102 フェニアとの和解
雑貨屋の店先でクレームを出している女生徒を止めたのはフェニアだった。
フェニアの後ろにはエルフの三人娘の姿もある。
「この店の魔道具の品質は確かですわ。アタクシが保証しますもの。身の丈に合わない魔道具に手を出すから失敗するのですわよ?」
「ぬぐぐ······言いたい放題言ってくれますね、フェニアさん······」
どうやらこの二人顔見知りらしいな。
サラーナと呼ばれた女生徒は悔しそうにしながらフェニアを睨んだ。
フェニアは気にした様子もなく涼しい顔だ。
「覚えておくのですよフェニアさん! 私だって特別クラスに入る実力はあるのですよ。必ずそれを証明して見せますわ!」
捨てゼリフのような言葉を残して女生徒は店から出ていった。
店員は申し訳なさそうにフェニアに頭を下げている。
口振りからしてあのサラーナって子は特別クラスに入れなかったことが納得いっていないのかな?
鑑定魔法で見た所、レベルは10でステータスはまあまあといった感じだった。
「あら?」
フェニアがオレ達に気付いてこちらに向かって歩いてきた。
「············何か御用ですかフェニアさん?」
ミールが少し警戒しながら口を開く。
エイミはあわあわとどうしたらいいかわからない感じだ。
ちなみにスミレはあまり関心なさそうだ。
「先日の件、謝罪致しますわ。ミールさん、エイミさん。本当ならもっと早く謝りたかったのですけど色々あって遅れてしまいましたわ」
「「え?」」
フェニアの言葉に心底意外そうな声を出す二人。
後ろの三人娘もフェニア同様に頭を下げた。
前までは二人のことをハーフエルフとしか言わなかったが今はちゃんと名前で呼んだ。
「······どういう風の吹きまわしですか?」
兄のフェルケンにも言ったセリフを今度はフェニアに向けるミール。
「あの方に会ってアタクシは自分の愚かしさを思い知ったのですのよ。やはり肝心なのはその人物の人柄であって種族や血筋、外見など大きな問題ではないということを!」
フェニアってこんなキャラだったっけ?
「あの方とは·········あの黒いマスクの男のことですか?」
「ええ、そうですわよ。ああ······正義の仮面様。あの方のおかげでアタクシは生まれ変わったのですわ! なんと素晴らしいお方なのでしょうか······」
フェニアがうっとりとした表情で言う。
三人娘達もフェニアに同意していた。
そしてエイミとミールはそんなフェニア達に少し、いや······かなり引いていた。
良い方向に考えが変わっているのはいいんだが、その原因が正義の仮面だと思うと複雑だ。
「············見た目はへんた······少々おかしな格好をした男でしたけど」
「あれはきっと考えがあってのものですわ。人を種族や外見で判断してはいけないと知らしめるためにあえてあのような姿をされているのですわ」
いや、そんな考えはない。
オレ自身にも何故あんなことをするのかわからないんだけど。
············なんでスミレまでフェニアに共感したように頷いているのかな?
「······なんかすごく変わっちゃってるよフェニア······」
「あのマスク男·········フェニアさんに魅了の魔法でも使ったのでしょうか?」
エイミとミールがひそひそと言う。
確かに魔法欄に魅了系の魔法も並んでいるので使えると思うが使った覚えはない。
二人に謝罪したフェニアは今度はオレの方に顔を向けた。
正義の仮面の正体に気付いたわけじゃないよな?
「こんにちはレイさん。同じクラスですがこうして話すのは初めてですわね」
フェニアがペコリと挨拶してきた。
「ああ······改めてオレはレイ。よろしく」
オレもそれにならって挨拶する。
「貴方が希少な薬を譲ってくださったおかげで父様の身体はすっかり治りましたわ。近い内に戦士として復帰できるようです。アタクシからもお礼を言わせてください」
ああ、フェルケンに特級ポーションを渡したことか。話しに聞いてはいたけどちゃんと効果があったみたいだな。
それにしてもこうして見ると普通に礼儀正しい子だな。
エイミとミールを嵌めようとしたのが信じられないくらいだ。
「父様も是非お礼をしたいそうなので今度ウチに来ていただけませんか? 第一地区の南にある屋敷ですわ」
フォマード家の本家はエルフの里という所にあるらしいが、ここ王都にも屋敷を持っているようだ。
さすがはエルフの大貴族といった所か。
「いや、フェルケンにも言ったけどお礼はいいよ。エイミとミールを種族を理由に敵視しないと約束してくれれば」
「まあ、フェルお兄さまも言っていましたけど失礼かもしれませんが本当に変わったお方ですわね。あの特級ポーションはフォマード家が総力をあげて探しても見つけることができなかった程希少な物なのですわよ? それなのに対価を求めないなんて······」
変わった人と言っているが悪意は感じない。
本心を言っているだけみたいだな。
「じゃあオレが特級ポーションを渡したことをあまり言いふらさないでくれるかな? 口止めも対価に含まれると思ってほしい」
「······わかりましたわ。フォマード家の名に誓って貴方の不利益になるようなことはしないと約束しますわ」
オレの言葉に少し戸惑っていたがフェニアはそう約束してくれた。
三人娘にもそう言い含めている。
「ではアタクシ達はこれで失礼いたしますわ。
フィレ、セレミ、レミーネ、行きますわよ」
「「「はい、フェニア様」」」
そう言ってフェニアは三人娘を連れて店から出ていった。
まあ正義の仮面が変なトラウマになっていないようでよかった。
「やはりレイさんがあの時フェルケンさんに渡した薬は特級ポーションだったのですね?」
フェニア達が去った後ミールがそう聞いてきた。
隠しても意味はないだろうし頷いておく。
「と、特級ポーションって貴族どころか王族でも簡単に手に入らない物のはずだよ······? レイ君どうやって手に入れたの?」
エイミが信じられないように言う。
その質問は適当にはぐらかしておいた。
別に教えてもいい気はするけど念の為ね。