105 学園外での決闘
(サラーナside)
私はサラーナ=クラウカルス。
王立エルスタン学園に通っている女学生なのですわ。
優秀な生徒が入れる特別クラスには惜しくも入ることが出来ませんでしたがきっと運悪く入れなかっただけなのですわ。
私も特別クラスに入れる実力はあるはずです。
私は何かと不運に付きまとわれているのです。
この前だって新しく買った魔道具がうまく作動せずとんだ恥をかいてしまいましたのよ。
そのことを文句を言いに店に行けば今度はフェニアさんが現れましたし······。
フェニアさんはエルフという種族で魔力が高く、特別クラスに入る実力があるのは理解できますわ。
しかし私だってフェニアさんに劣っているわけではないはずですのよ!
こうなったらそれを証明してみせますわ!
フェニアさんに決闘を申し込み打ち負かすのですわ。彼女に勝てば私も特別クラスに入れる実力があると証明でき、学園長も認めざるを得ないでしょう。
以前に買っていたもう一つの魔道具。
これを使えば必ず勝てますわ!
身の丈に合わない物を使うから失敗するのだと言っていましたがそんなことありませんわ!
あれはただ不良品だっただけのことです。
今度のは違いますわよ。
この魔道具を使いこなしてフェニアさんに勝ってみせますわ。
私の実力、貴女自身で証明してあげますわよ······。
フェニアさん。
(ミールside)
買い出しを頼まれたワタシはメモを受け取り商店の並ぶ第五地区に向かいました。
頼まれた物は大した量ではないので女のワタシ一人でも充分です。
ただ第五地区までは少々遠いので近道のため裏通りを使うことにしました。
裏通りは人通りが少なく道も入り組んでいるため迷いやすいのですが実は何度も使っているので完璧に把握しています。
今日もそんな軽い気持ちで裏通りを通ったのですがいつもと雰囲気が違いました。
人の姿がありました。
まあ人がいること自体は珍しいですがありえないことではありません。
ワタシのように利用する人もいるでしょうし。
しかしワタシが目にした人達は普段裏通りなど使用しないであろう人達でした。
「さあフェニアさん、私の実力思い知らせてあげますわよ」
「自らの実力をわきまえないのですわね。サラーナさん」
裏通りにいたのはフェニアさんと取り巻きの三人娘。そしてサラーナと呼ばれた先程商店でクレームを出していた学生でした。
事情は知りませんがどうやら学園外での決闘を行っているようです。
「私の力を思い知りなさい! いでよ、私の下僕達!」
サラーナが何かを取り出し上にかかげました。
あれは魔道具の一種でしょうか?
魔道具が光るとサラーナの足元から魔物が現れました。
ゴブリン? しかも上位種のホブゴブリンです。
それが1、2、3············全部で5体。
レベルは約20の強めの魔物です。
「おほほほっ、どうかしらフェニアさん? 私の力を持ってすればこの程度の魔物を使役するのはわけのないことですわよ」
サラーナが勝ち誇ったように言います。
どうやらあの魔道具は魔物を召喚し、使役するもののようです。
レイさんが持っていたゴーレムを召喚した魔道具もその一種でしょう。
しかし魔物を使役する魔道具は希少品で数は少なく、欠陥品がよく出回るという話を聞きますが。
「······また分不相応な物を持ち出しましたわね」
「お黙りなさいフェニアさん、さあ行きなさい私の下僕達!」
ゴブリン達がフェニアさんと三人娘に襲いかかりました。
サラーナの命令に従ったというより目の前にいたフェニアさん達に襲いかかっただけに見えましたが。
「ウインドエッジ!!」
フェニアさんが「風」魔法でゴブリンを攻撃しました。
三人娘達もそれぞれ得意魔法で迎え撃っています。
ホブゴブリンは確かに強いですが5体くらいならフェニアさん達が勝つでしょう。
「さすがはフェニアさん、やりますわね。ですがこうしたらどうでしょうか?」
サラーナが別の魔道具を取り出しました。
あれは何でしょうか?
魔物を召喚するものとは別物のようですが。
「······!? ま、魔法が······」
フェニアさんの魔法がかき消えてしまいました。
三人娘達も同様です。
「おほほほっ、これは魔法無効化発生具ですわ! ほんの10分間ですけど半径20メートル以内では一切の魔法が使用できなくなるのですわよ! 魔法の得意なフェニアさんには天敵のような魔道具ですわよね?」
サラーナが得意気に言います。
その魔道具もかなり高価な物のはずですよ。
ここまで用意していたのですかこの人。
「ゴブアッ!!」
「きゃっ!?」
ゴブリンの持つ棒で殴られ倒れ込むフェニアさん。
「「「フェニア様!?」」」
三人娘達がフェニアさんを助けようとしますが、この三人も魔法を使えないため他のゴブリンに道を塞がれています。
「おほほほっ! どうですかフェニアさん? 大怪我しない内に降参した方がいいですわよ」
「だ、誰が降参しますか!」
フェニアさんは強気に言いますがどう見てもまずいですね。
やはりこのまま黙って見ているわけにはいきませんね。
「フリーズランサー!」
「ゴブウッ!?」
ワタシは「氷」属性魔法でフェニアさんに襲いかかろうとしていたゴブリンを倒しました。
「あ、あなたは······ミールさん!?」
フェニアさんが意外そうな表情でワタシを見ています。
「すみませんフェニアさん、たまたま通りかかったもので」
「何故アタクシを助けて······」
たまたま通りかかったというのは本当ですが何故かと言われたら············何故でしょうか?
先日までのフェニアさんなら助けなかったかもしれませんね。
やはりワタシの中で先程の謝罪の言葉が効いているようです。
「なんですのアナタは!? これは私とフェニアさん達との決闘ですのよ! 邪魔をしないでくれます!?」
「それはすみませんね。町の中に魔物がいたのでつい攻撃しただけなのですが」
サラーナの言葉をワタシは軽く流します。
そもそもこんなものを決闘とは言えないと思いますが。
「それに何故魔法が使えますの!? 今は誰も魔法を使えないはずですわよ!」
サラーナの質問に答える理由がありませんね。
まあ答えは簡単ですが。
魔法を使えないのは魔道具を使用したサラーナを中心に半径20メートル以内だけ。
なのでワタシは20メートル以上離れた場所に魔力を集中させて氷の槍を作り出し放ったのです。
魔力の遠隔操作は難しいですがレイさん達に鍛えられた今のワタシなら可能です。
「まあいいですわ! アナタも一緒に倒してあげますわ!」
サラーナは残ったゴブリンにワタシを襲うように命令しました。
しかしゴブリン達はサラーナを無視しています。やはり使役できていないようですね。
「アースグレイブ!!」
ワタシは「土」魔法でゴブリン達を攻撃します。
地面が棘のように盛り上がりゴブリン達を串刺しにしました。
半径20メートル以内といっても地下は影響ないようですね。
やはりあの魔道具も欠陥品のようです。
「すごい······これがフェルお兄様に勝った力······」
フェニアさんが何か言っていますが今は気にしないでおきましょう。
「うううっ······だったらもっと強力な魔物を召喚してやりますわ!」
サラーナは懲りずに魔道具を使います。
ですが何やらバチバチ鳴っていて様子がおかしいです。
――――――――バチッ!!!!!
「キャッ!!?」
サラーナの持っていた魔道具が粉々に砕け散りました。
サラーナは驚いて尻餅をつきます。
これで終わりかと思いきや砕けた魔道具から魔力が放たれ魔物が召喚されました。
出てきた魔物は1体だけ。
しかしかなりまずい相手です。
[ギガントゴブリン] レベル92
ステータスの鑑定に失敗しました。
ただのゴブリンではなく大型のゴブリンです。
体長4~5メートルくらいはありそうですね。
ゴブリンというよりもはやオーガクラスですね。
レベルは92でワタシよりも高くステータスが見えません。
············これはさすがに洒落にならない事態です。