train train train
上下左右に体が揺れる。
それは一定のリズムで刻まれていた。
目を開けると
窓の外に広がる景色が目に映る。
広大な湖面、目を放したらすぐに沈んでしまいそうな太陽。
しかし、湖面に反射され丸のままの太陽。
自分は電車の中にいる。
ふかふかな紅いシート、木製の時代を感じる電車。
普通の電車と違うのはドアがないことと、つり革が無いことくらいだろう。
湖面をすべるように走り、左右の車両も揺れている。
沈みそうで沈まない太陽を見ながら思い出す。
自分は死んだ。
確か、工事現場の上から鉄骨が落ちてきた。
痛い?
―痛くは無かった
怖い?
―怖くも無かった
助けてほしい?
―助けて ほしかったのかもしれない。
生きたかった?
―そうかもしれない。
今考えても仕方ない。
仕方ないということにしよう。
短い人生を振り返る。
大きな父の手
優しい暖かい母
楽しかった兄弟
あとは…なんだったけ…
もう一度太陽。夕日をみる。
すべてのことがあれに吸い込まれそうだ。
もしかしたら、この電車が止まるとき。
自分はまた生きれるかもしれない。
新しい自分と向き合い。
新しい時代で、新しい人と、環境とで生きていくのかも知れない。
そのときは確かに前の自分の記憶は邪魔。
電車は止まることなく走り続けている。
上下左右一定のリズムは変わらず。
自分を乗せて湖面をすべる。
顔をあげる。
夕日を見つめ、遠目でみる。
自分の名前がすでに思い出せなくなっていた。
end
20080312