91 変態無双(※)
※(注)変態男が登場します。
お見苦しい表現がありますので苦手な方はこの話は飛ばしてください。
(ミールside)
フェニアの魔法から姉さんを庇ったのは裸同然の格好をした謎だらけの男でした。
「な、な、な······なんですのあなたはっ!!?」
フェニアが驚き叫ぶように言います。
確かにワタシも同じセリフを言いたいです。
一体何者ですかこの男は?
そもそも不審者はこの学園には簡単には入れないはずです。
「私の名は正義の仮面。間違った思い込みで彼女達を嵌め、暴行を加えるとはとても見過ごせる行いではありません。私のお仕置きでその曲がった心を叩き直してあげましょう!」
男がそう名乗りました。
正義の仮面?
ただの変態にしか見えませんが。
「い、いきなり現れて何を言っていますの!?」
「事情はおおよそ把握しています。決闘で兄が敗れたことへの仕返しのつもりなのでしょう?」
どうやらこの男、この状況を理解しているようです。
············何故知っているのでしょうか?
「確かにフェルお兄様を反則で負かしたことは許せませんが、これはそれだけが理由ではありませんわ! そこのハーフエルフ達はエルフの里を混乱させた悪しき者の血を引く悪魔············アタクシはそんな悪魔を学園から追い出そうとしているだけですわ!」
············確かに父様はエルフの里で大変なことをしました。
あの優しかった父様が何故あんなことをしたのか············それはワタシにもわかりません。
「それはあくまで彼女達の父親の行いであり彼女達に非はない。あなたの言い分は理不尽なだけです」
「それは違いますわ、悪魔の血を引いているのですから何をするかわかったものじゃありません! 即刻追い出すべきなのですわ!」
言いたい放題言ってくれますね············。
ですが父様はそれだけのことをしたのも事実············フェルケンにも似たようなことを言われましたが。
「それこそが違います。親の罪はあくまで親が背負うべきものであり、親の罪で子が裁かれるなどあってはならないことです」
男は尚もフェニアに反論します。
ワタシ達のために言ってくれていることはわかりますが、このような格好をした人に味方されるのは············うれしいのかそうでないのか······複雑です。
姉さんも呆然と二人のやりとりを見ています。
「······言うだけ無駄みたいですわね。あなたのような変態とまともに話そうとしたのが間違いでしたわ! フィレ、セレミ、レミーネ! その男を捕らえなさい!」
「「「はいっ!」」」
言い合いをやめ、フェニアが三人娘に指示を出します。
この三人はレベル15とそれなりに強いです。
特別クラスにこそ入れませんでしたが三人がかりならそこらの暴漢でも倒せるでしょう。
三人が男を囲みます。
しかし裸同然の男に少し頬を赤らめています。
「そんな変質者に惑わされるんじゃありませんわよ! 三人で一気にたたみかけなさい!」
「「「は、はいっ!!」」」
フェニアの言葉に三人が応えます。
「ファイアボール!」
「エアーカッター!」
「アクアシュート!」
三人が同時に男に向けて魔法を放ちました。
「はっ!」
男が腕を思い切り振るいました。
ただそれだけで三人の魔法を弾き返してしまいました。
「きゃっ!?」「うぐっ!?」「あくっ!?」
自分の魔法をそのまま受けて三人が倒れました。
大きな怪我はないようです。
もしかしてこの男、三人を怪我させないように加減したのですか?
「そ、そんな······!? 三人を一瞬で······」
さすがのフェニアも狼狽えています。
「さあ次はあなたの番です。あなただけは私の特別なお仕置きを受けてもらいましょう」
「ひっ!?」
男の言葉にフェニアがビクッと反応します。
しかしすぐに気を取り直したようです。
「くっ······アタクシがその三人のように簡単にやれるとは思わないことですわ! あなたのような変態、この場で滅してやりますわよ!」
フェニアが魔力を集中させます。
「アースホールド!!」
フェニアが「土」の魔法を使いました。
床から硬い土が現れ、男に巻き付くように拘束します。
「ふん!」
しかし男はいとも簡単にその土を粉砕しました。
「なぁっ!? ······で、でしたらヘルフレア!!」
今度は「炎」の中級魔法を放ちました。
魔法は男に直撃しましたがまったく効いていません。
裸同然の格好だというのにまるでダメージがありません。
「それで終わりですかな?」
「ぐっ······だったら奥の手ですわ! 本当に死んでしまっても知りませんからね!」
そう言うとフェニアが魔力球をいくつも取り出しました。
姉さんに魔法を撃った時は3つくらいでしたが今度は10以上は持っています。
「これはアタクシのオリジナルの魔道具ですのよ! 数が多ければそれだけ魔法の威力が上がりますのよ! これだけの数を使えば通常の数倍にはなりますわ!」
それが本当なら凄まじいです······。
フェニアはエルフでありもともとの魔力も高めです。それが数倍になったら······。
「やってみなさい」
男はまったく動じた様子がありません。
それどころかフェニアを挑発しています。
「······っ、後悔しなさい! デスクリムゾンッ!!」
フェニアが「炎」の上級魔法を放ちました。
とてつもない熱量でワタシのところまで熱さが伝わってきます。
あんなものをまともに受ければ本当に死んでしまいますよ。
「ウォーター!」
男は「水」の初級魔法で反撃しました。
いくらなんでもそんな魔法で「炎」の上級魔法に対抗できるはず············。
そう思ったのですが男の放った「水」に触れた瞬間、フェニアの「炎」はかき消されました。
ありえない光景です。
「う、ウソですわ!? アタクシの魔法があんな初級魔法に······」
「今度はこちらの番です」
動揺するフェニアに男は一瞬で間合いを詰め、手に持っていた魔力球を奪いました。
動きが速すぎます。男の姿がまるで見えませんでした。
「あっ·······か、返しなさい!? アタクシの魔力球······」
「ほう? タマとはこれのことですかな?」
「·········え?」
動揺するフェニアに男が突き出すように下半身を向けました。
·········男の言っているタマとはもしかして······。
「いやあああーーっ!!? な、何を言っていますの!? そのタマではありませんわよ!!?」
フェニアがあわてて後ずさりします。
男はそんなフェニアに尚も近付いていきます。
「遠慮することはありません。さあ受け取りなさい!」
「ひっ······いや、いやですわっ············お願いですからやめ············」
······裸同然の男がジリジリとフェニアに迫っていきます。
フェニアは腰が抜けたのか、逃げるどころかうまく立つこともできないようです。
ワタシは直視出来ずに目をそらしました。
「いやああああーーっ!!!???」
しばらくしてフェニアの悲鳴が響き渡りました。
どうなったのか見るのが怖いです。
ワタシは視線をそちらに向けないように姉さんのもとにいきます。
「ね、ねえミール······あの人······何者なの?」
「そんなことワタシが知るわけないでしょう······」
姉さんも男の方に視線を向けられないようです。
もうフェニアの悲鳴も聞こえなくなりました。
············どうなったのでしょうか?
「さあお嬢さん方、もう安心です。彼女らは私のお仕置きですっかりおとなしくなりました」
いつの間にか男はワタシ達のすぐ後ろに立っていました。
突然すぐ近くに現れたらいくらワタシでも驚きます。
「二人とも自分に自信を持ちなさい。正しい心を持って行動すればいつか必ず報われる日が来ます」
格好はおかしな人ですがまともなことを言いますね······。
「あの······あなたは一体何者ですか?」
とりあえずワタシは男に問います。
「私は正義の仮面。正しい者の味方です。では私はこれで失礼します」
答えになっていない答えを言って男は去っていきました。結局なんだったのですかあの男は?
ワタシもあまりのことでうまく言葉が出ませんでした。
············そういえば姉さんがやけに静かですね?
「~~~っ」
横を見たら姉さんが気を失って倒れていました。
目の前に裸同然の男は姉さんには刺激が強すぎたようです。
フェニアも身体をピクピク痙攣させながら気絶しています。
結局あの男に何をされたのやら······。
今は考えないようにしましょう。
こんな姿を見せられたらフェニアに対する怒りなど吹き飛んでしまいました。
三人娘達も姉さんのように気を失っているようです。
············どうしましょうか?
このままにしておくのもあれですが、ワタシ一人ではどうしようもありません。
フェニアが張っていた結界も効果がなくなったようなので外に出て誰か呼んできましょう。
あの男のことをうまく説明できる自信はないので修練場を覗いたら彼女達が倒れていたと言っておきましょう。
ワタシは何も知りません。




