後日談
その後ーーーー
ギディアは共和国の武力の象徴として、永く衛士長を務めた。
浩一との間に子をもうける企みは頓挫し、それを諦めた後はホークに狙いを定めてカーラと争奪戦を繰り広げる事になる。
ロザリンドは共和国の知恵袋として政治の中枢に座る事となった。
その私欲とは無縁の治世は絶賛され、私塾に生徒の尽きる事は無かった。
政界から引退した後も、政治家達の多くがアドバイスを求めてゼルガの森の屋敷に詣でたという。
ナナミは風来坊の素質を開眼し、定住する事なく国内を放浪した。
その中でも特にリコリスの居場所には頻繁に顔を出し、量産勇者達の世話を手伝ったという。
シャルロットは元北の魔王として、議会の議長として権勢を振るった。
ギディアが子作りを諦め、イシリスが東に帰ると嬉々として「浩一の正妻」を名乗った。
側近ら自意識を持つ配下の支配を解いて自由に振舞う事を許したが、殆どの者はそのまま配下として残ったという。
ルカミラは共和国の軍事顧問に就いた。
彼女が手ずから鍛え上げた騎士団は、かつての騎士王国の姿を彷彿とさせた。
ギディアの師匠兼ライバル兼親友として付き合いを持ち、ギディアが老衰で亡くなった際には涙を流したという。
オリアナはロザリンドを補佐して内政に務めた。
不死者たるリッチの施政は代替わりによる劣化もなく、永く共和国に繁栄をもたらした。
趣味の魔法開発は数々の『生活魔法』と呼ばれる便利系魔法を生み出し、後世において「近代魔法の母」と呼ばれる事になる。
ハクガは常に浩一の側に侍り、その世話を務めた。
浩一が元の世界から「手袋」を持って来た事で日常生活の殆どに『介護』は不要となったが、料理番の座は生涯誰にも譲る事はなかった。
周囲から密かに「真の正妻」と言われていた事は、言うまでもない。
イシリスは共和国の領土拡大に伴い、東方地方の領主としてかつて己が支配していた地域の治世を任される事となった。
城に戻った際には、領民達から歓呼で迎えられたという。
その気質と治世は子に孫に受け継がれ、東方地方は永く平穏を保つ事になる。
ホークは帝国を共和国と併合し、人間族の代表として共和国議会の議員になった。
人間族の守護者として奮闘、「モンスターを迫害していた人間族」という評価を払拭し、人間とモンスターとの架け橋となり続けた。
リコリスは共和国内に一部地域を割譲され、量産勇者達と共にそこで余生を送った。
共和国の通常兵力では対処不可能な難敵が現れた際などには、首脳部からの要請を受けて駆け付け、“勇者”としての力を存分に見せつけたという。
セレスは浩一が元の世界に一時帰還した際に守護天使契約が切れ、天界へと帰って行った。
後に浩一が戻ってきたと知ると神の意志を経ずに地上に降臨、堕天使化してまで浩一との再契約を望んだという。
グラニカことグラニボルクは、浩一の帰還と時期を同じくして眠りについた。
グラトニア山の火口に潜る際に「この分なら、暫くは目覚める必要もあるまい」と言ったというが、定かではない。
そしてーーーー
メルゼルブルク城の上空に現れた、六対十二枚の蝙蝠の羽を持つ禍々しい全身甲冑の男は、己を『空の魔神ガルグェスト』と名乗った。
同じような姿の、空を染めんばかりの手勢は十万は下るまい。
「海の魔神ダルガストを殺ったというのは貴様か!我が奴より優れているという証明のため、下界滅亡の第一歩を示すため、貴様には死んでもらうぞ!」
『魔王エンド』と呼ばれた男は、初対面で貴様呼ばわりする魔神に腹を立てることもなく、笑顔で応対する。
「そんなことよりさ、地上で俺らと共に生活する気はないか?結構な数の人口が失われちゃってね、人手が欲しいんだけど」
「貴様、魔神とその眷属を愚弄するか!」
「後ろの人達も同意見?リーダーが死んだら考えてもらえるかね?」
「ふ、ふざけるなっ!」
ガルグェストが虚空から取り出した槍を投げた。
魔力を帯びた槍は、命中すれば山をも吹き飛ばす威力を発揮するーーーー
ーーーーはずだった。
槍は浩一の肩口に当たって魔力を放出するも、プロテクターに傷の一つも付けることなく地に落ちた。
浩一の目が座る。
上空という安全地帯にいるガルグェストは、しかし不安と恐怖に震え上がった。
「あぁ、やっぱりアレか。『服従か死か』って奴?いや、確かダルガストの奴は『服従しても死』だったっけ」
浩一は懐から拳銃を取り出した。
エアガンだが、改造を施した上に弾はBB弾ではなくボールベアリングだ。
「とりあえずアンタを殺したら、他の人達にも意見を聞いてみるよ。話して分かる人も居るかも知れないしな」
「い、今のを我の最強の攻撃だなどと思うなよ!次こそは消し炭にしてくれる!」
「はいはい。殺すつもりで来てるんだ、殺される覚悟もあるよな?じゃ、サヨナラ」
浩一は冷たく言い放つと、引き金を引いた。




