてあげるよ」
ユウがエレナに自分の住んでいたエイダスティアの町のことを話した。
数百年前に魔王軍の侵攻から逃れるために町全体に結界を張り、外部との接触を遮断していたこと。
その結界が壊れ、自分達は外の世界を旅していることを。
「······信じられないような話だけど確かに失われたはずのスキルを使っていたわね······」
エレナは興味深そうにユウの話を聞いていた。
さっきまでユウに対してまったく無関心だったのにどうやら興味が出てきたようだ。
「外の世界に出るのって初めてだから何もかもが珍しくて楽しいよ!」
ユウが本当に楽しそうに言った。
「本当に心から楽しそうに言うのね。あなたって」
エレナもつられるように少し笑った。
「やっと笑ってくれたね。エレナの笑った顔、すごくかわいいよ!」
「かっ······な、何言っているのよ! 私はあなたにつられただけで······」
「ねえエレナ、ぼくはユウだよ。あなた、じゃなくて名前で呼んでよ!」
「別にいいでしょ············そんなこと」
「よくないよ。ぼくはエレナともっと仲良くなりたいし。······もしかしてエレナはぼくと仲良くなるのはどうしてもイヤ?」
「どうしてもってことはないけど······」
さっきまでの無表情の素っ気ない態度はどこへ行ったのか、今のエレナは完全にユウのペースに嵌まっていた。
「じゃあ名前を呼んでよ! ね、エレナ?」
「よ······よろしく······ユ、ユウ」
エレナが恥ずかしそうに顔を赤くしながらユウの名前を呼んだ。
「うん、こちらこそよろしく! エレナ」
喜びのあまりベッドで横になっているエレナに迫るようにユウが握手をした。
―――――――――ガチャッ
「ユウ、具合はど············」
そこへタイミング悪くテリアとミリィが病室に入ってきた。
何も知らない二人から見たらユウがエレナを押し倒そうとしているように見えた。
「な、な············な······」
「何してるですかユウ様ぁ!?」
言葉にならないテリアに代わってミリィが叫ぶように言った。
「あ、おはようテリア、ミリィ」
当のユウは何も気にせずに二人に挨拶した。
「何しようとしてたのよ、ユウ!!」
ようやくテリアも声をあげた。
「何ってエレナと遊ぼうとしてたんだよ?」
「お、押し倒そうとしてどんな遊びよ!?」
混乱しているのはテリアだけでユウは平然としていた。
ミリィもテリアと同様に混乱しているようだ。
「ちょ、ちょっと勘違いしないでよ!? 私達は変なことしてないわよ! あれはユウが······」
「「もう名前を呼び捨てで!?」」
エレナも誤解を解こうとするが話がどんどんおかしな方向に進んでしまった。
この後みんなが落ち着き、事情を理解するまで時間がかかった。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「そういうことだったのね。まあそんな所だと思ったわよ」
「ミリィもユウ様のこと信じてましたからぁ♡♡」
事態を把握して調子の良いことを言う二人だった。
「ていうかユウ、おとなしく寝てないと駄目じゃない。昨日よりはマシだけどまだ熱があるわよ」
テリアがユウの額に手をやる。
「そーですよユウ様ぁ。ミリィ達がお金を稼いでる間にユウ様はしっかり病気を治すことが仕事なんですからぁ」
「そういえば仕事は見つかったの?」
ミリィの言葉を聞きユウが問う。
「冒険者ギルドで簡単な薬草の採取の依頼を受けてきたわ。その帰りに魔物に襲われてた人を助けたら結構なお礼をもらっちゃったわ」
「貴族とかいう人でしたねぇ。なかなかいい人でしたよぉ」
そこそこ強い魔物だったようだが二人の敵ではなかったようだ。
テリアとミリィはレベル100を超えている。
「···············」
エレナは黙ってユウ達の様子を見ていた。
「あ、エレナ、紹介するね! テリアとミリィって言うんだよ!仲良くしてね」
ユウが軽く二人を紹介する。
「············よろしく」
さっき色々あったばかりで少し気まずそうにエレナが挨拶する。
「わたしはテリアよ。よろしくね」
「ミリィでーす。ユウ様の一の愛人はミリィなんですからねぇ。勝手なことしちゃ駄目ですよぉ?」
「勝手なこと言ってるのはアンタでしょ! ミリィ!」
自己紹介からいつもの言い合いが始まってしまった。
しばらくは黙って見ていたエレナだったが、あまりのやかましさにだんだんと表情が険しくなっていく。
「大体ミリィ、アンタがね······」
「い~え、テリっちの方が······」
「うるさぁーーーーーいっっっ!!!!!」
昨日のように言い合いをしている二人をエレナが一喝した。
「あははははっ!!」
それを見てユウが声をあげて笑った。