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12 商業ギルドマスターから見た三人

今回も主人公レイ視点ではありません。

(アスレーside)


 私はアスレー。

 商業ギルド、アルネージュ支部ギルドマスターだ。今アルネージュの町は危機が迫っていた。


 今はまだギリギリ持っているがこの町は食糧難に陥っている。

 数年前の魔物の邪気で作物はろくに育たず、最近は強力な魔物が増えたことにより、この町に来る商人が日に日に減ってきている。


 聖女様の儀式が成功すれば魔物はどうにかなるかもしれないが、それまで食糧が持つかどうか。

 頭の痛くなる話だ。どうすればいいんだ。



「ギ、ギルドマスター、失礼します!」


 慌てた様子で入ってきたのは受付嬢のフィレアだ。彼女がここまで慌てるのは珍しい。

 何かあったのか?


「じ、実は······」


 フィレアの話を聞くと三人組の冒険者が土地を借りに来たらしい。

 これはそんなに珍しい話じゃない。

 少し稼げる冒険者なら宿をとり続けるより仮住まいを手に入れた方が安く済む。



 しかしその冒険者達は借家ではなく土地、それもかなり広い土地を希望したという。

 そして出てきた場所は第三地区。

 確かに広いが邪気に冒されて住むに適してるとは思えない。

 何よりもそんな広い土地をどうするつもりだ?



 まあそれは今はいい。

 それよりもその冒険者は手持ちの金では足りなかったらしく、素材を売って支払うつもりだという。

 それも珍しい話じゃない。

 だが持ってきた素材が問題だった。

 いや、違法な物という意味ではないが。



 金、銀、白金(プラチナ)、さらにはミスリル、そしてオリハルコンまであるという。何の冗談だ?

 金、銀はまだいいが白金(プラチナ)やミスリルは希少な鉱石だ。

 それだけでも驚きだというのにオリハルコンまであるだと? 伝説とまで言われる神々が作りし金属。

 王族でも所持している数は少ないはずだ。


 本当なのか?

 そんなものをどうやって手に入れた?

 フィレアが慌てていた理由がよくわかった。

 ギルドマスターである私自ら見なければ。すぐに私は冒険者の所に向かう。




 三人組の冒険者は男一人、女二人のパーティーだった。美しい黒髪に鋭い目の女性。

 このパーティーのリーダーだろうか。

 だが若い。男女二人は20を超えていないだろう。もう一人の女性は、女性というより女の子といった年だろう。

 本当にこの三人がそんな希少な素材を持ってきたのか?

 さっそく鑑定で調べてみる。



〈オリハルコン〉

神々が作りし金属と呼ばれる希少な鉱石。加工は困難だが武具にすれば凄まじい性能を発揮する。



「······間違いなくオリハルコンだ。それにミスリルや白金(プラチナ)までこんなに······」


 他も見たがすべて本物だった。

 一体どうやってこんな希少な物を手に入れたんだ?


「それで買い取りは可能だろうか?」


 リーダーと思われる女性が問いかけてくる。

 いかんいかん、ここは冷静に対応しなければ。


「ああ、しかしこれだと土地購入の埋め合わせどころではないな。この数倍の土地を売ってもお釣りが出てしまう」


 ここは正直に言おう。まだ若いと侮ってはいけない。私の直感がそう言っている。



「私はこの商業ギルドのギルドマスター、アスレーだ。これだけの素材を一体どこから?」


 そう問いかけたが仕入れ先は教えてもらえなかった。まあ簡単に教えられることではないだろうな。

 犯罪に関わっていないと言っているのも本当だろう。冒険者が犯罪を犯せばギルドカードにしっかり記載されてしまうからな。


「だが、こちらの確認はしておこう。君たちの目的は? 何のために土地を借りようと思ったのかな?」


 これは確認しておかなければならない。

 返ってきた答えはやはり住む場所のためだった。

 だがそれならばあんなに広い土地じゃなくてもいいのではないか?

 そもそも第三地区は治安が悪い。



 ならば貴族の住む第一地区の紹介もできる。

 そう提案したが第三地区の土地でいいと言う。

 やりたいことが何なのかはわからないが犯罪に関わることでないのならいいだろう。


「わかった、土地のことは認めよう。それと一つ提案なんだが君たち商業ギルドに登録することを勧める」


 冒険者ギルドと商業ギルド、両方に登録することは別に珍しいことじゃない。

 直接商業ギルドに素材を売りに来る者もいるし、商売を考えている冒険者もいる。

 お金を預かり管理することもしている。

 それなりにメリットは大きいのだ。



 それにこの三人は商業ギルドに登録させた方がいいと私の直感がそう言っている。

 まだ若いと侮ってはいけない。

 何故ならこの三人を試しに鑑定魔法で見てみたのだが······。



[アイラ](鑑定不能)

[レイ](鑑定不能)

[シノブ](鑑定不能)



 という結果だった。鑑定できたのは名前だけだ。

 鑑定魔法は一定以上の実力者になると鑑定できないことがある。

 私はレベル50の騎士を鑑定したことがある。

 それなのに鑑定できないということは、少なくともこの三人はレベル50を超えているということだ。

 有望な人材と言えるだろう。


「そうだな、せっかくだからお願いするか。レイ、シノブもいいな?」


 女性の言葉に二人が頷く。

 アイラ、レイ、シノブか。この三人、覚えておくとしよう。手続きを済ませ三人にギルドカードを渡す。


「また珍しい素材があれば持ってきてくれ。良い金額で買い取ろう」


 軽く挨拶を済ませ、三人は商業ギルドを後にした。驚きの連続だったな。

 買い取った素材はドワーフ工房に送るとしよう。

 商人が減り素材も不足していたからな。

 奴ら喜ぶことだろう。

 オリハルコンもあったから腰を抜かすかもしれないな。



 素材が無ければ武具が作れず、武具が無ければ冒険者は魔物を討伐できない。

 魔物を討伐できなければ魔物は増え続け商人はさらに減っていく······最悪な悪循環だったからな。

 これで少しは良い方向に行くだろう。


 そんなふうに忙しい日々が何日も続いた。

 そんなある日······。



「ギルドマスター、報告が······」


 そう言って入ってきたのはフィレアだ。

 フィレアは見たこともないような果実をいくつも持っていた。


「なんだ、その果実は?」

「とある場所で手に入ったものです。味も見てください」


 とある場所?

 こんな果実ができそうな所など第一地区か第二地区の一部くらいのはず。

 しかしその場所にこんな果実はなかったはずだ。


 何種類もある果実をフィレアはそれぞれ切り分ける。食べやすいサイズになった果実をそれぞれつまんでみた。


「うまいっ、なんだこれは!?」


 なんと濃厚な甘み、どれも素晴らしい味だ。

 こんな美味な果実は生まれて初めて食べたと言っていいくらいだ。


「フィレア、どこからこの果実を?」

「信じられないかもしれませんが······第三地区です」


 第三地区だと?

 あそこは邪気で果実どころか草木も生えない土地のはずだぞ。


「御自分の目で見られた方がよろしいかと。私も自分の目で見ても信じられなかったくらいですし······」


 フィレアの話から第三地区で何かあったらしいことはわかった。

 仕方無い、丁度仕事が一段落したところだ。

 さっそくフィレアを案内に第三地区に向かった。



 そして言葉を失った。なんだこれは······?

 第三地区の邪気は完全に消えていた。そして目の前には色とりどりの果樹園が。

 なんだ、一体何が起きた?

 何故こんな楽園のような場所になっている?



 第三地区の住人は生き生きとした表情で食料を運んでいる者、建物を直している者、果樹園の整備をしている者。それぞれの仕事をしていた。

 治安が悪いというイメージはどこへいった?



 そしてようやく思い出した。

 この果樹園の土地は、あの三人組の冒険者に貸した土地だということを。

 住人に話を聞くとあの三人が邪気を浄化し、果樹園や畑を作り、食料を与えてくれたという。

 邪気に冒され病気だった者も薬を与えられ完治したという。



 詳しい話を聞くために、私は三人の住む家に向かった。そこは大貴族が住むような立派な屋敷だった。

 たった数日でこれを建てたのか?


「これは商業ギルドのマスター殿と受付嬢の方か。何用かな?」


 訪ねるとアイラが迎え入れてくれた。さっそく私は事情を聞いた。


「一体この第三地区で何をしたんだ?」


 聞いてみると三人はこの町の食事に不満があったらしく、自分達で作ることにしたらしい。

 そのために広い土地を希望したのか。

 しかし見たこともないような果実や野菜ばかりだ。


 見たことのあるものですら、この町のものとは比べものにならないくらい美味だ。



 一体どこの地方のものだ?

 そして種から育てて何故わずか数日でこんなに育つ?

 そもそも神殿の神官でも浄化できなかった邪気をどうやって消した?

 どんどん疑問が増えていく。


 しかし肝心なところははぐらかされて教えてくれない。悪意ある行動ではないので強く問いにくい。



 だが、これだけは確かだ。

 この三人の冒険者によって第三地区は救われた。

 もはや第一地区より恵まれていると言える。


「ここで作った作物、他の地区にも回してくれないだろうか?」


 疑問はあるが今はいい。

 それよりもこれだけの食料があれば他の地区にも充分に行き渡る。

 頭の痛い問題だった食料問題が解決できる。


「それは構わない。ここの物を他の地区に売買するという形で良いか?」

「すまない、助かる」


 こうして食料問題は解決した。しかしこの三人、本当に何者なんだ?

 領主様に報告する必要があるな。











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