104 教会でのお手伝い
王都の教会でリンと再会した。
リンの格好は護衛の時のような鎧姿ではなく可愛らしいロングスカートを履いた私服姿だった。
兜の代わりに帽子で狐耳を隠している。
「どうしてレイさんがここにいるんですか?」
「あらリンさん、その方と知り合いですか? その方は冒険者ギルドに出していた依頼を受けてくれたのですよ」
リンの疑問にシスター長が答えた。
オレもその言葉に頷いた。
「そうだったんですか。そういえばレイさん達、今は王都の学園に通っているんでしたね?」
どうやらリンはオレやアイラ姉達が学園に通っていることを知っていたようだ。
「リンの方は今日はセーラと一緒じゃないの?」
「セーラ様は王都の本殿内でお仕事中です。今本殿には三人の聖女様が揃っているので何かと慌ただしいようですけど」
なるほど本殿内にいるなら護衛は必要なさそうだし、それでリンは教会の手伝いに来ていたのか。
それにしても三人の聖女か。
「三人の聖女ってセーラとアルケミアさんと······誰?」
セーラとアルケミアとは面識があるけどもう一人は会ったことないな。
聖女······正確には聖女候補は三人いるんだったか。
「聖女ルナシェア様です。ルナシェア様も聖女の試練のために王都に来ているんです。年齢はわたしと同じで聖女様の中では最年少ですね」
リンと同じということはオレとも同じということか。どういう人なのか興味が出たのでリンに聞いてみた。
「どういう方と言われても············そうですね、一言で言うなら聖女様らしくないお方ですね······」
リンからそんな答えが返ってきた。
「聖女らしくない? もしかして男勝りな豪快な人とか?」
もしくはマナー知らずの人とか?
「い、いえ······そういうことはありません。ちゃんと女性らしい立派なお方ですよ。ただ初めてお会いした時に聖女様だとはわからずに少々馴れ馴れしい態度をとってしまいまして······」
············? よくわからないな。
一目では聖女だとはわからない格好をしているのかな?
「それよりもそちらのエルフのお二人はレイさんの同学年の方ですか?」
リンが後ろにいたエイミとミールを見て言う。
「ミールと申します。ただワタシ達はハーフです」
「わ、わたしはエイミです······」
「あ、はい。わたしはリンと言います。今日はよろしくお願いします」
お互いに自己紹介を済ませた。
リンは二人がハーフエルフだと聞いてもあまり気にしていないようだ。
「レイさんはリンさんとどういう関係なのですか?」
ミールがそう聞いてきた。
今のやり取りを見ればオレとリンが顔見知りだとわかるだろうから気になったようだ。
「リンはセーラの専属護衛騎士をしていてオレは何度か冒険者ギルドへの依頼を受けて知り合ったんだよ」
こんな感じの説明でいいかな?
「セ、セーラってもももしかして聖女セーラ様!?」
「リンさんは聖女様の専属護衛騎士なのですか?」
二人がすごく驚いている。
そういえばセーラって聖女の一人だしすごく偉い立場なんだっけ。
結構気軽に接していたから忘れていたよ。
その聖女の専属護衛騎士ってだけでも相当すごいことらしい。
「そ、それほどでもないですよ? わたしなんてまだ未熟者ですしそれに――――――」
「リン姉ちゃん、スキありーっ!!」
「へっ!? きゃあああーーっ!!??」
リンの後ろからスミレよりも少し年下っぽい男の子が現れ、リンの長いスカートを捲り上げた。
オレの目にはリンの白い下着がばっちり見えてしまった。
「コ、コココラァーーッ!? なんてことするんですかっ! 待ちなさーーいっ!!!」
「あははははっ」
リンが真っ赤になって怒ると男の子は笑いながら逃げた。見た感じリンはここの子達と仲が良いようだな。
「······レ、レイさん······その············見ました?」
「············」
何を? とは言わない。
リンの質問に答えずにオレは視線を横に向けた。
もちろんばっちり見ましたよ。
オレはリンの生まれたままの姿も見たことあるので今更下着くらいで動揺したりはしない············なんて思ったら大間違いだ。
リンの可愛らしい下着はそれだけで破壊力は抜群だった。
「ま、まあ今のはわたしの不注意でしたし······き、気にしないでください!」
リンが恥ずかしそうに言う。
初めて会った頃のリンならまず間違いなく鉄拳が飛んできただろうがずいぶんおとなしくなったものだ。
「もしかしてお二人は恋人関係ですか?」
そんなオレ達を見ていたミールが言う。
「ちちち違います! レイさんとはまだそういう関係では······」
「············まだ?」
「と、とにかく違いますからっ」
リンがあわてて否定する。
確かに恋人関係ではないが肉体関係一歩手前まではやってるんだよな······。
あそこまでやって恋人ではないっておかしいかな?
「そ、それよりもみなさんは教会のお手伝いに来てくださったんですよね!? わたしが説明しますからさっそくお仕事を始めましょう!」
リンが強引に話を終わらせた。
ミールもそれ以上は聞かなかった。
リンの指示でそれぞれ仕事を割り当てられた。
オレは主に力仕事。荷物運びや後片付けなど。
エイミとスミレはリンと一緒に子供達の相手を。
そしてミールは外に必要な物の買い出しに行くことになった。
「スミレ、ここの子達は孤児院の子みたいにレベルは高くないから注意するようにな」
「············ん、わかった。ご主人様」
スミレに釘を刺しておいた。
遊んでいる時にスミレが本気を出したらシャレにならないことになるかもしれない。
ミールはシスター長にメモを渡されすぐに買い出しに出た。何度も来ているので慣れているのだろう。
子供達の相手はリン、スミレ、エイミ、そして本殿から来たお手伝いさん数人が見るようだ。
オレはシスター長に言われた雑用をする。
「すごいですね。学生には厳しいかと思ったのだけどあの重い荷物を軽々と運ぶなんて······さすがは男の子ね」
言われた通りに荷物を運んだらシスター長にそう言われた。
まあステータスの数値的にはオレの力は二万を超えてるしな。
大きめの机やタンスなんかは片手でも持てそうだった。
これで一通りの雑用は終わりかな?
一段落したのでオレは子供達の面倒を見ているエイミ達の様子を見ることにした。
「エイミ姉ちゃん、これ読んで!」「バカ、次はおれのだよ」
「もう、ちゃんと順番守らないと駄目だよ?」
おお、エイミは普通に子供達の相手をしているな。
人見知りする性格だから大丈夫かなと思ったんだが余計な心配だったか。
スミレの方は······男の子数人とチャンバラ紛いのことをしていた。
まあスミレの一方的な展開だが。
言われた通り手加減はしているようだし大丈夫かな。
そういえば買い出しに行ったミールがまだ帰ってきていない。
少し遅い気がするな。
心配になったので探知魔法でミールを探すと裏通りで魔物の反応に囲まれていた。
王都の町中で魔物!?
ミール以外にも何人かの人の反応もある。
何が起きてるかわからないが放っておくわけにもいかない。
「ちょっとミールが遅いので様子を見てきますね」
オレはシスター長にそう言ってすぐに反応の場所に向かった。その時オレの手には例のマスクが握られていた。




