1話「終雨」
義母の葬式は案外早く終わった。義父はまだ親戚に挨拶している。外に出ると終雨がぱらぱらと振りだした。その雨は僕の心に少しずつ、少しずつ染み込んで、心がぎゅっと締め付けられた。
「お母さん…」
亡くなったのは義母なのになぜか、僕を置いてどこかへ行ってしまったお母さんを思い出した。雨が酷くなってきたので、中に入ろとした時。電柱の裏に淡いクリーム色のワンピースを着た女の子がいた。
「……?」
その時の僕はその子を気にも留めずに中に入り、義母さんの葬式に参加した。
義母はお母さんに置いていかれた僕を引き取って、義父と一緒に育ててくれた。正直義母と義父は苦手だった。決して感謝してないわけではないけど、引き取ってもデメリットしかない僕を成人するまで育ててくれた2人が何を考えているか分からなかった。
「愛永、今日はあんたの好きな麻婆豆腐だよ」
僕には別の名前があったが引き取った際に義母が新しく付けてくれた。永遠の愛で”愛永”。素敵だと思う。嬉しそうに僕に話しかける義母をその時僕は、適当に流して自分の部屋に篭っていた。そんな毎日がずっと続いていたし、これからもそうだと思っていた。でも、突然義母は亡くなった。
葬式の際涙は出なかった。義母が火葬される時も。
義母の葬式が終わって一週間が経とうとしていた時、僕は週刊誌を買いにコンビニへ出向いた。しばらく曇りが続いていたが、今日は少し雨が降っていた。そこで義母の葬式で見た、ワンピースの女の子を見かけた。あの時と同じで1人で電柱の後ろで立っている。僕は少し考えてから、その子に声をかけた
「…君何してるの?お母さんとお父さんは?」
女の子がこんなところに1人は何かおかしい。警戒されないようになるべく優しく話しかけた。
「………なぃ」
「…ん?なんて?」
「…わかんない」
わからないとはどういうことなのだろう、どこかへ出かけていてはぐれたのならわかるだろうし、家出してきた様子でもない。交番に連れて行くべきだと思った僕は、コンビニへ行くのをやめてその子を交番に送り届けることにした。
「お母さんとお父さんきっと君のことをさがしてるよ? お兄ちゃんと一緒にお巡りさんのとこ行こ?」
「…わかった」
「君…お名前は?」
「…名前は、さゆき」
「…え?」
「え?」
「いや、なんでもないよ。さゆきちゃんだね」
これはただの偶然だ。お母さんと名前が一緒だからって気にし過ぎだぞ僕。さゆきなんて名前は日本中にたくさんいる。この前からなんだかおかしいぞ、やけにお母さんのことを思い出す。
今は考えても無駄か。
「行こっか!」
「うん…!」
交番に向かう道。降り続ける雨はこれから起こることの前触れだったのかもしれない。