影に潜む者
典麗華美な帝都にも、暗部というものは存在する。
スラム街の一画、野良犬さえも近寄らない廃屋は、その最たるものであった。
元は大商人の邸宅であったその家の広間に、蹲るように平伏す一団がいた。
ギディアにのされたチンピラ達だ。
彼等の前には、四人の人影が椅子に座っている。
その内の一人が口を開いた。
瘦せぎすの男だ。
細目の三白眼が、神経質そうな印象を与える。
「それで?手前ぇらはそのデカ女にいわされてスゴスゴ退散して来た、という訳か?」
「は……はぃ……」
チンピラの返答は消え入りそうなほど、小さい。
「アンタ達があの路地裏でノックアウトされてたせいで、今日の取引は中〜止。相手には警戒されたわ。『信頼を積み上げるのは難く、崩すのは易い』っていう言葉、知ってる?」
痩せ男の隣に座る女が、更に責める。
浩一の周りの女達ほどではないが、妖艶な美女だ。
外見年齢は三十代くらい、物憂げな表情と左目の泣きぼくろが印象的だ。
「で、処分するのか?まだ使い潰すのか?」
もう一人が訊く。
その人物の容貌は異質だった。
小さい。
体格的には間違いなく子供だが、顔も台詞も大人のソレだ。
小人族だ。
「要らないなら儂にくれ。新薬の実験台が欲しかったんだ」
最後に言葉を発したのは、白衣の老人だった。
側頭部にのみ残る白髪から、それなりの年齢と推測できるが、全身から発する異様なまでの生気が歳を感じさせない。
痩せ男は黙考すると、
「好きにしろ」
と言い放った。
次の瞬間、チンピラ達のいた床が消失した。
落とし穴だ。
「では、儂はこれで。試薬が出来たら嬢ちゃんに回すでな」
「よろしく♪」
「さて、俺達の顔に泥を塗ってくれた奴には、しかるべき報いを受けて貰わないとな」
「俺の手下が探ってる。奴等の話を聞くに目立つ風貌だから、すぐに見つかるだろう」
奈落に吸い込まれるチンピラ達には目もくれず、四人は席を立つ。
犯罪結社『シャドゥストーカー』がギディアを標的として定めた事を、当の本人はまだ知らなかった。




