涙と雨のデラックスワンダーランド
灰色の雲の隙間から次々と降り注ぐ雨。
既にTシャツはずぶ濡れだ。でも、不快感はない。
目をつむり、空を見上げる。顔に落ちる雨粒が頬を伝い顎からこぼれ落ちる。
ふと、雨ではない温かな液体も自分の頬を流れていくのがわかった。
俺は、泣いているのか。
あんな事があった後だ。このまま雨という自然の力に任せて嫌な事も綺麗に流してしまおう。
涙と雨が混ざり合い、ぬるくなった液体が頬を伝う。
いっそ魚になってしまいたい。魚なら、どれだけ涙を流しても目が腫れることはなく、涙を流す姿を人に見られる事もない。
こんな窮屈な世界では、涙の一つも自由に流せない。
通りに面した路上には俺一人。雨のせいか人通りはない。
雨に薄まった涙が排水溝へ流れ、川に入り、大海原へ届く頃には、この鬱陶しい不快感も消えてなくなっているだろうか。
いや、忘れてはいけない。
自分のせいだと、自分がやってしまったのだと、後悔する気持ちがあるのなら、気持ちの整理ができたとしても頭の片隅に置いて置こう。
丁度いい。
この雨が、この涙が、強烈な記憶を残してくれる。
気がすむまで雨に身を任せよう......
ーー二万負けたのだ。
そんなに熱くなるような劇的なギャンブルをしたわけでもなく、ただ淡々と流れる水のように二万円が俺の財布から流れていった。
雨で全てを流して欲しいとついさっき思ったばかりだが、あの時の俺はなけなしの二万円も流されるとは思わなかった。
大洪水だ。自然災害だ。
フラフラとした足取りでデラックスワンダーランドの自動扉を開けたら、雨が降っていたから、半ばヤケクソで走って帰ろうと思った。
しかし、自然の力は強大だ。
駅へ向かう道の途中で、今年一番の豪雨がトラップカードのごとく俺の足を止めさせた。
降参。
自然の脅威に向かって、両手を上げるポーズをとる。
雨は激しさを増すばかりで、一向に俺を許してくれる気配はない。
許してもらうような事をした覚えもないが。
まあ、天から戒めを受けているのだと思わなければ、この状況はあまりにも酷すぎる。
俺はびしょ濡れの体で来た道を戻り始めた。
デラックスワンダーランド。
直訳すると、『高級なおとぎの国』
確かに。店長のネーミングセンスに多大なる才能と美学を感じる。
俺の二万円はおとぎの国へ迷い込んで、いつのまにか消えて無くなってしまったのだろう。
めでたし、めでたし。