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1話 不穏な気配

 「旦那様、旦那様ー! 」


 皆様お久しぶりです、リーサです。 私は今、旦那様を探して走り回っています。 なんでかって? それはそれはお慕いしていますから。 じゃなくて、本土エーリスから旦那様宛に緊急の書状が届いたのです。


 「旦那様ー! …… もう、忙しい方なんだから 」


 旦那様がハーデス様に負けて、エーリュシオンの正式な管理者になってから約一年が経ちました。 自己中ハーピー〈オーランド〉によって廃れてしまったこの島は、旦那様の努力で少しずつではあるものの確実に回復へと向かってます。 住人達には笑顔が増え、ここ港町にも定住する者が多くなりました。 それにつれて旦那様も忙しく駆け回り…… まぁ、駆け回っていたのは以前も変わらず、なんですが。


 連絡兵のハーピーから書状を受け取り、すぐに役所に駆けていったが会えず。


 「主様? 今日は顔見てませんよ 」


 受付カウンターで書類整理をしていたユーリに聞くが分からず。


 「ふぇ? ヒロユキ君? さぁ…… 」


 非番で役所二階の部屋の掃除をしていたカンナに聞いても知らないと言う。 港エリアのお屋敷にもいなかったし……


 あ! 港エリアの桟橋に程近い、本土エーリスが見渡せる一角に旦那様のお屋敷が出来たんですよ。 旦那様はそんな大層なものはいらないと反対していましたが、自己中ハーピーの趣味の悪い家にいつまでも住んで頂く訳にはいかなかったので。 お姉さまに相談すると、それは良いと旦那様に内緒で一個師団を呼び寄せ、一週間で小さいながらも素晴らしいお屋敷を立ててもらいました。 ついでに老朽化した倉庫も一新し、露天にキャンプだった常駐兵士の宿舎も作ってもらいました。 桟橋も改築して大型船も着岸できるようになったんです。


 そうそう、忘れてならない旦那様の偉業があるのです。 それは……


 「おや、リーサ様。 どうされました? 」


 橋の袂の植木鉢に水やりをしていたシャロンが、港エリアに戻ってきた私に気付いて声を掛けてくれた。


 この植木鉢、この港エリアと居住エリアを結ぶ橋が出来た時から、シャロン率いるエーリス軍特務隊が少しでも景観が良くなるようにと毎日お世話をしているものです。 特務隊といえばお姉さま直属で、身辺警護や敵陣への切り込みといった武力に特化した部隊なんですが、女性だけの部隊とあってこういうことにも気が利くんです。 流石です。


 「旦那様を見かけませんでした? 本土から書状が届いてるんだけど、探しても見つからなくて 」


 「いえ、私は存じ上げませんが。 お屋敷から出られておられないのでは? 」


 シャロンは部下を呼び寄せて旦那様を見たか? と話すが、部下達はみんな首を横に振った。 彼女達は昼夜問わず交代で警備を行っているので、旦那様がお出かけになられれば必ずお目にかかる筈と言う。


 確かに旦那様は気さくな方だから、どんなに地位が低い者にも警備ご苦労様とか必ず声を掛ける筈。 じゃあお屋敷のどこに?


 「まさか連れ去られた!? 」


 眉をひそめるシャロンに緊張が走る。 


 「…… あの女狐女神! 」


 愛と美の女神アフロディーテ…… 様。 私の嫌いな天界の神様です。 神以上の存在ならば、場所を選ばず転送ゲートを展開できるのです。 屋敷のどこを探しても見つからないのだとすると、それを使った可能性が高い。


 慌てて旦那様の屋敷へと向かうと、メイドの彼女がグリフォンの翼にブラシをかけているところだった。


 「アフロディーテ様って、今朝来てた? 」


 ― いらっしゃってましたよ  ご機嫌でした ―


 メイドの彼女は素早く書いたメモ紙を両手で丁寧に見せてくれる。 相変わらずうらやましいくらい達筆な字です。


 「もしかして旦那様も一緒? 」


 ― 無理やり感たっぷりでしたが、アフロディーテ様に連れられてお出かけになりました ―


 「もう! なんで止めてくれなかったのよ!! 」


 なんとなく心当たりはあった。 お姉さまの体を乗っ取り、幾多の神々を騒動に巻き込んだアフロディーテ様は、全能神ゼウス様の審判を受けて無期限で神の力を制限されることになったものの、転送ゲートは自由に使えていたからだ。 アフロディーテ様の悪事を暴いたのは旦那様…… てっきり恨んでいるのかと思えば、どうやら逆に興味を持ったらしい。


 お姉さまの留守を狙って度々旦那様を訪ねて来てはいたのですが、無断で旦那様を連れ出すとは。 ホイホイついていく旦那様も警戒心無さすぎです! 


 ― すぐ戻るからと旦那様が仰るものですから  申し訳ありません ―


 「…… あなたに当たっても仕方ないんだけどね。 でも、これは困った 」


 すぐ戻るといっても、アフロディーテ様の事だから簡単には開放してくれないでしょう。 命を奪うような力は今はないし、旦那様が簡単にやられる筈はないので心配はしていないけど、これでは書状を渡せない。 転送先はおそらく天界だから私では連絡の取りようがない。 お姉さまも本土からまだ戻ってこないし……


 「御無事ですか旦那様!! 」


 悩んでいると、突然門を破壊して騎馬隊がなだれ込んできた。 その音にびっくりしたグリフォンは咄嗟に掴まったメイドの彼女ごと大空へ消えていく。 飛び込んできたシャロンの特務隊は完全武装で、見事な陣形でお屋敷を包囲していく。


 「ちょっ!? 」


 シャロン達の後ろには、やはり完全武装したギガース族のアグリオス率いるエーリス軍第二遠征隊。


 「旦那様! 旦那様ぁ!! 」


 一心不乱に叫ぶアグリオス。 まさかと思い空を見上げると、新しくエーリュシオンに配属になったハーピーのレグルス率いる第五航空隊が旋回していた。 気が付けば特務隊はお屋敷に突入してるし、第二遠征隊は包囲網を強化していた。 忠誠があるのはいいけど、みんな気が高ぶってて収まりがつかなくなってる…… 私は大きく息を吸って胸の前で手を祈るように組む。


 「こらーーー!! 」


 精神に直接干渉する私の大声に兵達は耳を押さえてうずくまる。 地面をのたうちまわり、航空隊が次々に地面に落ちてきた。 ちょっと荒療治だけど、腕力では敵わない私達セイレーンのとっておき(・・・・・)です!


 「何をするのだリーサ殿! 旦那様の一大事なのだぞ!! 」


 耳を押さえてフラフラしながらもアグリオスは私の前に立ちはだかる。 本気で力を使ったのに、耐える体力と精神力はさすがギガース族です。


 「旦那様ならもういらっしゃいませんし心配無用です。 私が保証します。 それよりも部下を退かせて下さい、お屋敷の修理もお忘れなく 」


 「承知しました! 」


 派手に吹き飛んだ門にボロボロになった塀。 これじゃ旦那様がお戻りになった時に心配するじゃない。 散らかった屋敷内はメイドの彼女に任せるとして…… 私は手にしていた書状を見つめる。


 「どうしよう、これ 」




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