春のアルバム
いつかの春を思い出したり、自然の恵みを感じたりしながら書きためた詩の小品集です。
1. ハクモクレン
ハクモクレンの花が咲く、
蛹が蝶になるように。
眼を醒したばかりの君を、
小鳥の目線で見てみたい。
2. オトメツバキ
わたしがここへ来るたびに、
ひい、ふう、みい、よ、と
花ひらく。
わたしがここへ来るたびに、
ひい、ふう、みい、よ、と
朽ちてゆき、
わたしがここへ来るたびに、
ひい、ふう、みい、よ、と
またひらく。
わたしはここへ来るたびに、
ひい、ふう、みい、よ、と
としをとる。
3. ビール
日々の小さきかなしみよ、
ビールの小さき泡となれ。
宝石のようにきらきらと、
自由になって消えてゆけ。
4. 船
船が橋を潜ります
虹を連れて水尾ひいて
遠くに汽笛を聴きながら
ひと時の日陰を見送ります
5. 花見
電車の中でとなり合っているひと
長椅子の端に腰掛け携帯を眺める
おんなのひと
扉に寄りかかり携帯を眺める
おとこのひと
駅のちょっと手前になった
「次だから」とおんなのひとが
おとこのひとの背中をつついた
「ああ」とおとこのひとが
おんなのひとを一瞥した
駅に着いた
おんなのひとは弁当を
おとこのひとは水筒を
鞄の中に忍ばせていた
平成最後の春のこと
6. 惜春
花が咲く、花が咲く
あたたかな日差しを受けて
幾年続く理に
変わりゆく人は
瞳を閉じて振り返るだろう
もう戻れない春を
花が舞う、花が舞う
やわらかな風に乗って
幾年絶えぬせせらぎに
過ぎ去りし季節は
身を任せ還りゆくだろう
また巡り来る春へ
写真:オトメツバキ 撮影:高石すず音