雪山行
リコリスとナナミをゼルガ共和国に帰し、代わりにシャルロットを加えたパーティは、北壁山脈を抜けて『“現”北の魔王』クヴァルカンの領域に入るべく進んでいた。
「よくルカミラやオリアナが姫さん単独の外出を認めたな」
防寒服でダルマになったギディアが、シャルロットに問う。
辺りは既に万年雪に覆われた極寒の山道だ。
言葉と共に吐き出される息も白く染まる。
「あやつらもそなたらを認めている、という事であろ」
シャルロットはいつもの純白のドレスで平然と歩んでいる。
息も白くはない。
アンデッドたるバンパイヤなので当然といえば当然なのだが、違和感は否めない。
違和感といえばーーーー
「お前さんはその格好で平気なのかい?見てるこっちが寒くなるんだがね」
「ちょっと涼しいかな?てレベルだけどな。……そんなに寒いか?」
「獣人族は……寒さには強いので……私は……平気です」
魔法で身体の周辺を温めているロザリンドに訊かれた浩一の格好は、こちらもいつものパーカーとカーゴパンツだ。
アンデッドではない証拠に吐く息は白いが、かえってそれが服装の違和感を助長している。
浩一に振られたハクガもまた普段着のままだ。
獣人族は種族特性として冷気に耐性を持っており、特に『白狼』はそれが強化され、無効化するレベルに近い。
結局「普段と違う格好なのはギディア一人」という、端から見ると奇妙としか言えない一行だった。
先頭は周辺の地理に明るいシャルロット、次にギディア、ロザリンドとハクガを挟んで殿が浩一という布陣のパーティは、道中何度か野生のモンスターに襲われはしたものの、さしたる苦もなく撃退して北壁山脈の頂を越えた。
一部のモンスターはハクガによって捌かれて食糧に化け、携行する保存食の浪費を抑えてくれた。
が、その作業工程を見物していた浩一が
「怪物料理の名コック〜♪」
などと小声で歌っていた事には、誰も触れなかった。
下山の途中、突然ハクガが立ち止まった。
クンクンと辺りの匂いを嗅ぐ。
何事かと様子を伺う面々をよそに、匂いの発生方向を突き止めたハクガは、下山ルートを逸れて駆け出した。
数百メートル走ってから唐突に立ち止まった彼女が、追い付いて来た仲間達に指し示したのは、雪とは違った白だった。
白い絹衣。
血色を失い、雪に同化しそうな肌。
人間のようで、明らかに違う背中の白い羽。
白くないのは頭上の金環と同色の髪、それとーーーー
ーーーー身体の下から雪を侵食する赤、だけだった。




