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10 女騎士リンの休日

(リンside)


 セーラ様が洗礼の儀式の準備のため、神殿に篭っているのでわたしはその間護衛の仕事はお休みとなった。

 儀式は約1ヶ月後になるのでずいぶん長い休みをもらってしまった。



 わたしは儀式の手伝いは出来ませんし、神殿内には多くの騎士がいますから、わたしが居てもやれることは少ないです。セーラ様と離れるのは不安ですけど仕方がありません。



 せっかくの休みですし町を回ることにしましょう。ここアルネージュの町に来るのは今日が初めてではありません。前に来たのは2~3年くらい前でしたか。

 ずいぶん前にこの町を襲った魔物の邪気の浄化作業を手伝うために来ていました。

 かなり強力な魔物だったらしく、倒した後も残った邪気によって土地が汚染され荒れ果ててしまった。



 まだ聖女の力を充分に発揮出来なかったセーラ様では完全浄化は不可能でした。

 特に第三地区と呼ばれる場所の被害が酷く、多くの死傷者が出ていました。

 親を失った孤児も多く、わたしは孤児達の世話をよくやっていました。


 わたし自身、孤児だった経験がありますからね。

 2年ぶりくらいですが、みんな元気でしょうか?



 せっかくだから会いに行くことにします。

 特に孤児院の院長さんにはわたしも色々とお世話になりましたし。

 体の弱い方でしたけど元気でいるでしょうか。そう考えわたしは第三地区に向かいます。



 第三地区の邪気は未だに消えていませんでした。以前に比べれば薄れてはいますが、完全に消えるまではまだ何年もかかりそうです。

 この辺りは治安が悪いとあまり評判は良くありません。しかしそれは皆生きるのに必死になっているからです。



 ただでさえアルネージュの町は食糧難に陥っています。魔物が増えたことによりこの町に来る商人が減ってしまったのが原因の一つです。

 邪気が残っているため自給自足は限られた場所でしか出来ません。

 今はまだ餓死者が出る程ではありませんがこのままでは時間の問題です。

 そうこう考えている内に孤児院に着きました。


「あ、リン姉ちゃん!」

「え、本当だーーっ」


 わたしに気付いて子供達が寄ってきます。

 久しぶりですが覚えていてくれたみたいです。


「あらリン、久しぶりですね」

「これは院長さん、お久しぶりです」


 院長もわたしに気付いて声をかけてきました。わたしも挨拶を返します。

 元気そう······ではありませんね······

 顔色が悪いように見えます。


「院長さん······体調が優れないんですか?」

「ふふ、気遣いありがとう、でも大丈夫ですよ」


 笑顔で返してくれるが大丈夫そうには見えません。元々体の弱い方でしたがここ最近になって急激に体調を崩してしまっていたらしいです。


「子供達の面倒はわたしが見ますから院長は休んでてください」

「そんな悪いわよ、神殿の仕事だってあるのでしょう?」

「休みをもらってますから大丈夫です」


 まったく······体調が悪いのに子供達のことを優先するなんて相変わらずの人です。

 ここは強引にでも休んでもらいましょう。

 幸い、時間はありますからね。

 初めて見る子も何人かいますが、ほとんどは以前にも面倒を見てた子供達です。

 世話をするくらい問題ありません。


 2年以上の月日はこの子達を成長させたのですね。以前は手のかかった子もすっかり大人のようになっていて驚きました。





 そんな感じで二週間が経ちました。

 やはり食料が問題ですね。

 神殿の支給品を持ってきていますがやはり足りません。皆、お腹をすかせています。


 せめて邪気をどうにか出来れば食料の自給自足も可能になるのですが······

 と考えていると外に出ていた子供達が慌ただしく戻ってきました。


「すげえよ! 向こうに楽園が出来てた」


 興奮して子供達が言います。楽園?

 どういうことでしょうか。

 子供達に案内されて行ってみると本当に楽園がありました。ここは邪気に汚染されていたはずです。

 しかし邪気はすっかり消えていて、見たことのないような果実の成った木がたくさん植えられています。


 あっちの方は畑でしょうか?

 色とりどりの野菜が姿を見せています。

 畑の横には貴族、それも大貴族が住んでいるのではと思われる立派な屋敷が建てられていました。

 屋敷の更に横にある建物はなんでしょうか?



 それはともかく一体何が起きたのですかこれは!? とても二週間前には何もなかったとは思えません。


「ねえ、あの木の実······」

「おいしそう······」


 子供達がゴクリと喉を鳴らします。


「待ちなさいっ、誰のものかわからないんです! 勝手に取ってはいけません!」


 わたしは慌てて子供達に言います。

 もしここが大貴族の土地だった場合、大貴族の所有するものを盗れば重罪です。

 下手をすればその場で処断されます。

 まずは屋敷を訪ね交渉を······


「リン姉ちゃんっ、大変だ! ママが、ママが倒れた!」

「な、なんですって!? すぐに行きます! みんな、ここの物を勝手に取っては駄目ですからねっ」


 すぐにわたしは孤児院に戻りました。

 院長は子供達が運んだらしく布団を掛けられて眠っていました。



 医者に見てもらった結果、身体が邪気に汚染されていました。

 それも末期との話です。

 邪気は土地だけでなく人も汚染されます。

 実際この土地では院長だけでなく何人もの人が邪気によって命を落としています。



 邪気に汚染された身体を治すには普通の薬では効果はなく、邪気を祓う「聖」魔法か、どんな病気も治す万能薬が必要です。

 しかし、ここまで邪気に冒されているとなると聖女クラスの「聖」魔法か上級、もしくは特級の万能薬でなければ無理でしょう。


 セーラ様は儀式の前なので連れてこれません。それにまだ正式な聖女になられていないので、これ程の邪気を祓うことは出来ないかもしれません。かといって万能薬の方も厳しい。

 どんな病気にも効果のある万能薬ですが、ランク分けがあります。



〈下級〉

効果が薄く、完全に治すには時間がかかる。



〈中級〉

下級よりは効果は高いが、病気の種類によっては効果が薄い。



〈上級〉

大抵の病気は完治する。しかし稀に効果の薄い病気もある。



〈特級〉

すべての病気を完治させる最上級の薬。



 院長の様子を見る限り、下級や中級では治せないでしょう。しかし、上級や特級となると希少でそう簡単には手に入りません。

 王族御用達の薬師でも上級万能薬を作るのは難しいとのこと。

 特級にいたってはダンジョンの奥深くか、古代の遺跡などで稀に見つかるもので作るのは現状不可能だそうです。


 神殿にも上級万能薬のストックがあったかどうか······しかしこのままでは院長が死んでしまいます。

 どうしたらいいかと必死に考えていた時、部屋の扉が勢いよく開きました。


「ママーーッ!」

「リン姉ちゃんっ、ママは!?」


 部屋に入って来たのは子供達の中でも年長組のリュウとリエッタでした。

 二人とも院長を助けようと動いていたようです。ちなみにわたしは男性は嫌いですがリュウくらいの年の子ならそれなりに平気です。

 リュウは良い子ですしね。



 それよりも話を聞くと二人はあの楽園と呼んでいた場所にある屋敷を訪ね、食料を分けてもらったとのこと。

 勝手にそんなことを、と思いましたが二人とも必死だったのでしょう。

 そんなことよりあの屋敷に住んでいる方が直接食料を持って来てくれたと。

 一体どんな人物が······と身構えていると丁度その人達が入ってきました。


「あ、あなた達は!?」


 思わず声をあげてしまいました。

 何故なら知っている方達だったからです。




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