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6話 やらかした!?

 シャロンの先行隊が洞窟に入って半刻、戻ってきたレーリアは私に来ても大丈夫と手を差し伸べてくれた。 洞窟の中は緩い下り坂で、潮の匂いを含んだひんやりとした空気が奥から流れてくる。 ゴツゴツとした足場は苔が付着し、数歩歩くたびに足を取られそうになる。 それでも素人の私が進めているのは、先行隊が危険な場所に待機し、私の足場を松明で照らしてくれていたからだ。 グラディオンらギガース族ならともかく、シャロンらケンタウルス族の蹄ではこの足場は辛い筈。 なのに軽やかに動けるのは、彼女達は場数の踏んだ兵士なんだなと思う。


 「左側はもろくなっているようです、気を付けて下さい 」


 一段下がった所からシャロンが手を差し伸べてくれた。 その手を取って下に降り、掲げてくれた松明の明かりの先に目を細めると、最近落盤したと思われる瓦礫がうっすらと見えた。 


 「ここから先は洞窟が急激に狭くなっています。 体格の大きい第二遠征隊では身動きが取りにくいかもしれませんので、彼等にはここで待機させようと思いますがよろしいですか? 」


 「え…… と、任せます。 獣臭もこの先からしてますね 」


 「はい。 ということは化石魔獣だった場合、もう既に孵化しているということになります。 様子を見てきますので少し待っていて下さい 」


 シャロンはグラディオンに私の護衛を任せ、シャロン達は瓦礫によって狭くなった洞窟の奥へ進んでいった。


 「リーサ様、少しよろしいですか? 」


 グラディオンが洞窟の先に目線を向けたまま私を呼ぶ。


 「この匂い、どこかで嗅いだことありませんか? 」


 「…… この獣臭、ですか? 」


 クンクンと鼻を利かせると、確かにどこかで嗅いだことのある匂い。 どこだっけ……


 「…… お姉さま? かな…… 」


 いや、絶対違う! お姉さまは獣臭なんかする筈がない。 でもなんでだろう、考えた時にお姉さまの顔が真っ先に出てきた。


 「失礼ながら、自分も女王様のお顔が浮かびました。 ですが女王様はアマリリスの微香…… なぜでしょう? 」


 グラディオンの言う通り、何故だかお姉さまが頭から離れない。 お姉さま…… エーリス…… 宮殿?


 「ぽち(・・)! 」


 そうだ、この獣臭はお姉さまがぽち(・・)と遊んだ後によく残っていた匂いだ。


 「ケルベロス! そうです! やっと思い出しました! 」


 私はグラディオンと顔を合わせる。 もしこの奥にケルベロスが孵化していたとなると、シャロン達では到底敵う相手じゃない!


 「シャロ…… むぐ! 」


 洞窟の奥に向かって叫ぼうとしたのを、グラディオンの大きな手が私の口を塞いだ。


 「大声はなりませんリーサ様! 下手にケルベロスを刺激してしまいます! 」


 顔全体を覆ってしまいそうなグラディオンの手の上から、私は自分の手を重ねた。 コクコクと何回か頷くと、グラディオンは失礼いたしましたと優しく手を離してくれる。


 「でもシャロン達が! 」


 「大丈夫です。 シャロン様がケルベロスに気付いているかは分かりませんが、無暗に相手を刺激するような方ではありません。 ですが獣臭がしているということは、既に卵の状態ではないということ。 リーサ様、危険を承知でお願いがございます 」


 私はすぐに頷いた。 グラディオンから松明を受け取り、出来るだけ足音を立てないように洞窟の先へと急いだ。


 「リーサ様、まだ…… 」


 最後尾を務めていたレーリアを捕まえた。 唇の前に人差し指を立ててジェスチャーすると、すぐにレーリアの顔が引き締まる。 事情を説明すると、レーリアはすぐさま先頭のシャロンの元に駆けて行き、前方に松明の光が集まっていった。 私も遅れないようにその輪に混ざろうと走ったその時だった。 足元がヌルっとして派手に転ぶ。


 「んきゃっ!! 」


  んきゃ……  んきゃ……  んきゃ……


 洞窟内に反響する自分の悲鳴に背筋が凍り付いた。 ドジっ子じゃないと思ってたけど、完全にやらかした。 洞窟の奥から何かが膨れてくる気配を感じる。 離れているシャロン達が息を飲むのが分かる。 


 「ご…… ごめんなさ…… 」


 「撤退する!! 皆急げ! 」


 シャロンが大声で命令を出した。 足場の悪さをものともせず、レーリアを先頭に狭い通路を一気に駆け上る。


  グオォォ……


 最後尾のシャロンに拾われて皆の後を追う私の背後から響く、お腹の底をえぐられるような咆哮。


 「ごめんなさい! 」


 「どのみちケルベロス相手では全滅必至です! よく気付いてくれました! 」


 咆哮の振動でパラパラと天井から岩の破片が落ちてくる。 落盤した狭い通路を抜けた途端、背後でズンと重たいものが洞窟の壁に激突した衝撃音が響いた。


 「ケルベロスが出てくるぞ! 退避だグラディオン! 」


 第二遠征隊は最後尾の私達を援護するように周囲を囲み、そのまま洞窟の入り口まで後退する。


 「左右に散開! ブレスが来るぞ! 」


 シャロンの言葉に、洞窟を出た所で部隊が二手に分かれた直後、洞窟の入り口からビームのような炎のブレスが噴き出た。


 「きゃわぁー!! 」


 思わず情けない声が出る。 私、火炎ブレスは超苦手なんです!


 「洞窟から奴を出すな! マリアの村に近づけぬよう踏ん張れ! 」


 散開していた特務隊が森の木々を縫って走り寄り、数人が束になって洞窟入り口の左右に展開し武器を構えた。 その盾になるように第二遠征隊が前衛に出て壁を作る。 私とシャロンは洞窟正面の少し遠い所を陣取った。 空は森の木々で見えないけど、きっとレグルスの航空隊が一面に展開している。


  ゴァアア……


 ケルベロスの唸り声が聞こえたと同時に、洞窟入り口に太い前脚が出てきた。 そこを狙って右舷の特務隊が攻撃を仕掛ける。


 「深追いはするな! 本土からの応援が到着するまで耐えられればいい! 」


 前脚のくるぶしを一点集中し、ケルベロスがひるんで足を引っ込めると離脱する。 それを前脚が洞窟から覗くごとに繰り返し、ダメージを与えられないまでも上手く足止めをしていた。


 「凄い! ケルベロス相手に戦えてる! 」


 「孵化してからまだ間もないのでしょう。 本覚醒されてしまえばこんな攻撃では抑えられません 」


 シャロンの顔には焦りが見えた。 本土の応援とは言ったけど、それがいつ来るのかは分からない。 ハーデス様のぽち(・・)を見れば分かるように、ケルベロスは500のミノタウロス一軍に匹敵するくらい強い。 ケルベロスが本覚醒してしまえば私達などひとたまりもない…… 時間の問題だった。


  旦那様! 旦那様ならこんな時どう対処しますか!?


 


  

 

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